るいやひなた「おむすび」見てる? カムカム再放送で伏線回収

7時間前

『カムカムエヴリバディ』より、るい(深津絵里)から回転焼きの作り方を教わるひなた(川栄李奈)(C)NHK

(写真9枚)

「思い出のワンシーン」というアンケートを募れば3000通近くの回答が集まるほど、本放送開始から3年経った今もファンからの熱い支持を受ける連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年後期/NHK総合)。11月18日より再放送がスタートするにあたり、作品にこめたメッセージを、制作統括の堀之内礼二郎さんに訊いた(取材・文/佐野華英)。

→【前編】カムカム再放送がスタート、今こそ響く「ひなたの道」というメッセージ

■『カムカム』はコロナ禍があったからこそ『カムカム』になった

──制作に着手された2019年時点ではコロナ前でしたが、制作の途中でコロナ禍になったことで、結末を変えたりしたのでしょうか。

制作のスタート時点で、脚本家の藤本有紀さんがこの物語の最初から最後までの全プロットを書いてくださったんです。私たちスタッフはそれをバイブルのようにして、ドラマ作りを進めていきました。

ひなた(新津ちせ/川栄李奈)が、子どものころ言えなかった「うちへ寄っていきませんか? 一緒に回転焼きを食べましょう」という英語をビリー(城田優)に向かって言う。この結末は最初のプロットの段階から変わっていませんが、その日付を、最終回放送日に合わせた2022年の春にするか、少し先の未来にするかは決まっていませんでした。

その後コロナ禍が始まり、いつ終わるともしれないウイルスとの戦いが続いていきました。早くワクチンができてコロナ禍が終わってほしい、そう願っていましたが、最後まで明ける兆しすら見えませんでした。そんななかだったので、ラストシーンを2022年春に設定した場合、現実に即すならば、ひなたとビリー、エキストラの方々も含め、全員がマスクをしていなければならなかった。

だからラストシーンは、願いもこめて「2025年春の、コロナ禍を乗り越えた未来」という設定にしました。最初のプロットから大きく変わったのはラストの日付と、そこへ持っていくために前段で、虚無蔵さん(松重豊)やひなたにマスクをしてもらってコロナ禍を描いたということですね。

『カムカムエヴリバディ』より、大部屋俳優の伴虚無蔵(松重豊)(C)NHK

──ラストシーンの構成としては変わってないけれど、ひなたとビリーがマスクをしていないということが大きな意味を持っていたと。

はい。企画の時には想像もしていないようなことが起きましたが、それすらも物語のなかに取り込んでいきました。『カムカム』はコロナ禍があったからこそ、『カムカム』になったんじゃないかなと、今では思います。

■ 再放送の最終回が「最後の伏線回収」に!?

──SNSで『カムカム』について、「伏線と回収が見事」「壮大な伏線回収」という感想を多く見かけますが、これについてはどうお感じですか。

多くの方にそういうふうに言っていただいて、とてもありがたいなと思っています。私たち作り手としては、驚かせてやろうと思って伏線を置いているというよりは、100年の物語のなかで登場人物たちがそれぞれの人生を生きた、その過程で起こったさまざまな出来事が、後ろを振りかえってみたら「こういうふうにつながっていたんだ」と感慨が湧く、というようなイメージで作っています。人生でもそういうことって、ありますよね。

『カムカムエヴリバディ』より、ひなた(川栄李奈)と五十嵐(本郷奏多)(C)NHK

言ってみれば、このたびの再放送の最終回が最後の「伏線回収」かもしれません。制作当時、いつコロナ禍が終わるかわかりませんでしたが「みんながマスクを外して笑い合える世のなかになってますように」と願いをこめて描いた「2025年の春」が、結果として半年後、実現しようとしている。「コロナ明けたね。私たちがんばったよね」という瞬間を、皆さんと一緒に迎えられるのはとても幸せなことですし、僭越かもしれませんが、これが「最後の伏線回収」になるのかなと思っております。

■「最終回を見るまでは生きたい」という人たちのために

──『カムカム』は、朝ドラの特性を最大限に活かした作品といいますか、1日15分×半年という積み重ねをとても大切にした作品という印象があります。昨今「タイパ重視」のエンタメもあるなか、こうした「じっくりと時間をかけて楽しむ作品」としての役割をどのようにお考えですか。

