最強の源氏物語オタが見抜いた、「物語」の役割【光る君へ】

14時間前

『光る君へ』最終回より。寄り添いあうまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)(C)NHK

(写真6枚)

1000年の時を越えて読み継がれる長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。12月15日放送の最終回「物語の先に」では、女性文学が花開いた時代の「物語」の役割について、菅原孝標の娘のオタトークやまひろと道長の最後の語らいを通して浮き彫りになった。

■ 道長の魂をつなぎとめるために…最終回あらすじ

物語を書くことを止めたまひろの家には、のちに『更級日記』を記すことになる「菅原孝標の娘」ことちぐさ(吉柳咲良)が遊びに来るようになっていた。ちぐさはまひろが当の作者とも知らず、光る君や作品の批評を熱心に語る。入れ違いでやって来た「清少納言」ことききょう(ファーストサマーウイカ)は、自分たちの書いた文章は政を動かしたと振り返り「たいしたことを成し遂げたと思いません?」と、まひろと笑いあった。

『光る君へ』最終回より。道長に物語を語り聞かせるまひろ(吉高由里子)(C)NHK

まひろは藤原道長(柄本佑)の嫡妻・倫子(黒木華)に呼び出され、道長の魂をつなぎとめるよう乞われる。道長に「新しい物語があれば、それを楽しみに生きられるやも」と言われたまひろは、子ども時代の道長を主人公にした物語を、少しずつ語り聞かせるようにした。しかし道長の反応は、少しずつにぶくなっていく。あるとき、自宅で文机に向かったまひろは、ふと自分の名前を呼ぶ道長の声を聞き、その死をさとるのだった。

■ 女性文学者たちが才能を発揮できたのは…菅原孝標の娘が見抜く

紫式部(まひろ)や清少納言(ききょう)をはじめ、数多くの女性文学者たちが誕生した平安時代中期。世界的に見ても類まれなムーブメントが生まれたのは、「随筆や物語には政治を動かす力がある」と権力者たちが判断したからというのが、『光る君へ』では描かれていた。文章を書くうえで決して欠かせない、当時は高価な「紙」が存分に与えられる環境でないと、彼女たちはその才能を発揮できなかった・・・という説が、近年唱えられるようになったからだ。

『光る君へ』最終回より。『源氏物語』について熱心に語る「菅原孝標の娘」ことちぐさ(吉柳咲良)(C)NHK

それゆえにまひろもききょうも、作家としてのライバル意識というよりも、お互いのバックに着いた政治家の動向によって、その関係を崩しかけるというシーンもあった。女性たちによる華やかなカルチャーは、結局は男の思惑によって動かされていた・・・ということを、このムーブメントの最終走者ともいえる菅原孝標の娘(ちぐさ)が「男たちに好評でなければ、これほど世に広まりません」と看破したのは、さすがの感性だろう。

ただ、ちぐさがまひろを『源氏物語』の作者本人とは知らず、作家の気持ちを勝手に分析するシーンには、SNSで「おそらく日本史上初のヲタク。源氏物語のヲタクの考察を作者にするという展開www」「目の前の老婆が推し作品の作者だと知ったら・・・」「ぎゃぁぁ作者目の前に知らずに語るなんて恥ずかしすぎて死ぬやつ!! 一生知らないでいてあげて!」「事実を知った時の黒歴史化がスゴイ事になりそう」など、特に身に覚えがありそうな人たちからの悲鳴が上がっていた。

『光る君へ』最終回より。写真左から、笑い合うまひろ(吉高由里子)とききょう(ファーストサマーウイカ)(C)NHK

さらに、そんなちぐさとすれ違ったききょうとは「私たちが政治を動かしたのよね」「水や米と同じぐらい書物は大事よね」と、自分たちの功績を確かめ合うようなトークを。これにもSNSは「語らえる仲に戻ってるの見られるのはうれしい」「こんな風に語り合っていた姿が史実でもあったらいい、あったかもしれない、そんな夢を見させてくれる、最高のシーン」「全古典マニア・全歴史オタクの夢の光景が叶った瞬間」などの声が上がっていた。

■ 道長のためだけに物語を紡ぐまひろ…『光る君へ』らしいラスト

かように「実は政治的思惑に動かされていた平安女流文学」のエグさを見せてきた『光る君へ』だったが、最後の最後にまひろが道長のためだけに物語を紡ぐことで、文学は人を教え、導き、時には救い出す、まさに「水や米と同じぐらい大事」な存在であるということを見せつけるのは、さすが「文学大河」をうたう『光る君へ』らしい落としどころだった。現代最高の作家が、自分のためだけに作った物語を語ってくれるなんて、道長の「まひろLOVE」を抜きにしても、至福の時間だったはず。

『光る君へ』最終回より。まひろが語る物語に耳を傾ける道長(C)NHK

その物語を明日も聞きたいという気力で、道長は晩秋から真冬までを乗り越えることができた。きっとそのときに見ている夢も、自分がこれまで犯してきた罪を見せつけられるようなものではなく、「身分を捨ててまひろと一緒に生きる」人生がどういうものかを想像する、まさに夢のような時間だったのではないかだろうか。道長がおだやかな顔で逝けたのも、まひろの物語が道長を照らす最後の光となっていたからだ・・・と思いたい。

『光る君へ』最終回より。重なりあうまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の手(C)NHK

そして女性の文学が注目される時代は、武士の時代の到来とともに完全に終えんし、女性が作る歌や物語が再び日本文化のなかで脚光を浴びるのは、与謝野晶子や樋口一葉などが登場する大正時代まで待たねばならない。800年にもわたって「失われた時代」がつづいていたことに改めて愕然とするけれど、道長全盛期のわずか10数年の間にあれだけの文学作品が生まれたことが、日本史のなかの奇跡中の奇跡だったのかもしれない。

12月29日には『光る君へ』総集編(全五巻)が午後0時15分から放送される。次の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、横浜流星主演で、江戸時代のメディア王・蔦重こと蔦屋重三郎の波乱の生涯を描く。2025年1月5日から、NHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。第1回の放送は、15分拡大版でお送りする。

文/吉永美和子

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本