生田斗真がすでに不穏…「御三卿」の役割って?【べらぼう】

20時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第2回より。写真左から、一橋治済(生田斗真)、田沼意次(渡辺謙)(C)NHK

(写真4枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。1月12日放送の第2回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」では、田沼意次が実権を掌握しつつある、この時代のお金や後継者選びのシステムについて語られる場面が。今後のドラマを楽しむためにも、この時代の政治・経済の背景を今一度確認しておこう。

■ 治済の軽々しい言動を非難する賢丸は…第2回あらすじ

老中・田沼意次(渡辺謙)と直談判した重三郎は、吉原に人を呼ぶために、細見(案内書)を改めることを思いつく。その頃の意次は、武家の報酬を年貢(米)に頼るという今の制度を見直し、金の手綱を武士が握り直すという方針を立て、そのために全国で統一して使える銀貨を大量に作ろうとしていた。しかしその考えは、老中首座・松平武元(石坂浩二)のような古株の幕臣には疎んじられる。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第2回より。写真左から、田安賢丸(寺田心)、一橋治済(生田斗真)(C)NHK

そんななか「御三卿」の1つ、一橋家当主の治済(生田斗真)に、嫡男・豊千代(のちの徳川家斉)が誕生。その祝いの席で田安家当主の弟・賢丸(のちの松平定信/寺田心)は、治済の軽々しい言動を非難し、武士は学問と武芸に精進するべきと叱責する。一方の重三郎は、鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の元で、平賀源内(安田顕)の序と、最新の情報を掲載した細見を完成させたのだった。

■ 田沼意次が声を上げた、武士とお米とお金の関係

大河ドラマの舞台としては初となる、江戸時代の半ば頃。時代劇ではおなじみの時代ではあるけれど(『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵(中村隼人)が吉原で遊んでるし!)、その頃の将軍家のお世継ぎ事情がどうなっていたのかとか、お金って小判ぐらいしか知らないんだけど? とか、政治・経済の詳細については、いまいち理解してなかったように思う。

チャンチャンバラバラの時代劇なら「その辺りの細けえことはいいんだよ!」で済んだけど、蔦屋重三郎を語るうえでは、意外と江戸の暮らしのバックグラウンドは押さえておいた方がよさそう。ということで、筆者自身の整理も兼ねて、今回語られた江戸時代の武士の特殊な給与事情とか、将軍家後継ぎのスペア事情なんかも確認していこう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第2回より。写真左から、松平武元(石坂浩二)、松平康福(相島一之)、田沼意次(渡辺謙)(C)NHK

まず前半で、田沼意次自身が割と丁寧に説明してくれた、武士とお米とお金の関係。当時の経済の大本は「石高制」のため、米=金という扱いだった。特に武士の家禄は基本的に米で支給されるので、その米を米屋に買い取ってもらった現金で、必要な物を買うことになる。そのため武士たちの収入は、米屋が定めた米の値段次第となるのだ。そしてこの頃は農民たちの努力によって、米の生産量が大幅にアップしたのにともない、買取価格が著しく下落。武士たちの暮らしは、どんどん苦しくなっていく。

そのために現将軍の祖父・徳川吉宗(暴れん坊将軍!)の時代から、幕府は米の価格を上げる努力をつづけていたけど、それに対して「もう限界じゃないですか?」と言い出したのが、田沼意次だった。米をどうこうするよりも、ほかの商いをもり立てて幕府の現金収入を増やす方向に、舵を切り替えたのだ。多分これは「日本の通貨を円じゃなくてドルにしましょう」に近いほど、当時の武士の価値観を揺るがす方針だったはず。武元さんがあれだけ声高に反対するのも、こう考えたら致し方ないと思える。

その経済改革の中でも目玉と言えるものが、源内が重三郎に説明していた銀貨「南鐐二朱銀」。当時の日本は、江戸は金(きん)、関西は銀での取引に分かれ、しかもその交換比率も曖昧なものだった。そこで意次は「この銀貨8枚で金小判1枚」という、はっきりとレートがわかる共通の貨幣を作り出して、東西の商いをスムーズにすることに成功した。若い人たちは知らないだろうけど、昔のヨーロッパは国ごとに通貨が違っていて、それが1990年代の終わりからユーロへの統一が進み、今に至っている。それと同じ現象が、昔の日本でも起こっていたと考えるとなかなか面白い。

■ 最大のキーマンとなりそう…生田斗真演じる一橋治済

また「御三卿」は、ナレーションでも説明されていたけれど、将軍からお世継ぎが生まれなかった場合、この家のいずれかの男子を後継にするというシステム。これはもともと水戸・尾張・紀州の「徳川御三家」が担っていたけど、吉宗以降は田安・清水・一橋の「御三卿」も誕生。これは吉宗自身が宗家の血筋断絶により、紀州徳川家から将軍になったという経緯があったため、備えをより強化したと同時に、吉宗と対立した尾張徳川家の立場を弱める狙いもあったと思われる。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第2回より。完成した『吉原細見』を手に満面の笑みを浮かべる蔦屋重三郎(横浜流星)(C)NHK

この御三卿、ここからしばらくすると割と激しめの跡目争いが起こってくるので、それもまた蔦重のサクセスストーリーと並行して語られることになるだろう。そしておそらく、最大のキーマンとなるのが、最後に不敵な微笑みを見せていた一橋治済だ。『鎌倉殿の13人』で、主人公の神経を逆なでしまくって「顔はいいのにムカつく」と言われた源仲章を好演した生田斗真が演じるだけに、その曲者ぶり+これからつづく賢丸との因縁に期待しておこう。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。1月19日放送の第3回「千客万来『一目千本』」では、重三郎が女郎たちを売り出すために、新たな本作りに奔走する一方、それを快く思わない父・駿河屋市右衛門(高橋克実)との対立も描かれる。

文/吉永美和子

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