「べらぼう」な蔦重像に胸アツ、スマホ狐も話題に【コラム】
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。1月5日放送の第1回「ありがた山の寒がらす」では、重三郎が人のために世の中を変えようとする、その原点が描かれる内容に。その一方、語りの綾瀬はるかの思いがけない役割に、SNSが冒頭から盛り上がった。
■ 多くの女郎たちが困窮する現状に、重三郎は…第1回あらすじ
時は江戸時代・安永2(1773)年。前年の「明和の大火」による焼失から復興した幕府公認の色街・吉原は、江戸の各所にある非公認の岡場所や宿屋に客を取られて往年の勢いを失い、多くの女郎たちが困窮している状態だった。その惨状に心を痛めた蔦屋重三郎は、育ての親・駿河屋市右衛門(高橋克実)をはじめとする、引手茶屋や女郎屋の主人たちに救済を求めるが、一切聞く耳を持ってもらえずに追い出される始末。
岡場所や宿屋の警動(取締)を訴えるため、奉行所まで押しかけた重三郎に、長屋の厠で会った男(安田顕)は、幕府の老中・田沼意次(渡辺謙)に会うことを勧める。商人・和泉屋(田山涼成)の付添のふりをして田沼との面会に成功した重三郎は、逆に「吉原に人を呼ぶ工夫が足りぬのでは」と問われる。その後市右衛門たちからの折檻にあい、三日三晩桶に閉じ込められた重三郎は、吉原の細見(案内書)に工夫を凝らすことを思いつくのだった。
■ 語り・綾瀬はるかがサプライズ登場、驚きの仕掛け
『源氏物語』という不朽の名作を記した作家・紫式部が主人公の『光る君へ』につづいては、江戸時代の出版界に革命を起こした蔦屋重三郎・・・と、2年連続で文化系の偉人が主人公になった今年の大河ドラマ。蔦重が発明したプロデュースのアイデアは、今現在のマーケティングにも活かされているし、彼が企画・編集した娯楽小説や浮世絵の数々は、日本のサブカルチャーの原点と言えるものとなっている。
そんな風に、未知なようで実は案外身近な蔦重さんの人生を、吉原の守り神「九郎助稲荷」としてナビゲートする語りは、2013年の大河ドラマ『八重の桜』の主人公・新島八重を演じた綾瀬はるかが担当。当初は声のみの出演と思われたが、いざドラマがはじまると、花魁に化けた狐としてサプライズ的に登場! しかもスマートフォンを使いこなしながら、吉原のことをわかりやすく解説するという、二重三重に驚きの仕掛けを見せてきた。
これにはSNSも「まって、いきなりお稲荷さんが美女になったんだけど・・・スマホつかってる・・・(混乱)」「今や紙の地図よりスマホの方がよっぽど身近だもんなあ」「(花魁の)影が狐になってるのも細かい演出」「いいよいいよ、狂言回しがはっちゃける大河にハズレなし。スマホ最高」「俺たちの受信料が狐娘遊女綾瀬はるかに化けたぞ。分かるかこれが受信料の正しい使い方だ」などの絶賛の言葉があふれた。
■「ドラマの牽引力になりそう」横浜演じる蔦重の明るさ
そして我らが主人公・蔦屋重三郎だが、実は正確な人となりはそれほど伝わっていない。しかし『べらぼう』では、同時代の作家たちからのわずかな証言と、数多くの人を自分のペースに巻き込まなければ成し遂げられない業績の数々を総合して、非常に人懐っこくて頭の回転も早く、そしてなによりも「自分のためではなく、人のために行動できる」(横浜談)キャラクターに設定された。それに加えて、いかにも江戸っ子らしい明るさとキレのいい悪口のセンスも、視聴者を惹きつけたよう。
SNSでも「主人公、行動力の化身だな」「地雷原に突撃するけど、本人の立ち直りが異常に早くて、落ち込むことなく次の手を繰り出してくるの、素直に凄い」「溌剌としてまるでアニメの主人公みたい。ふつうの時代劇なら浮いてしまう演技かも知れないけど、その明るさがこのドラマの牽引力となりそう」「横浜流星さんの顔の演技がすごい。浮世絵で見る歌舞伎役者みたいな表情する」「声に出したい日本語『鼻から屁の出る病になりゃいいんだ』」などの高い評価が集まった。
■ スキがない物語の展開! 小気味の良い初回となった『べらぼう』
さっそく「吉原を良くするには、ほかの色街を取り締まってもらえばいい!」と行動に出た蔦重。そんなまだまだ無知&世間知らずな彼に「岡場所や宿屋を野放しにしているのは経済を回すため」「吉原に人が来ないのは上層部の搾取と怠惰」とド正論を突きつけたのは、この時代のもう一人の主役と言える田沼意次その人! 第一話からトップのボスキャラに世間の真理を教えてもらうという、すでにクライマックスな展開に、SNSの興奮は最高潮に。
「渡辺謙の『話が通じる偉い人』像としての説得力」「小悪に目をつむり大善を為す・・・! それが田沼の政」「重三郎の言葉を茶化したり、暴力で断ち切ることしかしない女郎屋の主人連中と違い、理由を説明して言葉でやりこめた」「放送第一回から賄賂を受け取る黒さと、マクロな視点で国益を考え主人公にこの先の道を指し示す超有能ご老中様の風格がすごい」などの感嘆するような言葉が続々と。
その結果重三郎は、細見になんらかの工夫を凝らすことで、吉原に人を呼び戻すというアイデアを、お仕置きとして閉じ込められた桶の中で思いつく。当時の細見は、ただお店の名前&所属する遊女の名前が記してあるだけの、味気のないものだったという。そこに重三郎が、どのような要素を+αしていくのかは、来週で詳しく語られるだろう。
それにしてもこの策を思いついたのが、意次からのアドバイスに加えて、吉原の客の動向を桶の中で観察できたから・・・というのは、本当に物語の展開にスキがない。さらに、創意工夫されたキャラクター作り&そのキャラに俳優たちがビシッとハマっていく姿を確認できる、非常に小気味の良い初回となった。このスッキリさわやかさに、吉原&幕府政治の闇というビターテイストが、複雑な味わいを与えてくれるであろう『べらぼう』。今年の大河も、1年間の並走が実に楽しみだ。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。1月12日放送の第2回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」では、ガイド本で客を呼び寄せる案を思いついた重三郎が、序文の執筆を依頼するために、才人・平賀源内探しに奔走する姿を描く。
文/吉永美和子
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