想像以上の地獄…本気で描いた吉原の実態に反響大【べらぼう】

13時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。いね(写真左、水野美紀)と話す瀬川(写真右、小芝風花)(C)NHK

(写真5枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。3月2日放送の第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、まさに「地獄」としか言いようがない吉原の女郎たちの現実がこれでもかと描かれた。そのなかでも水野美紀が演じるいねの言葉を通じて、女郎に幸せはあるのか? を考えさせられた。

■ 年期明けに一緒になる約束を交わすも……第9回あらすじ

花魁・瀬川(小芝風花)が鳥山検校(市原隼人)と親しくしている姿を見て、複雑な思いを抱いた重三郎。瀬川が検校に千両で身請けさせるという話を聞いて自分の気持ちに気づき「頼むから行かねえで。俺がお前を幸せにしてえの!」と頭を下げる。瀬川の年季が明けるまで待つという誓いをひそかに立てた2人だったが、瀬川のいる「松葉屋」の主人・半左衛門(正名僕蔵)と女将・いね(水野美紀)は、この関係に気がついていた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。瀬川が客を取る姿を、半左衛門(写真左、正名僕蔵)から見せられる蔦重(写真右、横浜流星)(C)NHK

半左衛門は重三郎に、瀬川が客を取っている姿を直視させ「これを年季明けまでずっとやらせるのかい?」とたずねる。一方いねも、鳥山検校の身請けを断った瀬川に対して、こんな不幸な吉原でも、人生をガラリと変えるようなことが起こるかもしれないという背中を、ほかの女郎に見せるのが「瀬川」の務めだと諭す。瀬川は、足抜を試みようとした重三郎の誘いを断って、千四百両という大金で検校に身請けされることになった・・・。

■「身請け」か「足抜」か…吉原の想像以上の地獄

「板子一枚下は地獄」という言葉がある。優雅に水の上を浮かんでいるように見える船も、その床下には地獄が待っている・・・という意味だ。この第9回を見たときに、その言葉をふっと思い出した。重三郎の板元としての快進撃にすっかり目を奪われていたが、彼の生活のベースとなり、そして文字通り「食わせて」もらっているのは、れっきとした色街。この現実がどこまで描かれるのか? というのは、ドラマ開始直後から注目されてきたが、その地獄の正体を、満を持してフルスロットルで提示してきた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。新之助と足抜けを試みて捕まるうつせみ(写真中央、小野花梨)(C)NHK

劇中で松葉屋半左衛門が話す通り、瀬川ぐらい売れっ子の花魁になると、1日何人もの男を相手にする生活が、ほぼ365日続く。幾年(平均的な奉公期間は10年ほど)にも渡ってそんな生活をして、体も心も蝕まれないわけがない。朝顔(愛希れいか)姉さんのように病魔に倒れた者もいれば、うつせみ(小野花梨)が受けたような過激なプレイで寿命を縮めた者もいただろう。そんな地獄から抜け出す数少ない手段が「身請け」か「足抜」だ。

女郎の借金を肩代わりする形で、大金をはたいて女郎を妻や妾にする身請けは、基本的に相手を選べないとはいえ、もっともラッキーな脱出の仕方だろう。一方で「足抜」は、単独にせよ駆け落ちにせよ、無事に脱出できた例はほとんどなく、できたとしてもいねが言った通り、人別帳(現在の戸籍みたいなもの)から漏れ出た存在である以上、まともな職に付くことは期待できない。新之助(井之脇海)とうつせみは、重三郎が瀬川に渡した『天の網島』のように、心中するしか道は残されていなかったかもしれないので、生きて戻れたのはむしろ幸いと言えるだろう。

■ 水野美紀が熱演!厳しくも優しい松葉屋の女将

そんな女郎たちに過酷な現実を突きつけたのが、松葉屋の女将・いねだ。足抜けしたうつせみを水責めにしながら「このしょんべん女郎!」と罵倒する姿がすさまじかったが、そのあと足抜けした女郎が、ろくな暮らしができるはずがないと説いて聞かせるところは、単なる脅しではなく「かわいそうだけど、ここに来た以上はそういう運命だ」という、ほのかな同情がこもっているようにも聞こえた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。足抜けがバレて、いね(写真右、水野美紀)から激しい折檻を受けるうつせみ(写真左、小野花梨)(C)NHK

ここでポイントとなるのが、いね自身が元は花魁で、吉原の現実を最下層から見てきた女性ということだ。おそらくは彼女自身、務めのつらさに逃げ出したくなったり、実際に足抜けしようとして失敗した仲間たちを見てきたはず。自分が松葉屋に見初められ、女将となることで女郎生活から脱出できたように、身請けにせよ年季を満了するにせよ、正攻法で女郎を引退してほしい・・・という願いが、忘八ながらあるのではないかと思える。

そして激しい折檻シーン(実際は足抜したら逆さ吊りだったそうなので、まだマイルドかも)から、瀬川にその名跡の役割を説くシーンは、演じる水野美紀の静と動の演技の使い分けが見事だった。「瀬川」が莫大な身代金で身請けをすることで、吉原が潤うだけでなく、女郎たちに「こういう未来があるかもしれない」という希望を抱かせる。それによって美貌や芸を磨くことに張り合いを持ち、次の「瀬川」となる人材を生み出すことができる。瀬川(花の井)ならずとも、心を動かす説得力にあふれていた。

■女郎の幸せとは?身請けされた瀬川の今後…

こうして瀬川は重三郎の思いを振り切って、鳥山検校に身請けされることになった。身代金千四百両(約1億4千万円)は、のちに戯作(小説)のネタになったほどの高額だ。瀬川にとって幸いなのは、相手が現時点では紳士的かつインテリで、しかも生活に不自由させなさそうな金持ちということ。これでめでたしめでたしとなるのかは、このあとの歴史を知ると先行き不穏ではあるのだけど・・・女郎たちが幸せになるために、本当に求められることはなんなのか? ということを、つくづく考えさせる回だった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。鳥山検校(写真右、市原隼人)との正式な身請けが決まった瀬川(写真左、小芝風花)(C)NHK

ちなみに今回のサブタイとなった「玉菊燈籠」の玉菊だが、この50年ほど前に実在した女郎で、才色兼備であるだけでなく、人柄の良さで吉原の人たちに愛された存在だったという。大酒のために若くして亡くなり、彼女の供養のために街の人たちが燈籠を飾ったのが、「吉原三景」と称えられるほどの年中行事に発展したのだ。吉原で早世したとしても、行事としてその名を残し、吉原に人を呼ぶ種となる。これもまた、女郎の幸せの1つだと言えるのかもしれないし、今回のタイトルに使われた意味なのかもしれない。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月9日放送の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、重三郎が吉原を去る瀬川のために新しい錦絵作りに乗り出すところと、田安賢丸(のちの松平定信/寺田心)が江戸を去る前に、幕府にある働きかけをする姿が描かれる。

文/吉永美和子

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