珍しく朝ドラヒロインっぽい…! アスパラガスのスピーチ裏側

2024.12.6 08:15

『おむすび』第50回より、防災訓練の全体打ち合わせに参加する結(橋本環奈)たち(C)NHK

(写真2枚)

今週放送された連続テレビ小説『おむすび』(N H K総合ほか)第10週「人それそれでよか」では、「さくら通り商店街」がこども防災訓練を開催。結(橋本環奈)たちは炊き出しをおこうなうことになり、準備にあたりながら、商店街の人々は震災直後の避難所での生活を思い出す。

12月6日に放送された第50回では、震災で娘の真紀(大島美優)を喪った悲しみからなかなか立ち直ることのできない渡辺(緒方直人)に苛立ちを覚える美佐江(キムラ緑子)と、「立ち直る時間は人によって違う」と訴える聖人(北村有起哉)が言い合いに。それを止めようとした結の口から「アスパラガス!」と素っ頓狂なひと言が飛び出す。

しかし、その後に続く結の言葉は胸を打つものだった。アスパラガスもトマトもブロッコリーもらっきょうも、みんなそれぞれ育つ時間が違う。「野菜がそれぞれなように、人それぞれやないんかなって」と結は言う。それを聞いていた商店街の面々は、「わかるで」「わかるわ」と口々に言いながら、それぞれに震災後の来し方を噛みしめるのだった。

朝ドラのヒロインが「熱い長台詞」を発して、周囲の人たちが心を動かされる。結がこんなに「ヒロインらしい」ふるまいをしたのは、第1回で帽子を海に落とした少年のために海に飛び込んで以来ではないだろうか。このシーンについて、第10週の演出を担当した小野見知さんに聞いた。

■ キャスト全員と話し合いながら「温度感」を確認し合った

小野さんは、「ドライリハーサルの時点で、みなさんと『難しいシーンですね』とお話ししました」と話し、こう続ける。

「第10週の時代設定は2007(平成19)年。震災から12年が経っている、なおかつ全員大人である、ということを考えると、美佐江と聖人がかなり大きく感情をぶつけ合わないと、結が『アスパラガス!』と唐突に言う動機にはならないんですね。なぜこの温度感になったのかということを、美佐江役のキムラ緑子さんをはじめ、商店街のメンバーを演じるキャストのみなさんが、気持ちの動きを1つひとつ整理しながら、一緒に考えてくださいました。このシーンは、リハーサルもいつも以上に多くやりました」。

■ 全員が全員の痛みをわかっているからこそのシーン

珍しく「朝ドラヒロインらしい」結の「スピーチ」と、その後のシーンについて、小野さんは「私も、結がまさに『ヒロインっぽい』シーンだな、と(笑)。でも、終わりに『すいません、うち、変なこと言いました』と加えるのがなんとも結らしいし、『おむすび』らしいと思います」とコメント。

続けて「結のなかでも咀嚼しきれていない思いを、つたない言葉で一生懸命に言う。そして、彼女を見守ってきた商店街の大人たちが口々に『わかるで』と言うシーンは、撮影しながらジーンとしました。結を子ども扱いしたり、甘やかしての『わかるで』ではなくて、結、聖人、美佐江、それから商店街の全員が、お互いの痛みをよくわかっている。だからこそ、結の飾らない言葉が響いたんだと、撮りながら私自身も改めて理解できたシーンでした」と振りかえった。

キムラ緑子演じる美佐江(C)NHK

■ キムラ緑子は本番前まで「美佐江は泣かない」と言っていた

商店街の面々がしみじみと「わかるで」「わかるわ」と口にするなか、美佐江だけは何も言わず、しかし一筋の涙が彼女の頬をつたう。これは台本のト書きにあったのだろうか。

小野さんは、「キムラさんは本番前に、『美佐江はこういう場面で泣かないと思う』とおっしゃっていたんです。ト書きにも『黙って聞いてる美佐江、そして聖人』としか書かれていません。けれど本番では、結の『アスパラガス!』からの台詞を受けて、美佐江の頬に涙が『つーっ』と。カメラを止めた後、キムラさんは『泣いちゃったけど、あれでよかったですか?』とおっしゃっていましたが、私は編集であの涙は入れたかったんです。これまで美佐江が堪えて、必死に踏ん張ってきたからこその涙だと思うので」と語った。

「こども防災訓練」当日、結の作った「わかめおむすび」を渡辺が食べて、最初の一歩を踏み出した。『おむすび』は、それぞれが、それぞれの速度で、過去の震災と向き合っていく物語。次週、第11週「就職って何なん?」では、結たち栄養専門学校・J班の面々が、就職活動に奔走する。

取材・文/佐野華英

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