「オバサン着るの?」が怖かった…49歳で“かわいい”に覚醒して開店
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自分が着たいワンピースを見つけ、同じ思いを抱える人のために「ワタシノオヘソ」をオープンしたゆかりさん (画像提供:ワタシノオヘソ)
「被害妄想かもしれないけど…“なんで、オバサンが?”と思われてるんじゃないかな?って試着するのが怖かった」
49歳で大人の女性のための古着ワンピースを取り扱うサロン「ワタシノオへソ」(大阪市阿倍野区)をオープンしたゆかりさん。「オトナ可愛い」を伝えるためにSNSでも積極的に発信し、家事や子育て、親の介護、仕事などに忙殺される女性たちから共感を得ています。
「私自身、おしゃれを忘れて、生活に向き合い続けてきました」と話すゆかりさんが、経験もコネもない状況から一念発起してワンピース屋さんになった経緯などを取材しました。
卒業したと思っていたワンピースへの愛
20歳と若くして母になったゆかりさん。片付けや害虫駆除の仕事を行い、「4人の子育てと仕事に捧げてきた半生でした。子どもに恵まれて、仕事も順調でしたが、いつも余裕がなくて、自分はハズレくじの人生や、と文句ばっかり言っていました。子どもたちから、“笑って”と言われたこともありました」。
ところがコロナ禍に突入し、仕事は激減。同じ時期に、保育士として働いていた長女がうつ病を発症、また社会人だった長男も体調のすぐれない日が続き、医師から「肺がんの疑いあり」と告知を受ける事態に。
後に、長女は保育士を辞め、転職、また長男も肺がんではなく結核であることが分かり治療して寛解しますが、当時は奈落の底に突き落とされたような気持ちになりました。
「仕事もうまくいかない、子どもたちも幸せにしてあげられない。一生懸命生きてきたのに、私の人生って何だったのだろう?」と虚しさに襲われ、1日のほとんどを布団の上で過ごしていたそうです。
変化のきっかけは、覇気のないゆかりさんを元気づけるため、母が連れ出してくれた神戸でのショッピング。赤のワンピースを見ながら、母が「あんた、昔、こんな変な柄の派手な色の服、いつも着てたやん」と話しかけたのです。
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「もう、49歳やで。子どももいるねん。卒業したわ」と言うも、「着てみたら」と促されるまま試着することに。「鏡に映る自分を見て、ときめいたんです!そんな感情、久しぶりでした。私、こういう服好きやったと閉じ込めていた思いが溢れてきました」。
その日以降、頭から離れなくなり、日々ワンピース探しに出かけるように。「クローゼットに集まったワンピースを見るだけで、幸せ気分でした。“自分やなぁ”と思ったというか…。でも、アパレルショップや古着屋さんで試着するのは怖かったんですよね。被害妄想かもしれないけど、“なんで、オバサンが試着するん?”と思われてるんじゃないかな?って」。
ふと、「私みたいな、大人の女性って多いんじゃないか?」と思ったゆかりさん。「好きなワンピースを着たい、試着だって遠慮せずにやりたい、可愛いを楽しみたい」、そんな思いを抱く大人の女性に向けたワンピース屋さんを運営することを思いつき、夫にポツリポツリと話していたそう。
ある日、夫から「あのワンピース屋さんのことやけどな、やったらいいと思うで。やってみたらいいねん」。背中を押され、翌日には古着ワンピースの卸などについてネットで検索していました。「アパレル業界での経験もないので、何からやればいいのか、ちんぷんかんぷん。買い付けってどうするの?からスタートしました」。
子どもたちからは「やめときや」
ネットで調べては、古着ワンピースを取り扱う業者に電話やメールをして、買い付けに出かけて、を繰り返すように。
「下の子ども2人は、私が出かけてはワンピースを買いまくってくるので、すごく心配していました。“何してるん?”“やめときや”って。でも、どうしてもやりたかったから、“お母さん、やってみたいねん。黙って見ててくれる?やらせてね”と伝えました」
上の子ども2人からは「いい年して、何やってんの。社会はそんなに甘くないで」と叱責されたそうです。
しかし、翌月には自宅の車庫でお披露目会を開催することに。「母との神戸ショッピングが5月で、夫に話したのが6月、始動させたのが7月6日。ものすごいスピードで行動して、毎日忙しかったけど、全然しんどくなかったです。あんなに沈み込んでいた気持ちも解消されました」。
大好きなものを見つけた時はオヘソまでズキュンと響く、という思いを込めて名付けた「ワタシノオヘソ」お披露目会に訪れたのは友人2名。「告知もしていないから、当たり前です。でも、私の思いを聞いた友人たちから絶対続けた方がいいと言われました」。
