蔦重も平賀源内の「発明」か、先見の明の凄さ【べらぼう】

2025.2.6 18:30

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回より。写真左から、蔦重(横浜流星)、平賀源内(安田顕)(C)NHK

(写真4枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。2月2日放送の第5回「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」では、重三郎が平賀源内の助けを借りて、本屋の道を開いていく姿と並んで、源内の天才すぎるがゆえの苦労が描かれた。

■ 本屋の株を買うことを考える重三郎は…第5回あらすじ

鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)に、地本問屋・鱗形屋お抱えの改になることを請われた重三郎。平賀源内(安田顕)が、誰にも召し抱えられず、自分がやりたいことを自由にやることの苦労と楽しさを語るのを聞いて、本屋の株を買うことを考える。しかし源内に紹介された須原屋市兵衛(里見浩太朗)からは、書物問屋以外の板元に株はないので、どこかの本屋で奉公して、暖簾分けしてもらうことを勧められた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回より。平賀源内(安田顕)(C)NHK

その頃の源内は、秩父の鉱山開発が上手く行かず、相方・平秩東作(木村了)を人質に取られていた。そこで源内は炭に商売替えをするため、田沼意次(渡辺謙)に資金を都合してもらった。意次は源内がやっていることは本来お上がやるべきことだと、2人で産業を広げる夢を語り合う。源内が秩父の人々を納得させ、無事に東作を解放してもらった頃、重三郎は板元になる第一歩として、孫兵衛の元で働くことを決意したのだった。

■ 蔦重に好意的な須原屋さん、良きメンターとなるか

前回「地元本屋の仲間ではない」という理由で『雛形若菜初模様』の販売許可が降りなかった蔦重。平賀源内が新たに炭の商売をはじめるにあたり、「株」を手放そうとしているお店を探すのを見て、本屋の株を買うという方法をひらめいた。これは日本史の教科書で必ず出てきた「株仲間」というシステム。株を持つ同業者の組合・株仲間だけの商売を許す代わりに、幕府に冥加金を渡すという、田沼意次の経済政策の目玉と言えるものだ。

前回「仲間」という言葉が出た瞬間、多くの人が「株仲間だ!」と考えただろう。しかしこの第5回で、蔦重が関わっている娯楽色の強い「地本問屋」には、株仲間などない! という驚きの事実が判明した。本屋で株を持っているのは、このことを教えてくれた須原屋のような書物問屋・・・いわば学術書のようなお硬い本を扱っている店のみだった。ちなみに須原屋は、かの有名な『解体新書(ターヘル・アナトミア)』を出版したことでも知られている。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回より。写真左から、蔦重(横浜流星)、平賀源内(安田顕)、書物問屋・須原屋(里見浩太朗)(C)NHK

基本は自由商売のはずなのに、知った顔同士の取り決めで、いつの間にか新規参入を拒む世界になっていた・・・というのは、株さえ手に入れば商売が保証される株仲間より、切り崩すのが厄介な「仲間」だろう。しかしどうも、ジャンル違いなので商売敵にはなりそうもないからか、須原屋さんは蔦重に好意的な様子。演じるのが時代劇のレジェンド・里見浩太朗というのも合わせて、彼が蔦重の良きメンターとなってくれそうだ。というか、なってほしい。

■ 時代を先取りしすぎている…平賀源内先生のすごさ

もう一人蔦重を導いているのが、今回は大胆な男色系下ネタを披露して、多くの視聴者をアタフタさせた平賀源内先生だ。史実では『吉原細見』以外でのつながりは記録されていないけど、どちらも時代を先取りした鋭い感性の持ち主だったことを考えると、発刊後も交流があったとしてもおかしくはない。今回も、後ろ盾を持たずに自分のやりたいことを貫いていくことの覚悟と楽しさを、重三郎にさり気なく植え付けるという役割を果たしてくれた。

そして実際、鉱山開発から炭の製造販売に商売替えをするに辺り、現地の人々に詐欺師まがいの売り込みをしたり、言いくるめたりする様は、確かに源内先生目線だったら「大変だけど楽しい」ように見える。巻き込まれてしまった平秩東作さんにとっては、たまったもんじゃないだろうが・・・ちなみに平秩さんの本業は戯作者・狂歌師で、平賀源内の人生にも大きく関わってくる人なので、彼と蔦重も将来なんらかのイベントが発生するかもしれない。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回より。写真左から、田沼意次(渡辺謙)、平賀源内(安田顕)(C)NHK

しかし源内の言うことが胡散臭く思えてしまうのは、もしかしたら時代を先取りしすぎているが故に、言ってることが途方もなさすぎる=詐欺なんじゃね? という構図になってしまうからだろう。それをうかがえたのが、田沼意次との「開国」をめぐる対話だ。開国をすれば米より金銀を重視し、家柄など何の意味もなさなくなり、新しい商売や才能が芽生えるであろう代わりに、外国から政治的・軍事的圧力がかかることは免れない・・・ということを、阿吽の呼吸で語り合う姿に圧倒された。

そしてこの対話からちょうど70年後の1854年に、日本はペリーと「日米和親条約」を結び、開国への扉をこじ開けられることになるのだが、意次と源内が危惧した通り、外国にイニシアチブを握られてかなり苦労することになる。もし彼らが生まれるのが70年遅ければ、もう少し外交的に上手く立ち回ることができたのではないか・・・というのは、言ってもせんのない「歴史のif」ではあるのだけど。

今回源内が手掛けていた鉱山は、明治時代になると「世界でも類を見ないほど多彩な鉱物が取れる場所」として価値が上がり、以後日本の重要な鉱山&石山として、つい3年ほど前まで操業していたという。こういうところでも、彼の先見の明がすごすぎて、完全に時代を通り越してしまっていたことがわかる。しかしこのドラマでは、彼のフロンティア・スピリットが蔦重に伝わっていってることが、すでに実感できている。もしかしたら「蔦重」も、平賀源内の一つの「発明」ということになっていくのかもしれない。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。2月9日放送の第6回「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」では、鱗形屋孫兵衛の元で働き始めた重三郎が「青本」作りに乗り出すとともに、偽板(海賊版)騒動に巻き込まれるところが描かれる。

文/吉永美和子

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