永作博美の大阪のおばちゃんと蒲生四丁目のワケ、夜ドラ裏話

夜ドラ『バニラな毎日』(NHK総合)より、佐渡谷真奈美(永作博美)、白井葵(蓮佛美沙子)(C)NHK
洋菓子が出来上がる過程を鮮やかに捉えた映像美、主人公・白井葵(蓮佛美沙子)と「お菓子教室」にやってくる人々の心の通い合いがじーんと胸に沁みる夜ドラ『バニラな毎日』(NHK総合)が話題だ。
パティシエの白井は夢であった自分のパティスリーを開業したものの、経営は赤字の一途をたどり、開店から5年でやむなく閉店を決意。崖っぷちに立たされた白井は、居抜きで借りてくれる借主を待ちながらバイトを掛け持ちする毎日だ。
そんなある日、料理研究家を名乗る謎の「大阪のおばちゃん」佐渡谷真奈美(永作博美)が白井に声をかける。正式な借主が見つかるまでの間、空いたスペースをレンタルして「お菓子教室」をやらせてもらえないかというのだ。はじめは渋っていた白井だったが、佐渡谷が発する不思議な言葉の魅力に巻き込まれ、懸命に菓子作りに取り組む生徒たちと触れ合ううちに、やがて彼女自身も新たな自分を発見していく──。

本作を制作しているのはNHK大阪局。賀十つばさによる原作小説『バニラな毎日』『バニラなバカンス』(共に幻冬舎)では物語の舞台が西東京だが、ドラマの舞台は大阪市城東区にあり「がもよん」の愛称で親しまれる蒲生四丁目。それに合わせて、佐渡谷のキャラクターも「大阪のおばちゃん」に変えている。
この「ドラマならではのアレンジ」が物語に与えたものとは何なのか。企画発案者でディレクターの影浦安希子さん、制作統括の熊野律時さん、チーフ演出の一木正恵さんに話を聞いた(取材・文/佐野華英)。
◾️ 古いものと新しいものが混在する「蒲生四丁目」
──白井が「パティスリー ベル・ブランシュ」を開いたのが蒲生四丁目という設定にした理由を教えてください。
制作統括・熊野律時さん(以下、熊野):制作しているのはNHK大阪局ですので、原作者の賀十さんにご相談をしたうえで関西を舞台にさせていただきたいとお願いしました。関西のなかでもどこがいいのだろうかとスタッフ皆で色々と調べていくうちに、蒲生四丁目という、古いものと新しいものが混在する町が、白井が店を開く場所としていいのではないかと。蒲生四丁目は古民家をリノベーションして若い経営者に安く貸し、町を活性化していこうという取り組みを10年以上やっていて、すでに40件ぐらいの実例があるそうです。そういう場所で、白井が借金をしながらも情熱を持って開いた店というのは、映像的にもリアリティが出ると考えました。

チーフ演出・一木正恵さん(以下、一木):関西で洋菓子の店といえば、まず神戸が思い浮かびますし、大阪でも中之島や北浜など水辺の美しい場所、あるいは梅田のような中心街に多いというイメージがあります。でも、白井葵という人物の経済状況を厳密に考えたときに、そうした場所で開店するのは到底無理だろうと。親が近くにいて援助してくれるわけでもなく、たったひとりの力で、本気で自営業をやりたいと思っている白井が店を構えられる現実的な場所ということで、蒲生四丁目という町になりました。
◾️ 白井の人生を具現化するために作り込まれた細かな「裏設定」
──このドラマでは、「お金」の問題がとてもリアル、かつ具体的に示されます。白井の借金額が400万円、月返済が12万円、家と店の家賃の合計が月15万円。閉店して退去するにも原状復帰するのに150万円がかかるという。
一木:ドラマのシーンでは明示していませんが、白井が住んでいるのは東淀川区・淡路にある築年数が古い家賃4万5千円のマンション。自宅から蒲生四丁目の店までは自転車で40分ぐらい。通勤ルートまで含めて「裏設定」があります。これらはすべて、「ふわふわとしたパティスリー」じゃなく、借金を背負って夢であったパティスリーを開業した白井の人生をしっかりと具現化するために考えたものです。

ディレクター・影浦安希子さん(以下、影浦):チームでドラマを作っていく最初の段階で、とにかくこの物語では金銭事情をきちんと設定しようと話しました。白井はお店以外のことにお金を使いたくないと、切り詰めた生活を送っている。となると、電車賃さえも節約するのではないか。じゃあ、時間がかかっても自転車通勤をしている設定にしよう、というふうに白井というキャラクターの詳細が決まっていきました。私は東京出身なのですが、大阪で働いて暮らしてみて、大阪は自転車の通行量がとても多いのだと初めて知りました。なので白井の自転車通勤という事情はこの土地設定にもとても合っているなと、個人的に思いました。

