上田慎一郎監督、騙し合いの最新作「映画監督は優秀な詐欺師」

映画『アングリースクワッド』の上田慎一郎監督
2017年公開の映画『カメラを止めるな!』をきっかけにヒットメイカーとなった上田慎一郎監督が、初のメジャーキャストを迎えて制作した映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月22日より全国公開される。
同作は、真面目な税務署員・熊沢二郎(内野聖陽)が、天才詐欺師・氷室マコト(岡田将生)が率いる詐欺集団とともに、巨額の脱税疑惑がある大企業社長・橘大和(小澤征悦)を追い詰める詐欺計画に挑む物語。今回はそんな同作について、上田監督に話を訊いた(取材・文/田辺ユウキ)。
■ 内野聖陽らから出る「アイデアの量の多さと質の高さ」に驚き
──上田監督作品の大きな特徴は、これから世に出ていくような俳優を出演者として多数起用するところですが、今回は内野聖陽さん、岡田将生さんら、すでに広く知られている俳優が中心になっていますね。
いわゆるメジャーキャストを迎えて実写映画を作ったのは今回が初めてです。僕はこれまで、無名の俳優たちとリハーサルを入念に重ねながら映画を作るスタイルでした。この映画で同じことができるかどうか不安だったのですが、内野さんは初めてお会いしたときも「撮影前からがっつりとリハーサル、脚本の打ち合わせができるならやりたい」とおっしゃってくださったんです。それがすごく心強かったですね。

──すでに実績十分の俳優さんたちから得られるものも多かったのではないですか。
特に驚いたのは、出してくるアイデアの量の多さと質の高さ。それは決して、これまでの作品の俳優さんたちのアイデアの量が少なく、質が低いというわけではありません。ただ今回は俳優のみなさんが、僕がもともと考えていることや、現場に持っていくプランをより補強してくれる感じがしました。しかも、その提案のほとんどが正しいことばかり。また、台本の弱点も見落とさない。だから「そう言われたら、確かにそうですね」ということばかりで。
僕はいつも脚本を緻密に書いて、リハーサルも細かくやります。ただ、現場ではそういうものが壊れた方が、ライブ感が生まれてより良いものが撮れると考えています。だからがっちり固めたうえで僕自身でそれを壊していくことが多い。自分から「こうしてみようか」と予定にはないことを組み込んだりして。でも今回は、内野さん、岡田さんなど、みなさんからそういうものがどんどん出てきました。そこはこれまでの映画の現場とは異なる点でした。

──たとえばどういう場面でそれがあらわれましたか。
ネタバレにならないところで挙げれば、熊沢が「詐欺をする」と決めて最初の作戦会議に参加する場面。その場面の室内は、後列になるにつれて段差が上がっていく内装でした。最初は熊沢を前の座席に座らせていたのですが、内野さんは「いや、ここは後ろじゃないかな」と。
──実際にそういう配置になっていましたし、違和感もありませんでした。
内野さんはキャラクターの心情になりきり、きっと「なにか違うな、こっちの方がしっくりくる」となったんだと思います。あの場面ではそうやって熊沢が後ろの座席に変更されたので、氷室の動き方も変わりました。熊沢に「ある言葉」を言うために熊沢のところまで駆け上がっていくんですが、内野さん、岡田さんは「その方がおもしろいんじゃないか」と。そういう動きの部分とか、台詞とか、補強したところはたくさんあります。
■「氷室の言葉が、映画を作っている自分にも跳ね返ってくると感じた」
──それにしても今作然り、上田監督の作品には必ずと言って良いほど「嘘」がテーマとして出てきます。なぜそんなに「騙す」「騙される」が好きなのでしょうか。
確かに嘘を際立たせたところは韓国の原作ドラマ『元カレは天才詐欺師〜38師機動隊〜』にはない要素ですね。
──序盤、熊沢は氷室に騙される。そこでショックを受ける。そのやりとりがちゃんと効き目を持っていて、熊沢は「誰かに騙されるのはショックなこと」と認識しながら、それでも「ある目的」のために詐欺をする側にまわる。それだけ彼は「ある目的」を成し遂げたいのだということが分かります。
今のご質問で思い出したことがあります。それは、熊沢が最初は「事なかれ主義」だったこと。ハリのない毎日を過ごしていたけど、詐欺集団に入って嘘をつきはじめてから、いきいきとしていく。
脚本を書いていたとき、どっちが本当の熊沢なんだろうと思っていたんです。序盤の熊沢って、誰かを傷つける嘘はついていないけど、本当の自分を偽って生きています。でもそのあと、悪者である橘を成敗するために嘘をつき始める。そうすることによって、自分自身に嘘をつかなくなっていく。本音で生きるようになるんです。