そこで、SNSで「オトナの可愛いは幸せに向かっていく」を発信することに。ゆかりさんのメッセージに共鳴する人たちが増加し、オープン日に合わせて足を運ぶ人も。
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自宅の一室をサロン仕様に改装することにしたのは、「ポップアップショップのように開催日を限定していたのですが、“その日には行けないけど、ワンピースを見たいんです。お店はないのですか?”の問い合わせがあって、“サロンありますよ”と咄嗟に言ってしまったからなんです。そんな空間ないのに、勢いで答えてしまいました、笑」。
夫に「サロンあるって言ってもうた!作らなあかん!」と告げ、娘たちが使っていた部屋を改装。ワンピースを吊り下げるバーやランプは、夫が取り付けてくれました。
「自分の行動力にびっくりする毎日でした。でも、自分のやりたいことをやらしてあげたい、好きにやらせて、と自分の心に言っていました」と当時を振り返ります。
「テーマパークみたいに楽しい!」と笑顔のお客さん
買い付けた古着のワンピースは、サロンでお披露目の前に熱処理を行い、生地のほつれやボタンなどを修繕し、アイロンで美しく整えるのが「ワタシノオヘソ」のこだわり。
「ほつれを味わいと捉えることもできますが、きれいにして送り出したいから」と話します。熱処理を施すことで古着特有の匂いも消えるそうで、「古着には抵抗感があったけど、ここのなら着たいと思った」と言われたことも。
「害虫駆除の仕事で得たノウハウが役に立っています。文句ばっかり言っていた時代に取り組んだことが、今になって活きていて、人生に無駄なことってないんだなと実感しています」とゆかりさん。
背中を押したものの、「できる限り、自分でやれよ」と話していた夫も、ボタンやほつれの修繕を手伝い、「ワンピースって面白いな、奥深いな」と口にする域に達しました。
約160着が並ぶサロンは月6回開催で事前予約制。ひとりでやってくる女性が多く、40代後半から70代が中心。大阪など近隣エリアに加え、北海道や福岡から足を運ぶ人もいます。
「ひとり旅デビューの人や還暦記念として赤のワンピースデビューを計画していらっしゃる人も。家のことや子どものこと、仕事などに頑張ってきて、自分のことは後回しだった人が多いですね」。
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人の目を気にすることなく手に取り、試着し、「本当は赤やピンクが着たかったのに、親に似合わないと言われて育った」「バレエを習いたかったけど、習いごとはそろばんだった」などと打ち明けてくれる人もおり、「ここでは、自分の感性に正直にいて欲しいんです。自分の気持ちを取り戻せば、幸せを感じられるはず」とゆかりさん。
試着が苦手と尻込みする人も、サロンで過ごすうちに「あれも着たい、こっちも気になる」となっていくそうで、「最終的には、お風呂屋さんの脱衣所みたいになります(笑)。友達でもない人同士が、“その色、似合うよ”“このデザイン、可愛いやん”などと言い合って賑やか。可愛いの大渋滞になるんですよ」。
参加した女性たちから「可愛いって言葉、自分に向かって久しぶりに言うことができました」「テーマパークに行ったときみたいに楽しかった!」の声が寄せられることもゆかりさんを幸せな気持ちにさせます。
ゆかりさんは言います、「好きなワンピースを着ると、みなさん声の高さも顔の明るさもワントーン上がるんです。だから、似合う・着こなすで選ぶんじゃなくて、好きなものを選んで欲しい。最初は、自分でも違和感があるかもしれません。夫や子ども、親、ママ友、仕事仲間、ご近所さんなどが何か言ってくることもよくあることです。でも、3日間我慢してください。周囲も慣れてくるし、自分にも馴染んできますから。ワンピースを買った女性たちが、お気に入りのワンピースとともに幸せな人生を歩んで欲しいと願っています」。
4月は8日(火)・20日(日)にポップアップショップとして、予約不要で好きな時間に来店可能。ゆっくりと試着したい人に向けての1回3名までのサロンは、4月6日(日)・14日(月)・19日(土)・24日(木)・25日(金)に開催。みんなで試着して、お弁当を楽しむ『ワンピースの会』(1回10名まで・4,400円)は4月29日(火・祝)開催。サロンと『ワンピースの会』はいずれも事前予約を。詳細は、「ワタシノオヘソ」インスタグラムにて告知。
取材・文/宮前晶子
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