シャッター通りの街を救ったのは? 特化することで観光資源に

2025.1.3 09:00

かつてはシャッター街だったとは思えない! 続々と観光客が訪れている(黒壁スクエアの公式Instagramより)

(写真6枚)

2016年にユネスコ 無形文化遺産として登録された「長浜曳山祭」で有名だが、かつてはその祭りの存続さえも危ぶまれるほど廃れていた滋賀県長浜市。商店街はシャッター通りと化し、日曜日の昼間でも人通りはわずかだった街が、今や滋賀屈指の観光名所に。果たして、賑わいを取り戻すことになったきっかけとは?

■ 日曜日の人通りが1時間で4人と犬1匹だけ

長浜の地は豊臣秀吉が初めて城持ちの大名になって以降、城下町として栄えたことでも有名。秀吉が男児の出生を祝って町民に振る舞った砂金をもとに各町が曳山をつくり、八幡宮の祭で曳きまわしたのが始まりとされるのが伝統行事「長浜曳山祭」だ。

黒壁スクエアは、明治33年に第百三十国立銀行長浜支店として誕生し、当時「黒壁銀行」と呼ばれていた。昭和29年に長浜カトリック教会に(当時の教会開始時の写真・黒壁スクエア公式サイトより)

そんな歴史のある街だが、郊外に大型のショッピングセンターができた昭和の終わり頃から商店街を訪れる客が激減。衰退の一途をたどり、曳山祭の期間中は観光客が訪れるものの、ふだんは人通りがほとんどなくなっていた。

ある日曜日、地元の商工会が商店街の人通りを調査してみたところ、1時間で人が4人と野良犬が1匹しか通らなかったほどの寂れようだった。

そのような状況のなか、かつて黒い壁が特徴的で町の人たちから「黒壁銀行」と呼ばれていた旧国立銀行の建物を取り壊す計画が持ち上がっていた。長らく長浜のシンボルだった建物を保存・活用するため1988年4月に第三セクター「株式会社 黒壁」が設立された。

■ ひとつの工芸に特化した結果…

主力事業をガラス工芸と決め、空き家になっていた旧国立銀行の建物をはじめ、空き店舗を活用したガラス工芸の工房やショップを運営。旧国立銀行の建物は建設当時の黒い壁に戻し、黒壁ガラス館を中心としたエリアを「黒壁スクエア」として観光客の誘致活動を展開した。

ガラス工芸のギャラリー、ショップ、ガラス工芸体験など、ガラスに関してあらゆることを見たり体験したりできるエリアとなった「黒壁スクエア」。ショップでは、ガラス工房で製造され同施設でしか手に入らないガラス製品が多数取り揃えられ、お土産としても人気に。

今は年間を通して観光客が訪れるようになった黒壁スクエア(2023年1月撮影)

「風情ある街並みとガラス工芸の美が合わさった美しいガラスの街へ」という計画に向けて2023年から段階的にリニューアルをおこなっており、その一環として2024年10月に「glass&sweets 96cafe」を新装オープンした。店内は華やかにガラスと花で彩られて、撮影すると映える店内に。観光客のSNS投稿を通じてアピールできるスポットとなり、「攻め」の姿勢を貫き続けている。

「黒壁のガラスを見に来ていただくことはもちろん、長浜曳山祭やその他の伝統文化にも触れていただきたいです。また、琵琶湖など自然の豊かな街でもありますから、皆様が旅の選択肢として長浜を選んでいただけるように願っております」(株式会社黒壁広報室・佐藤泉さん)

ひとつのことに特化する取り組みが功を奏し、長浜の街は息を吹き返した。黒壁ガラス館は今や長浜のシンボルとなり、平日にも多くの観光客が訪れている。そんな長浜のガラス工芸をきっかけとした、新たな産業の創出、観光客の誘致、街の活性化などは町おこしの成功事例としてほかの都道府県からも注目されるようになっている。

ショップには多様なガラス製品がそろう

「黒壁スクエア」はJR長浜駅から徒歩約5分、北陸自動車道 長浜ICから自動車で約10分。営業時間は店舗により異なる、詳細は公式サイトやXやインスタグラム(共に、@kurokabesquare)にて。

取材・文・写真/平藤清刀

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