瀬川の気持ちに気づかぬ蔦重、お稲荷様に共感の声【べらぼう】

9時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。青本『金々先生栄花夢』を烏山検校(市原隼人)に読み聞かせる瀬川(小芝風花)(C)NHK

(写真6枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。2月23日放送の第8回「逆襲の『金々先生』」では、重三郎の作った細見がヒットしたことで、思わぬ弊害が生まれる様が描かれた。なかでも新キャラクターの粋な登場と、視聴者を代弁するナレーターのツッコミで、SNSは盛り上がった。

■ 瀬川の気持ちに気づかぬ蔦重…第8回あらすじ

花の井(小芝風花)が5代目瀬川を襲名したことが、重三郎の細見『籬乃花』によって世間に広まり、吉原は瀬川目当てで多くの人が押し寄せる。街が賑わう一方で、たちの悪い客も出入りするようになり、女郎たちは疲れを見せていた。そんな頃、盲目の大富豪・鳥山検校(市原隼人)が瀬川を呼び出す。初会は口も聞けないという決まりのため、瀬川たちの退屈を慰めるために多くの本を持参した検校の気配りに、瀬川は感銘を受ける。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。瀬川(小芝風花)に『女重宝記』という本を渡す蔦重(横浜流星)(C)NHK

重三郎は『籬乃花』が売れたのは瀬川のおかげと思い、彼女が身請けされても、その先で困ることがないようにと考えて『女重宝記』という本を送る。しかし瀬川が「重三にとって、わっちは女郎なんだね・・・吉原に山といる救ってやりたい女郎の一人」と心の内を明かしても、重三郎は「お前にはとりわけ幸せになって欲しい」と返すだけ。瀬川は「馬鹿らしゅうありんす」とつぶやきつつ、お礼を言ってその場を立ち去った・・・。

■『籬乃花』効果で繁盛するも、疲弊する女郎たち

重三郎の望み通り、吉原に人が戻り、花の井改め瀬川による花魁道中もいっそう華やかになった。これで吉原の人々は幸せに・・・と思った途端に別の地獄を見せるのが、まさに森下佳子の脚本。この第8回では、吉原がキャパオーバー気味になったことに加えて、重三郎があまりにも鈍チンなために、瀬川が心身ともに追い詰められていくところが描かれていった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。花魁道中で吉原を練り歩く瀬川(小芝風花)(C)NHK

『籬乃花』効果で往年のにぎわいを取り戻した吉原だけど、人が多くなるのに比例して、歓迎せざる人間も増えてしまうというのは、昨今のオーバーツーリズムの諸問題とも共通するところ。調子のいい噂話に乗せられて無理を通そうとする者、相手のことを考えない乱暴な客(強蔵)、女郎たちに心無い言葉を投げかける客に、SNSでは同情の声が殺到。

「客が来たけど女郎の待遇は良くならんし、野暮も増えたってか・・・ピラミッドデカくなるとクズも増える」「女郎の仕事が忙しくなるというのは当人たちにとってどういうことなのか。吉原繁盛の結果があまりに生々しく描かれていて、初回以上に衝撃」「どうにもこうにも救いがねぇ、やはりここは『地獄』であったのか」「蔦重こういう野暮な客対策に『吉原でモテる方法!』みたいな本だそうよ」などのコメントが上がっていた。

■ 粋な美坊主・市原隼人の気遣いに好感度爆アゲ

そんななかで少し毛色の違う新客として現れたのは、盲目の鳥山検校。綾瀬はるかのナレーションでもあった通り、江戸時代には優遇されていた盲人は、その特権を利用して悪事を働く者も少なくなかった。しかしこの鳥山検校は、初会は会話がないから退屈になることを見越して、暇つぶしアイテムを持ち込むなど、なかなかに粋な御仁。しかも演じるのが、同じく森下佳子が脚本を務めた大河ドラマ『おんな城主直虎』(2017年)でも、マッチョな僧侶・傑山を好演した市原隼人ということも含めて、SNSでは一斉に歓迎の声が。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。青本『金々先生栄花夢』を烏山検校(市原隼人)に読み聞かせる瀬川(小芝風花)(C)NHK

