「偽造」で泣く者、笑う者…賢丸と唐丸がリンク【べらぼう】

3時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第4回より。礒田湖龍斎から預かった美人画の下絵を見事に描き写した唐丸(渡邉斗翔)(C)NHK

(写真5枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。1月26日放送の第4回「『雛形若菜』の甘い罠」では、田沼意次が公文書偽造で大きな賭けに出る姿と同時に、偽造によって次世代の絵師が誕生する瞬間も描かれた。

■ 養子の件を白紙にしようとする賢丸だが…第4回あらすじ

田安家当主・治察(入江甚儀)が急逝し、弟・賢丸(のちの松平定信/寺田心)は白河松平家の養子の話を白紙にするよう、老中首座・松平武元(石坂浩二)に依頼。武元は大奥総取締役・高岳(冨永愛)を通じて将軍・徳川家治(眞島秀和)にその旨を訴える。家治は、田安家になにかあったときは、賢丸を呼び戻すという約束を治察と交わしていたことを理由に、賢丸の望みを叶えようと考えていた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第4回より。田安賢丸(のちの松平定信/写真奥から一番左、寺田心)

しかし老中・田沼意次(渡辺謙)は幕府の倹約のため、田安家をこの機会に潰すことをもくろむ。そこで息子・意知(宮沢氷魚)と結託し、平賀源内(安田顕)に依頼して、8代将軍・徳川吉宗の偽文書を作成。そこには田安家に跡継ぎができなかった場合、お家断絶にすると記されていた。祖父・吉宗を深く崇拝する賢丸は、その言葉を仕方なく受け入れると同時に、意次への復讐心を募らせるのだった・・・。

■「御三卿を潰すため」意次の大胆な偽造に敗れる賢丸

下級武士出身ながらも、幕府の中枢で新しい経済政策を推し進め、自由な気風で庶民文化を興隆させた田沼意次。一方、御三卿という名門中の名門で、吉宗時代の政治にこだわり、庶民の暮らしにも厳格な規律を求めた松平定信。この出自も政策も対象的な2人が、絶対に気が合ったとは思えない。そしてその対立は、まだ定信が「賢丸」と名乗っている元服以前から始まっていたことが、この第4回では描かれた。

前回からずっと、賢丸の白河松平家の養子入りを推し進めていた意次。その理由について、今のままだと政に関わる機会が薄い賢丸の聡明さを、白河藩の藩主となることで存分に発揮してほしい・・・という、親心のような心境を語っていた。これはまた意次らしくない美しい理由だと思えたけれど、今回になって「御三卿を潰すため」と言い出して、おそらく「はいはい、やっぱりそう来ましたよね!」と考えた人は多かっただろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第4回より。偽文書のため暗躍する、田沼意次の息子・意知(宮沢氷魚)(C)NHK

確かに将軍家の万が一の時のスペアを、6つも用意するというのはやり過ぎじゃないかと、多分当時の人も考えただろう。しかもそれぞれが統治する藩を持っていて、そこからの税収で暮らしている「御三家」と違い、御三卿は特に治める土地を持たず、幕府の収入の一部を回してもらっている状態。この家が一つなくなれば、幕府の収入は大幅にアップするわけだから、意次の考え方も割と一理あるのだ。しかし名君・吉宗の血を引くことに誇りを持つ賢丸にとっては、祖父が作った家系を是が非でも守り抜きたいという思いがあるはず。

そこに水を差したのが、吉宗の「後継ぎがなかったら終了」のお知らせだが、これは意次が平賀源内に依頼して作った偽文書だった。バレたら良くて改易、悪くて死罪という大胆すぎる策だけど、そこまでしないと御三卿は潰せないという意次の決死の覚悟の表れだろう。そしていくら現将軍が「そこまでしなくていいよ」と言ったとしても、吉宗絶対的信者の賢丸にとっては、家の存続という個人的な願いより、吉宗の命令の方を優先するはず。そこまで読んだ上での奇策なのだから、一代で成り上がった切れ者は伊達ではない。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第4回より。平賀源内によって偽造された文書(C)NHK

この2人の最初の勝負は、まさに賢丸の惨敗で終わるわけだが、言ってもまだ15歳のなにものでもない少年。吉宗を尊敬していると口で言ってるくせに、その直筆文書に目を通していなかったことを田沼に皮肉られるなど、まだまだ理想に実践が追いついていない状態ではあるが、田安家復帰の算段を結構いいところまで進めたのだから、政治家としてのポテンシャルは十分。田安賢丸から松平定信になった、そこからの意次との第2ラウンドが今から楽しみで仕方がない。

■ 模写で花開く才能、唐丸は後の有名浮世絵師なのか?

さてこの第4回ではもう一つ「偽造」のシーンがあった。重三郎が礒田湖龍斎(鉄拳)から預かった美人画の下絵をダメにしたとき、それを拾い子・唐丸(渡邉斗翔)が、湖龍斎本人も別物とは気づかないほど、見事に描き写してみせたことだ。原画そのままだと絶対本人にバレるだろうけど、錦絵の場合は版木にするというワンクッションが入るから、ちょっとぐらい変わってもわからないというのが幸いしたけど・・・それでも唐丸のコピーの才能が、とんでもないレベルであることは間違いない。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第4回より。 試し刷りの出来栄えを確認する礒田湖龍斎(鉄拳)(C)NHK

この展開を見た瞬間、浮世絵の知識がある視聴者から一斉に「あれは誰の幼少時代だ?!」というコメントがあふれかえった。当時の有名な浮世絵師は、出自がはっきりしない人が多いので、誰に該当してもおかしくはないのだけど、一番有力なのは蔦重が世に送り出した最強の絵師・東洲斎写楽だろう。その正体は今もなお一切不明で、不明すぎて「実は松平定信」なんて説も見たことがある。

1つの偽造は、松平定信の田沼意次への激しい対抗心の火を付けて、もう1つの偽造は、歴史に名を残す絵師になるかもしれない少年の、初めての才能の開花となった。政治の世界と本作りの世界を並行して描く『べらぼう』のなかで、この2つの世界がフッとリンクする、なんとも粋な仕掛けだった。蔦重は将来、松平定信の政策に翻弄されるようになる未来が待っているのだけど、成長した唐丸もそこに巻き込まれることになるのだろうか。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。2月2日放送の第5回「『雛形若菜』の甘い罠」では、本屋になるための道を探し求める重三郎の姿と、唐丸に不穏な動きがある様が描かれていく。

文/吉永美和子

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