男性ブランコ「6割でいい」…大王からの救いの言葉、舞台への思い

2025.1.22 20:00

左から男性ブランコの浦井のりひろ、後藤ひろひと、男性ブランコの平井まさあき

(写真7枚)

演劇サークルで培った高度な演技力を活かしたコントで人気を博す、お笑いコンビ・男性ブランコ(浦井のりひろ・平井まさあき)。2人がリスペクトするのが、大阪を拠点に、数々のコメディの舞台を生み出してきた後藤ひろひと(通称:大王)だ。そんな3人が今年2月、劇団ひろひょう『荒波次郎』(2014年)以来の共演を果たす。

その舞台が、後藤の最高傑作と言われながらも、初演から25年間も封印されてきた『FOLKER』(フォーカー)だ。女性死刑囚×フォークダンスという異色のコメディに向き合う意気込みや、男性ブランコが後藤や演劇から受けた影響について、話を訊いた。(取材・文/吉永美和子)

■ 演劇を離れようとするも「大王の稽古が楽しくて」(浦井)

約10年振りに共演する3人

──男性ブランコと後藤さんの関係ですが、平井さんは後藤さんのワークショップの生徒だったそうですね。

平井 大学の演劇部の先輩が『ダブリンの鐘つきカビ人間』と『人間風車』を教えてくれて「むちゃくちゃオモロイやん!」ってなったんですよ。切なかったり、ホラーだったりするけど、それを振りにした笑いもあって、お笑いとしてもおもしろいから、なんなんだこれ? って。そこから演劇を観るようになって、大王のワークショップも受けに行きました。

後藤 それが終わっても、一緒に呑みにいったりしてね。なんかうちでさ、朝までワールドカップを応援して、一緒にブブゼラ吹いたりしていましたよ(笑)。

浦井 僕も平井からDVDを貸してもらったんですけど、めっちゃくちゃおもしろかったですね。『荒波次郎』でご一緒したときも、すごく楽しかったです。

平井 僕らと(共演の)堀川絵美(現:蟹々々エミ)は「台詞をちゃんと覚えなきゃいけない」と思って、稽古に入る前から練習してたんです。そうしたら「初日から全部覚えてくるなんてやめなさい。これから作っていくんだから、固めてきちゃダメ」みたいなお叱りを受けたのを、よく覚えています。あとは、コメディを作る現場は楽しくあらねばならないということ。やっぱり楽しいもの、笑いがあふれるものを作るんだったら、稽古場もおもしろくしないといけないという、心構えみたいなものも学びましたね。

浦井 僕は大学の演劇サークルに入ったんですが、そこの芝居づくりがストイック過ぎて、1年で疲れ果てて辞めちゃったんです。それで「演劇はもういいかな」と思っていたけど、大王の稽古はすごく楽しくて、みんなほがらかで、演劇に抱いていた恐怖心みたいな感覚を、全部取っ払われました。「演劇は楽しいものなんだよ」というのを教えてもらったし、自分たちのコントも楽しく作った方がいいなって。

平井 (男性ブランコの)ネタは僕が書いて、稽古で一緒に固めていくという作り方ですけど、ケンカもしないし、笑ったりしながら作ってます。

後藤 『荒波次郎』で浦井君が演じたウエイターって、すっごく大事だけど、芸人はやりたがらない役だったんですよ。笑いを取るような場面がないから。でも彼はすごく真剣にやってくれて、とってもありがたかった。あのときは言わなかったけど、浦井君がいなかったら『荒波次郎』は成功してなかったね。

作中にも登場する「フォークダンス」以外でダンスを取得するとしたら?「俺が興味あるのは、男性のフラ。女性のフラと違って、どっかに力強さがあるんだよね」

浦井 えー! ありがとうございます。そんな・・・うわっ、初めてそんな・・・。

平井 10年ごしに聞けたね。

後藤 でも今、男性ブランコの評価がどんどん高まっているのは、あの頃からさらに演技力が上がっているからだと思う。設定はシュールでありえないけど、そこにちゃんと人間の心を見せられるようになっているから「なに考えて、この人ら本気でこれをやってるの?」ってシュールさが、よりおもしろくなってるんだろうね。

■ 「2人ともものすごく大事な役だから」(後藤)

──そうして再び『FOLKER』で相まみえるわけですが、そもそもこの作品はなぜほかの後藤作品のように、再演をされることがなかったのでしょうか?

後藤 「これをやらせてくれ」という話は、俺のどの作品よりも一番あったの。でも「この脚本は誰にも触ってほしくない。どうしても俺が(演出を)やりたい」というのと、「遊気舎(注:初演の劇団)よりも少しでも小さな規模になるなら、やる意味がない」というので、ずーっと待ってた脚本だった。今回ようやく、その2つがクリアできたわけ。

──フォークダンスがレクレーションとなっている女性死刑囚たちが、フォークダンスバトルに参加するなかで、様々な事件や別れに遭遇するとか、改めて見るとすごい設定です。

後藤 たしか遊気舎の誰かが、フォークダンスのイベントをやったんだよ。ウケ狙いでやったはずなのに、お客さんがすごく幸せそうに観ていたから思いついたんじゃないかな。バトルにしたのは、その当時総合格闘技が注目されはじめて、年末のテレビは全部格闘技だったから、フォークダンスもバトルにしたらおもしろいんじゃないか? って。

──男性ブランコさんの出演は、後藤さんの推薦だったんですか?

