いわくつきの名跡を背負う…花の井の覚悟に称賛【べらぼう】

22時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。松葉屋の主人たちと、重三郎のためにできることを考える花の井(小芝風花)(C)NHK

(写真6枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。2月16日放送の第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」では、重三郎が周囲の協力を得ながら、まったく新しい細見を発刊。なかでも花の井の男前な行動に、SNSが恋に落ちる人であふれた。

■ 倍売れる吉原細見、実現なるか…第7回あらすじ

今までの倍売れる、吉原細見作りに着手した重三郎。街の男たちの声を拾って、今よりも持ち運びがしやすい上に見やすくて、しかも下層の女郎の情報まで掲載した本を作ることにした。義兄の次郎兵衛(中村蒼)や、平賀源内(安田顕)と行動をともにする浪人・小田新之助(井之脇海)の助けを借りて、理想の細見ができ上がったところで、幼馴染の花魁・花の井(小芝風花)が、「瀬川」の名跡を継ぐと重三郎に伝えてきた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。できあがった吉原細見をプレゼンする重三郎(横浜流星)(C)NHK

花魁が名跡を襲名したときは、細見がいつもより売れることを知った花の井は、重三郎のためにあえて不吉と言われた名跡を継ぐことにしたのだ。こうしてできあがった細見「籬乃花」は、これまでにない工夫を凝らした内容にも関わらず、値段は通常の細見の半額。しかもほかの細見には載っていない「瀬川」の名が記されているということで、地本問屋たちはこぞって購入を申し出たのだった。

■「本作りあるある」に共感の声続々

このコラムを掲載している『Lmaga.jp』を運営しているのは、「京阪神エルマガジン社」という、関西の情報誌やガイド本を発行している会社。かく言う筆者も日頃からお世話になっていて、紙媒体のお仕事もやらせていただいている。それゆえに、重三郎が前代未聞の吉原ガイドを完成させる過程が「ガイド本あるある」過ぎて、痛快ながらも随所で古傷をえぐられる思いが。多分このページを作る編集さんを始め、本作りをしたことがある人なら、同じ気持ちになった回だろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。吉原細見の構成を考える重三郎(写真左、横浜流星)たち(C)NHK

最初に重三郎が行ったのは「どんなガイド本なら買いたいと思うのか?」という市場調査。その頃主流だった手のひらサイズの分厚い冊子は意外と持ち運びが不便、高い女郎の情報しか載ってない・・・などの要望に加えて、地図のような感覚でお店の位置&女郎の情報に行き着けるレイアウトにするというアイディアを追加。しかも使う紙の量を減らすことで、定価の引き下げにも成功した。まさに内容的にもデザイン的にも、画期的なガイド本だったのだ。

これにはSNSも「ユーザーの声を聞く。今なら当たり前だよな」「薄くして持ち運びやすく、実際の店の配置にする。工夫だぁ」「製本コストダウンには丁数(頁数)を減らすのが早道。従来の細見がとっていた横長判型の紙面一段組から、縦長二段組に変えて圧縮に成功!」「どんな良い内容の細見にするんだ? と思ったら、倍売るためには倍仕入れなきゃいけない! って自分の遥か先の視点を持っていた。蔦重すげえよ」などの感心の言葉が。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。板木の彫師・四五六(写真左、肥後克広)に価格交渉する重三郎(写真右、横浜流星)(C)NHK

ただ経費削減のなかには人件費も含まれていたようで、新之助も彫師・四五六(肥後克広)も「吉原で遊ばせる」を条件に格安で巻き込んだ。しかも追加情報を何回も入れてレイアウト大幅変更を強いるわ、その結果鬼のように文字が細かくなって彫師が発狂するわと、なんかこう個人的に「見たことあるんだけどこの光景・・・」の嵐すぎて苦笑してしまったし、SNSでも実体験に基づく同情のコメントが多数。

「お・・・鬼編集者・・・」「版下データやり直しは発狂するって(印刷業界の血が震える案件)」「わかるよぉ~デザイナーとオペレーターたち(DTP業者より)」「同人界隈で安請け合いをすると・・・こうなる!! っていうのを、なんでNHKが大河ドラマでやっているんだろう」「今までやさしくて度量が広いキャラとして描かれてた新之助が、キャラ崩壊する。そうそれが創作現場、〆切土壇場」などの声が上がっていた。

■ 花の井の助太刀もあり、『籬乃花』はスマッシュヒット!

そんなわけで製本までこぎ着けたところで、なんと花の井から追加依頼が! これは大量の修正シールを貼らねばならん奴・・・! と震え上がったが、それは不幸を呼ぶ名跡と言われた「瀬川」の襲名だった。これはいわばテーマパークのガイド本を作るときに、伝説の人気アトラクションが復活するよ! という情報を、たった一社にだけリークしてもらったような超特ダネ。重三郎の細見をより売れるものにするために、呪いの名前を引き受けた花の井には、当然大きな喝采が。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。名跡襲名への想いを語る花の井(小芝風花)(C)NHK

「花の井ーーー!! 瀬川!!!」「やはり重三郎さんの力になりたいお気持ちからの襲名もあるのでしょうね」「吉原をなんとかしたい・・・その思いを共有するからこその戦友・・・それが花の井!! 素敵すぎる!!」「花の井の立ち位置が完全にヒーローなんすよ。蔦重姫のピンチを必ず救ってくれるヒーロー。なんなのこのかっこいい生き物」「花の井ネキ、色気が凄すぎるのとかっこよすぎるのとで全人類惚れる」などの称賛が上がっていた。

そんな花の井のはからいもあって、セレブ系から庶民に優しいものまで、地元民が足でかせいだここにしかない情報の数々が、従来よりもコンパクトに、しかも半分の値段で手に入るという、究極のガイド本『籬乃花』が完成した(製本後に修正させられた新之助と四五六は瀕死かもしれないが・・・)。そして視聴者だけでなく、地本問屋の皆様も「これは売れる!」と踏んだのは、矢継ぎ早に『籬乃花』を注文したシーンで明らかだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第7回より。重三郎の吉原細見に群がる、地本問屋の主人たち(C)NHK

このスマッシュヒットぶりにSNSも「おお! 自らの懐から出す、懐に入れて持ち歩けるアピール!」「瀬川、蔦屋独占スクープだ!!」「半値で情報量多くて、しかも最新情報と来たんもんだ!」「地本問屋たちが言葉を失っているのが小気味いい」「極道入稿のコピー本で情報の密度、鮮度、値段、全てで圧倒するパワープレイだ。代償は新之助さんの人件費」という快哉を叫ぶ声が止まらなかった。

これは大ヒット間違いなしな『籬乃花』を引っ提げて、いよいよ重三郎が板元の仲間になれる・・・と思いたいが、ここまでのドラマのパターンを見ていると、重三郎が上昇気流に乗ったか? と思えば、即座に風向きが変わって下降するというのがローテーションになっているように感じる。この法則に従うなら、最後の不穏なBGM&鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の帰還によって、また難題が生じる予感が・・・まずは重三郎が細見に関わった人々を、約束通り吉原で盛大にもてなしてくれたことを願いたい。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。2月23日放送の第8回「逆襲の『金々先生』」では、鱗形屋が『金々先生栄花夢』を発刊して復活を遂げる一方、瀬川となった花の井の元に鳥山検校(市原隼人)が訪れるところが描かれる。

文/吉永美和子

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