どのようにエンタメを味わうかは、もちろん見ていただく方の自由ですし、タイパ重視の楽しみ方もありだと思います。ただ、私が朝ドラに関わり、作ってきたうえで原点になった忘れられないエピソードがあります。

駆け出しのころ、ドラマ制作のために病院を取材させていただいた時に、看護師さんが病室を案内してくださったんですが、どの病室でも朝ドラをご覧になっていたんです。「私たちが取材に来るから気を遣ってチャンネルをNHKにしてくださったんですね」と冗談めかせて言ったら、看護師さんが「病院では、いつも朝ドラをつけているものなんですよ」とおっしゃるんです。理由をたずねると、「『明日の朝ドラの続きが見たいから、今日の手術をがんばろう』という思いで見ている方もいるんです」と。

それを聞いて私は衝撃を受けました。そんな思いで見てくださっている方がいらっしゃるのかと。それならもし「最終回を見るまでは絶対に生きたい」と思ってもらえるようなワクワクするような朝ドラを作れたら、どんなにいいだろうと思いました。真剣に、命をかけて朝ドラを見てくださっている視聴者の方がいる。そういう方たちのために、隅々まで思いを込めて、最高に面白い朝ドラを作っていきたいというのが、『カムカム』を作っている時に私自身がずっと抱いていた思いです。

『カムカムエヴリバディ』より、河川敷で稔(松村北斗)と話す安子(上白石萌音)(C)NHK

■ ジョー、るい、ひなた、アニーは『おむすび』を見てる?

──朝ドラフリークの雪衣(岡田結実/多岐川裕美)は、病室のテレビで『てるてる家族』(2003年後期)の最終回を見て亡くなったという設定でしたね。堀之内さんの心のなかでは今も『カムカム』の登場人物たちが生き続けているということでしたが、雪衣の「朝ドラフリーク・メイト」のジョー(オダギリジョー)は、現在放送中の『おむすび』を見ていると思われますか?

脚本の藤本さんを差し置いて勝手に想像するのも恐縮ではありますが、きっと見ていると思います。録画もして、あるいはNHK+で見ているかもしれません(笑)。るい(深津絵里)もひなたも、それからアニー(森山良子)もアメリカでNHKワールドプレミアムで見て、ビデオ通話で『おむすび』についてあれこれ言っているかもしれません。もしかしたら誰かはSNSに感想を投稿しているかも。離れていてもつながることができるというのが朝ドラの良さだと思いますし、あの家族はずっと朝ドラを愛し続けていると私は思います。

『カムカムエヴリバディ』より、浜辺にて一緒に海を眺めるるい(深津絵里)と錠一郎(オダギリジョー)(C)NHK

■ この先の未来もきっと「ひなたの道」がある

──最後に、再放送を楽しみにしている視聴者に、メッセージをお願いします。

このドラマを作っている間はコロナ禍で、物理的にも精神的にもなかなか人とつながれず、孤独や分断みたいなものを多くの人が感じていました。そして今も、生きづらさを抱えたり、孤独を感じている方は大勢いると思います。2024年から2025年にかけて再放送される『カムカム』を通じて、「あなたはひとりじゃないよ」ということを改めてお伝えしたいと思っています。

今あなたがそこに生きているということは、100年続いてきた年月があって、その先の100年にもつながっている。見ていただくみなさんの「今」というこの瞬間が、とても貴重であるのだということを、感じていただきたいです。

『カムカムエヴリバディ』は、明るい未来を願いながら生きてきた人たちの物語です。稔さん(松村北斗)が願った、「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる」が今、100%じゃないかもしれませんが、実現している世のなかです。だからこの先の未来もきっと、「ひなたの道」があるのだと、『カムカム』を見て、多くの方々に希望を持っていただければと願っています。

『カムカムエヴリバディ』の再放送は11月18日より毎週月〜金曜・昼12時30分から。本編に加え、11月13日〜15日に3日連続で放送された関連特番『0からわかる!カムカムエヴリバディ』『カムカムエヴリバディ あなたが選ぶ思い出のワンシーンTOP10 前編/後編』も、放送後1週間NHK+で視聴することができる。

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