後藤 吉本からの提案です。俺の作品には欠かせない(遊気舎の)久保田浩が出られなくなって、どうしよう? ってなったときに、吉本が出した候補のなかに、今をときめく音符運びがいた(笑)。

浦井 それが職業ではないです(笑)。

──久保田さんが演じる「羽曳野の伊藤」は、大王作品には不可欠な飛び道具キャラですが、音符運びなら代打としては十分すぎますね。

平井 音符運びではないです!(笑)「ねじ武史」という、僕のパラレルワールドのキャラクターがいまして。以前ドキュメントみたいな作品で出したことがあったんですけど、よく覚えてましたね。素の平井っぽいキャラなので、そのままでいいのかどうか。

作中にも登場する「フォークダンス」以外でダンスを取得するとしたら?「僕が憧れるのはジャズダンスですね。めっちゃキレイな動きで踊りたいから、学ぶならこれがいいです」

後藤 そこは稽古しながら、いろいろ考えるつもり。君、踊るからね? 無敵のフォークダンスチームの一員になることは決まってるから。ほかのメンバーはみんな「ダンスができる」という理由で選ばれてるよ。

平井 えー! 僕、マジでダンスできないんですよ。ちょっと・・・どうしよう。

後藤 それで浦井君は、この物語を追いかけるゴシップ雑誌編集員。『荒波次郎』のウエイターと同じように、正直に台詞を出してもらえたら「ハートは俺が書いてますよ」というのを預けられると思うので。2人ともものすごく大事な役だから、M-1(グランプリ)やってる場合じゃない!(笑)(注:取材はM-1グランプリの直前)

浦井 いやいや、やらせてくださいよ! まだチャンスはあるんですから。

──この舞台の初演を観ているんですが、フォークダンスがめちゃくちゃカッコいいし、絶妙なところで泣かせどころがやってくるし、最後の最後に思いがけないどんでん返しがあったりと、本当に「伝説」にふさわしい作品だった記憶があります。

平井 こんなん申し上げるのもアレですけど、むちゃくちゃおもしろいです! チラシにも書いてある「笑ってくださーい」って台詞からのもう一展開が、本当にヤバいですよ。

後藤 フォークダンスはなにが大事かっていったら、楽しく踊ること。どんなにつらくても笑って踊れる人たちが、どれだけ強いのかというのを見せる話なんです。今回は初演よりダンスを増やして、しかも「河内音頭のリズムでオクラホマミキサーを踊る八尾のチーム」とかのネタも入れてるので、ダンスシーンはストーリーと同じぐらい見せ場になるだろうね。

■ 「稽古で6割、今もコントを作る上で実践」(平井)

──男性ブランコさんのコントで、後藤さんの教えが生きているところは「楽しく作る」以外にも、なにかありますか?

平井 「稽古で6割作る」ですかね。稽古で完ぺきにするんじゃなくて、あとの4割はお客さんと一緒に作るものだと後藤さんに教えていただいて。お客さんの前で披露して、そこで10割にする・・・という言葉にめっちゃ救われましたし、今もコントを作る上で実践しています。

──それでいうと浦井さんが昔いた演劇サークルも、10割完成させるタイプだったと。

浦井 そうでしたね。だから「6割でいい」というのは気楽です。

作中にも登場する「フォークダンス」以外でダンスを取得するとしたら?「社交ダンスですかねえ。僕が違う世界線で生きてたら、やっていそうだなと。スーツを着て、カッチリ踊るのは似合いそうなので」

平井 でもそっちの方が、逆にモチベーションが上がるんですよ。「お客さん、どう来るかな?」という気分でいると、視野が広がるような気がする。

後藤 やっぱりこっちが思ってもないところで笑いが来たりとか、こっちが絶対と思ってるところで全然笑わないとかあるから、お客さんと作って完成するしかないんだよね。

浦井 それとコントって、一回披露したらそれで終わることが大半なんです。でも演劇は上演をいっぱいやるなかで変化していって、さらにそこから作っていくことができる。いっぱいやる意味ってそこにあるのかな? と思うし、僕らはそれが楽しいので、これからも演劇をやっていきたいですね。

後藤 そのためには、まずはM-1で勝たないことだね(笑)。

昔なじみならではの和気あいあいとした雰囲気

──では最後に、今現在「フォークダンスの芝居ってどんなもんよ?」と思っている読者に、背中を押すような言葉をお願いします。

後藤 あなたの「どんなもんよ?」の想像をはるかに超えた、フォークダンスの世界をお見せすることには、絶対になると思います。だからこそ、(初演から)25年経っても話題作として提供できるんだと思っているので。音楽もダンスも、実際にその場にいないと伝わらないと思うので、ぜひ観てほしいですね。

平井 僕がフォークダンスをがんばってます。赤ちゃんフォークダンサーから、小学3年生ぐらいのレベルにしたいなあ。

後藤 いやいや、もっと行け!(笑)

平井 大学は出たい(笑)。僕が大人になる様を、がんばってお見せしたいというのと、やはり「どういう人生を歩んだら、こんな設定が思い浮かぶんだ?」っていう、この物語が好きですね。フォークダンスを通じて、物語を味わっていただきたいなと思います。

浦井 昔大学の先輩が「演劇は総合的な芸術だ」って言ってたんですけど、多分そのことを一番感じてもらえる舞台になると思います。すごく魅力的なストーリーと、フォークダンスというエンターテインメントを一度に浴びれるんだから、とんでもない舞台になるんじゃないかと。僕自身がその完成をワクワクしながら待っている1人だし、ぜひ一緒に体験してほしいなと思います。

左から男性ブランコの浦井のりひろ、後藤ひろひと、男性ブランコの平井まさあき

『FOLKER』は2月14日〜23日、「堂島リバーフォーラム」(大阪市福島区)にて開催(19日のみ休演)。チケットは6000円、現在発売中(全席指定、未就学児入場不可)。

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