──なるほど!
あと氷室が劇中「詐欺の基本は偽物を本物に見せること」という風に言いますが、それは映画というものにも当てはまる。そもそも映画って嘘の物語じゃないですか? 嘘をホンモノに見せる、それが映画。だから氷室の言葉って、映画を作っている自分にも跳ね返ってくるものだと感じていたんです。そして「この言葉の責任を持てるように、映画を作らなきゃ」となりました。
──そうそう。たとえばドキュメンタリーだって編集が加わるし、あとカメラを向ければ被写体は自然体ではいられない。つまり「すべての映像作品は嘘である」と言えますよね。
その嘘をいかにホンモノに見せられるかどうか、なんです。つまり映画監督って優秀な詐欺師じゃないとできないというか。でももちろん映画で嘘をつくのって悪いことではなく、時にはつらい現実をひとときでも忘れさせてくれるので、自分はそういう楽しい嘘みたいなものを映画のなかでついていきたいですね。
■ 怒りを隠して生きていくことに対する「待った」みたいな映画
──一方、熊沢の部下・望月さくら(川栄李奈)の存在も際立ちます。彼女は熊沢と違って、最初から自分に嘘をつかない。すごく誠実に生きている。だからこそ世の中をうまく渡れないところがあります。
僕は、熊沢と望月のどちらの立場も理解できます。若いときは、望月のように「とにかく正しいことをやっていこう」「理不尽なことは許したくない」と正義感に燃えていた。でも大人になると、自分を誤魔化す熊沢の生き方もすごく共感できる。大人になって、自分の生活や家族を持つと、そういう怒りをなかったことにした方が「割りに合う」ということも学ぶんです。

──その通りだと思います。
なにか意見を口にして、そこで激しい反論があったりすると「なにも言わない方が良かったんじゃないか」と思うことは誰だってあるのではないでしょうか。しかし一方で、怒りというものが社会を前進させてきたところは間違いなくある。割に合わないから怒りを隠してうまく生きていくことに対する、自分なりの「待った」みたいな映画でもあると捉えています。
──まさにその部分を伺いたかったんです。個人的な上田監督のイメージって、常に明るくて、なにがあってもエンタメで返す人だと思っていて。だからこそ『アングリースクワッド』というタイトルや、怒りを原動力とする今回の物語が意外だったんです。
これはあまり言っていないことなんですけど、もともとのタイトルは、原作ドラマの原題『Squad38』にならって『スクワッド30』でした。日本の納税義務が憲法30条にあたるからです。でも脚本を書いているとき、コロナ禍をきっかけに今まで伏せられていた闇や感情がみたいなものがSNSを中心に湧き上がっているように感じ、そこで『アングリースクワッド』にしようと思ったんです。
──そういう背景があったんですね。
世の中的に「これは納得できない」と思うこともあるし、あと誤解を恐れずにすごく細かいことを言いますけど、インタビューを受けているときも「いやぁ、もう少ししっかり質問を考えてきてほしいな」ということもあったり(笑)。
そういう、大きいアングリーから小さいアングリーまでいろいろ生まれることもあって。でもそのなかには、やり過ごしちゃいけないアングリーもある。そういうものだけは忘れちゃいけない。で、怒りを抱えた人たちのチームということで『アングリースクワッド』にしました。

──そういう怒りを作品として昇華させたところは、表現者として正しいことだと思います。
そういえば以前、石坂浩二さんが映画祭の場で「創作はここから生まれるんです」と腹の底に抱えている怒りから表現は生まれるという風におっしゃっていました。それがすごく印象に残っているんです。常日頃から意見として怒りを発信するのは大切なこと。一方で、怒りを蓄積してそれを作品としてあらわすのもクリエイターのあるべき姿かもしれないですね。
──そういった感情の部分を込めながら、しっかり娯楽性を込めているところがさすがです!
映画って、お客さんとの勝負だと考えています。先ほどお話したように、僕は詐欺師になったつもりで鑑賞者を騙そうとしています。特に今回の作品のようなときは、僕は先の展開を読まれないようしています。
でもみなさんは、先を読もう、読もうとしてほしい。それでも僕は、みなさんに先を読まれない自信はあります。だからぜひ、気持ちよく負けに来てください。こういう映画は、お客さんとしては負けた方がおもしろいはずなので!
◇
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月22日より全国公開される。
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
2024年11月22日(金)公開
監督:上田慎一郎
出演:内野聖陽、岡田将生、川栄李奈、森川葵、後藤剛範、上川周作、鈴木聖奈、真矢ミキ、皆川猿時、神野三鈴、吹越満、小澤征悦
配給:ナカチカピクチャーズ、JR西日本コミュニケーションズ
©2024アンリスクワッド製作委員会
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