蔦重の反面教師となるか…鱗形屋の闇落ち【べらぼう】

4時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回より。鱗形屋(写真右、片岡愛之助)に「青本」の新作製作を提案する重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHK

(写真5枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。2月9日放送の第6回「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」では、重三郎が鱗形屋で新しい本作りに取り掛かったところで、思いがけないトラブルが発生。この事件を通じて、鱗形屋孫兵衛が重三郎に果たした役割について考えてみた。

■ 蔦重と青本を作る鱗形屋、一方で…第6回あらすじ

重三郎は板元になる第一歩として、地本問屋・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の元で働きはじめた。孫兵衛から派手に当たる本を求められた重三郎は、江戸っ子たちから「おもしろくない」と見向きされなくなっている青年向けの本「青本」を、とびっきりおもしろいものにすることを思いつく。もともと青本は孫兵衛の祖父が作り上げたものということもあり、孫兵衛はその提案に食いつき、共同作業を進めていく。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回より。深夜、秘密裏に節用集の偽板(海賊版)を摺る鱗形屋の人々(C)NHK

一方で孫兵衛は、節用集(国語辞典)の偽本(海賊本)に手を染め、それを密かに大名家に収めていた。その頃幕府では、将軍・徳川家治(眞島秀和)が「日光社参」を執り行う意向を見せる。多くの大名や旗本に負担を強いる行事のため、田沼意次(渡辺謙)は中止の嘆願書を集めるが、家治は嫡男・家基(奥智哉)がそれを望んでいて、反対する意次を奸賊(かんぞく)と思っていると諭し、意次は社参を受け入れざるをえなくなるのだった・・・。

■「売れる青本作りたい!」創作意欲あふれる蔦重と鱗形屋

江戸時代最大の出版王のドラマだけあって、この時代の主だった書籍のジャンルがいろいろ出てくるのが『べらぼう』のおもしろくてためになるポイント。この第6回では字を学ぶうえで欠かせない節用集に加えて、江戸時代のエロ本・春画(ただし現在では芸術性の高さでも評価されている)も登場し、SNSも「フルカラーのエロ本!!」「さらっと春画が出てくる大河」と一瞬盛り上がったが、今回一番スポットが当たったのが「青本」だ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回より。「青本」に商機を見出す重三郎(横浜流星)(C)NHK

青本は文学・演劇作品を、たくさんのイラスト入りで書籍化したもので、今でいうと小説のコミカライズとかメディアミックス的な感じだろうか。ただ、特に現代まで名前が知られているような作品が残っていないところを見ると、やはり花の井(小芝風花)や次郎兵衛(中村蒼)が口をそろえるとおり、ほぼほぼどうでもいい作品ぞろいだったことがわかる。そこで蔦重が考えたのが、大人が読んでもおもしろい青本を作ること。しかも今流行している「金々(きんきん)」の男たちを主人公にした新作だ。

重三郎と孫兵衛がアイディアを語り合ううちに「金々男に悪人が絡んでくる」という原案が生まれるわけだけど、今でいうと「ヤンキーが悪事に巻き込まれるアクション」みたいなイメージなのだろうか。このアイデアが後に『金々先生栄花夢』という、それこそ日本史に名を残すエポックメーキングな一冊に結実するわけだけど、孫兵衛が偽本作りで御用となってしまった今、どうやって実現化するのか? という過程も、次回以降の見どころとなりそうだ。

■ 優秀な編集者の一面も…鱗形屋の逮捕が与える影響は?

さて、前々回で西村屋与八(西村まさ彦)と共謀して、蔦重の板元の道を閉ざしたということで、すっかり本作における最初のヴィランとなってしまった鱗形屋孫兵衛。しかし懐に入ってみれば、自分たちが作った青本をケチョンケチョンにけなす蔦重に、プライドを切り刻まれるかのような怒りの表情を見せつつも、その新しい提案には編集者として惹きつけられるという、複雑なクリエイター心理を見せてきた。この時の孫兵衛の表情を、歌舞伎仕込みの繊細な表情筋で見せる片岡愛之助の演技も素晴らしかった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回より。鱗形屋(写真左、片岡愛之助)と、売れる「青本」の筋書きの案を出し合う重三郎(写真右、横浜流星)(C)NHK

そして『金々先生栄花夢』に向けて、掛け合いのようにネタを出し合う2人の姿が、前回日本の将来について楽しげに語り合っていた、田沼意次と平賀源内(安田顕)と重なる。同じぐらいのレベルの知性と感性を持ち、しかも同じ仕事を愛している者同士だからこそ、新しい考えが湯水のように沸いて出て、止まらなくなっていく。この2人がライバルではなく最初からバディであったならば、これほど頼もしい関係性はなかっただろうと想像すると、少し切なくなる。

蔦重ほどではないが、出版人としてはかなり優秀な人材だったはずの鱗形屋孫兵衛。それが明和の大火のために板元の命とも言える版木を失い、青本事業も行き詰まったがために、禁断の偽本作りに手を出して自滅してしまった。彼の役割は、単なる蔦重の障壁ではなく、優れたクリエイターも上手く商売の機運に乗れなければこういう道が待っているという警告を、蔦重に与える反面教師でもあるのか・・・と思えてくる。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第6回より。偽板(海賊版)製作の罪で逮捕される鱗形屋(写真右、片岡愛之助)(C)NHK

そしてこの逮捕劇によって、蔦重は己の望みを叶えるために、人の不幸を願っていた自分のダークサイドを自覚することになった。不穏なBGMが暗示するように、これから行く道はただ夢のように楽しいだけでなく、汚いこともあるし、自分も他人も地獄を見ることになるかもしれない・・・という予感を、まさに長谷川平蔵(中村隼人)にもらった粟餅のように呑み込んだ蔦重。誤解から孫兵衛には逆恨みされてしまったが、それが孫兵衛の子どもの代にまで及んで、それこそ地獄のような関係にならないことを祈るばかりだ。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。2月16日放送の第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」では、重三郎がある条件で地元本屋の仲間になれる約束を取り付け、これまでにない吉原細見「籬の花」作りに乗り出すところが描かれる。

文/吉永美和子

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