◾️ 白井が通勤で橋を渡るシーンにはさまざまな意味が
一木:白井が淡路の自宅から蒲生四丁目の店まで、淀川を渡りながら自転車で通勤するときに、梅田・北浜などの大都市圏があちら側に見えるんですね。この、川を渡る「橋」はキービジュアルのひとつでもあります。「格差」とか「越えられない壁」みたいなことを、白井が橋を渡る通勤のシーンで表現したいと思いました。佐渡谷や静(大人気ロックバンドのヴォーカル/演:木戸大聖)は中之島・北浜などの「川の向こう」に住んでいるわけですが、それを見やりながら白井は必死に橋を渡らなければならない。また、白井がアルバイトをしているパン屋さんも、中之島・北浜エリアにあるという設定です。

影浦:自転車で橋を渡るときの白井の表情には、ぜひ注目していただきたいです。彼女が今どんなことを考え、どんな気分でいるのかが端的に現れていて、このドラマの見どころのひとつだと思うので。
◾️ 佐渡谷は他人に優しく寄り添える、品のある「大阪のおばちゃん」
──また、舞台を大阪に移したことで佐渡谷のキャラクターにも、原作にはない「大阪のおばちゃん」という設定が加わりましたね。
熊野:僕は大阪の人間なので、「大阪のおばちゃん」はいっぱい知っていますけど(笑)、うるさいだけが大阪のおばちゃんじゃないんだということをぜひ全国の皆さんに知っていただきたいという思いがあって。佐渡谷のようにちゃんと他人に優しく寄り添える、品のあるおばちゃんもいる。ステレオタイプじゃない「大阪弁を喋るおばちゃん」を、永作博美さんの演技の力をお借りして表現したいと思いました。永作さんは僕が制作統括をやった朝ドラ『舞いあがれ!』(2022年後期)でヒロインの母役を演じてくださいましたが、あのときは東大阪の町工場を営んでいる設定でした。今回、佐渡谷は中之島・北浜あたりに住んでいるという設定です。

──『舞いあがれ!』のときの大阪弁とは違う大阪弁を、永作さんはまた学び直したということでしょうか。
熊野:そうですね。本作のなかではちょっと上品な、佐渡谷らしい大阪弁を喋ってもらっています。大阪ことば指導の先生と綿密にやり取りをしながら、どうしたら佐渡谷というキャラクターを表現できるかと試行錯誤してくださって。永作さんが実感を伴って「大阪弁にもいろいろあるんですね」とおっしゃっていましたが、本当に地域ごとに違うので。
一木:永作さんは「佐渡谷を作り上げる手段として、時には強めの方言も取り入れたい」とおっしゃっていました。白井という頑固で真っすぐな人間、そして「お菓子教室」の悩める生徒たちを、いかに一見強引に、しかし愛情をもって引っ張って巻き込んでいくかというところで、大阪弁が佐渡谷にとってひとつの「鎧」になると考えられたんだと思います。
影浦:佐渡谷の言葉って、聞いていてとても響くんですよね。これも「やわらかい大阪弁」を話す佐渡谷というキャラクターだからこそだと思っています。

◾️白井は岐阜県出身、大阪に根っこを生やさないキャラクター
──登場人物がみんな大阪弁で喋るなか、白井だけがひとり標準語ですが、彼女はどこの出身という設定なのでしょうか。
一木:これも原作にはない、そしてドラマのなかでは明かされない「裏設定」ではありますが、白井は岐阜県の出身ということにさせていただいております。名古屋圏と関西圏のちょうど狭間に生まれ育ち、高校を卒業して製菓学校に通うために大阪に出てきたということですね。大阪に住んで働いてはいるけれど、大阪弁にまつろわない、大阪に根っこを生やしているわけではないというキャラクター造形です。
◇
『バニラな毎日』を観ていて感じる切実なリアリティの要因は、こうしたスタッフと演者による創意工夫、そして大阪が舞台ならではの「裏設定」の数々にもあるようだ。2月13日放送の第4週の終わりで、白井のもとに店を居抜きで借りてくれる借主が見つかったとの連絡が入った。2月17日より始まる第5週から物語は新章に突入。いよいよ白井が自分自身と向き合っていくターンが始まる。
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