「粋な美坊主が出た!」「大河に市原隼人が帰ってきたー!!!」「『初会は座っているだけの女郎なら本でも読んではどうか?』鳥山検校様の金にあかした気遣い」「振る舞いがスマートで好感度爆アゲ〜」などの反応があったが、そのお返しにと、姿が見えぬ代わりに本の朗読をした瀬川の対応にも「座ってるだけの花魁の退屈しのぎに本を差し入れる粋、見えぬ検校に声を聞かせる粋。粋の応酬たまらないねぇ!」「この心遣いが売れっ子になる所以」などの称賛の言葉が上がっていた。

■ 鈍すぎる蔦重…九郎助稲荷「バーカ!」

そんな瀬川と重三郎の関係だけど、単なる「吉原を良くしたいと願う同志」ではなく、実は瀬川は重三郎に恋心を抱いているというのが、平賀源内(安田顕)先生を通じて視聴者に明かされた。しかし重三郎の方は、吉原で働く男と女郎の恋は最大の禁忌ということを教え込まれて育ったこともあってか「誰よりも幸せになって欲しい」とは思っても、「自分が幸せにする」とは微塵も考えてない。『女重宝記』を御礼の品にするだなんて、「どこかの誰かと幸せになってね」と言いながら結婚のマニュアル本を送るようなものだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。瀬川(小芝風花)に本を贈る意図を話す蔦重(横浜流星)(C)NHK

これにはSNSも「蔦重くん、違う違うそうじゃない」「初めて重三に腹立ったわ! 鈍い! 鈍すぎる!!」「瀬川にマブがいなさそうって、お前だよお前!」「どう足掻いても結ばれない最愛の人から『お前には一番幸せになって欲しいんだよ』なんて言われるの、あまりにも残酷」「蔦重にとって瀬川は助けたい女郎の一人。切ねぇ」「大河なのにこの冬いちばん切ない恋愛ドラマ」などの、泣きと怒りが混じった声が。

そんな視聴者の声を代表するかのように、ナレーションの九郎助稲荷が「バーカ!」「せーの、このべらぼうめっ!」と重三郎をディスりまくるに至っては「全視聴者の声を代弁する九郎助稲荷w」「TL全ての声を綾瀬はるかボイスが代弁してくれた」「お稲荷様ありがとうございます!」「さぁ視聴者もご一緒に『このべらぼうめ!!』」「大河での熱いリリックとコール&レスポンスは初めて拝んだわ」など、斬新なメタ構造に喝采を送る声があふれた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第8回より。九郎助稲荷に話しかける蔦重(横浜流星)(C)NHK

かつて瀬川は重三郎を「どの子もかわいや、誰にも惚れぬ」と評したが、重三郎本人も、特定の誰かを好きになるという気持ちが欠落していると、自分でもわかってるということが語られた。そのことに瀬川が苦しみだしたタイミングで、現時点ではスパダリ要素しかない鳥山検校が登場。これは「本命がいるけれど、やむ終えぬ事情で自分に言い寄ってきたお金持ちと結婚する」という、往年の悲劇のヒロインのパターンになっていく、その前触れだろうか?

こういう場合、ヒロインと本命はなんだかんだで最後には結ばれる(生死は問わない)という確率が高いのだけれども、この吉原という特殊な世界では、そういう都合の良い未来が待っているとは思えない。ちょっとここは、絶望しながら見守るしかなさそうな雰囲気だけれども、重三郎が板元の仕事に勤しむ一方で、瀬川・・・いや、あざみ(本名)が女将としてしっかりと店を取り仕切るという世界線も、見てみたかったという気がする。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月2日放送の第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、瀬川に身請け話が持ち上がる一方で、うつせみ(小野花梨)と恋仲の小田新之助(井之脇海)が、とある計画を実行するところが描かれる。

文/吉永美和子

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