逆転の告白も…蔦重と瀬川の初恋の終えんに複雑な心境【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回より。年季明けを待って、瀬川(写真右、小芝風花)と一緒になる約束をする蔦重(写真左、横浜流星)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。3月2日放送の第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、重三郎と瀬川の恋に急展開があった一方、新之助&うつせみカップルにも事件が。怒涛の地獄の連鎖に、SNSはほぼほぼ悲鳴が上がりっぱなしだった。
■ 足抜けを計画する二組の未来…第9回あらすじ
平賀源内(安田顕)に付きそう浪人で、重三郎とも親しい小田新之助(井之脇海)は、瀬川(小芝風花)と同じ「松葉屋」にいる女郎・うつせみ(小野花梨)と良い仲だが、うつせみは新之助の花代を立て替えるために、問題のある客を取るようになっていた。一方、自分が瀬川に惚れていることに気づいた重三郎は、外の女性が出入りする機会が多い「玉菊燈籠」の行事を利用して、瀬川と足抜する計画を立てる。

しかし重三郎がそれを決行する前に、新之助とうつせみが重三郎の計画と同じ方法で逃亡。2人は捕まり、うつせみは松葉屋に連れ戻され、女将・いね(水野美紀)から、女郎が足抜をしても幸せになれる道はないと叱責される。新之助は切腹しようとしたところを重三郎に止められ、うつせみが殺されることはないと聞いて刀を収めた。重三郎と瀬川は、この2人の姿を自分たちと重ねて、足抜を断念する・・・。
■ 蔦重の一世一代の告白に、盛り上がるSNS
前回の第9回では、瀬川の気持ちに気づかずに結婚マニュアル本を渡して「幸せになってね」と言い放ち、九郎助稲荷とともに「バーカバーカ!」と一斉ブーイングを浴びた重三郎。しかし、自分以外の男に笑いかけている姿を見て、自分の本当の気持ちに気付いた・・・という、これもまた「幼馴染の恋」の王道パターンとも言える展開で、ついに「俺がお前を幸せにしたい」と告白!! この恋の大逆転に、SNSが盛り上がらないわけがなかった。

「俺がお前を幸せにしてえの!(やっと言えた)」「稲荷『それが正解だよ』」「これこそ瀬川が蔦重から聴きたかった言葉。瀬川の唇がずっと震えてるのが凄かった」「前話蔦重の鈍感馬鹿対応があったからこそ、今話瀬川への一世一代の告白が一際光り輝き沁み入る」「最優秀告白大賞2025 最有力候補」などの声に加えて、鶴屋喜右衛門役の風間俊介も、Xで「先週に、それを言え。笑」というツッコミを入れていた。
しかし吉原の男衆と女郎の恋仲はご法度のうえ、まだ駆け出しの板元(しかも地本問屋連中全員敵に回したばかり)で、身請けなど到底できない身の上。年季が明けるのを待つと言うが、それは瀬川に最低数年は客を取らせつづけさせることになるのだが・・・? と視聴者をモヤらせたところで、松葉屋主人・半左衛門(正名僕蔵)がその仕事を重三郎に見せるという、とんでもない絵面を持ってきた!!!

吉原が舞台である以上、多少の過激な描写を覚悟していた視聴者も、これには「わああああああああ地獄かよ!!」「忘八こわー。でも年期明けまで務めさせるってのはこういう事なんだよな」「蔦重は吉原の女の仕事をわかってるようでわかってなかったのかもしれない」「蔦重があれだけ才能がある所をひとしきり見せておいた後で『こんな天才蔦重でもどうにもできない仕組みで動いている場所、それが吉原です!』回を入れてくる作劇、地獄への舗装が巧すぎる」「もはやR18大河」などの悲鳴がノンストップ状態になっていた。
■ 新之助とうつせみが足抜、待っていたのは…
金のない人がこの地獄から抜け出るには、もう「足抜」しかない。重三郎が目をつけたのは、吉原に出入りする一般女性が多くなる「玉菊燈籠」だった。盂蘭盆会の時期に、店先を様々な燈籠で飾るというこの風習。普段は風俗街に足を踏み入れない女性たちも、美しい光景を目当てに多数訪れる。足抜には絶好のタイミングかもしれないが、同じことを考える人はほかにもいた・・・かねてから恋仲だった、新之助とうつせみだ。

この思わぬ逃避行、明らかに「重三郎と瀬川が足抜していたらどうなっていたか」を、例として見せるような形。SNSでも「うつせみと新さんの失敗で、瀬川も蔦重も我が身を振り返るのほんとしんどい」「吉原の地獄をまざまざと見せつけられた。居ても地獄逃げても地獄」「たとえ足抜に成功したとしても、間違いなく足抜前より不幸になる。足抜に対する懲罰が厳しいことよりも、そういう構造に社会が作られていることを思い知らされる」などの嘆きの声が上がっていた。
■ 言葉の裏で思いを伝え合う、森下脚本の真骨頂
一度吉原の飯を食った以上、決してそのルールから逃れることはできないと思い知らされた重三郎と瀬川。表面的には『天の網島』(言わずとしれた近松門左衛門の心中物の傑作)の感想を語りあうという形で、人知れず別れを交わすことになった。『おんな城主直虎』でも思ったが、他の人には悟られないような会話で、互いの激しい思いを伝え合う裏腹なシーンを作らせると、森下佳子の右に出る者はなかなかいないと思う。

SNSでも「これは遠回しな『別れよう』・・・」「蔦重と瀬川にとって一生で一度の恋が終わった瞬間」「本をもらって恋に落ち、本を返して恋が終わる。どこまでもこのドラマらしく、なんて切なく美しいのか」「2年続けて結ばれないソウルメイトを見せつけられた我々視聴者」という泣きのコメントもあった一方「添い遂げられなかった、でも想いは通じたという恋が一番大切で一番厄介だから、これから物語にどう影響するのかな」と、逆に期待を高める声も見受けられた。
「吉原に人を呼びたい」というピュアな思いで、本作りの天賦の才を開花させた重三郎。一方、その「吉原」の現実を重三郎はどこまで理解しているのか? という声は、これまでも少なからず上がっていたが、この第9回で「こんな所だったんですよおおおお!!」ということを、重三郎にも視聴者にも本気で突きつけてきた。
人を呼ぶだけでは、決して女郎たちは幸せにはなれないという現実。しかし重三郎であれば、きっと「じゃあ、どうすれば幸せになるか?」の方向に頭を切り替え、またアイディアを練っていきそうな気がする。1つの恋の終わりを偲びつつ、重三郎の再出発に期待しよう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月9日放送の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、重三郎が吉原を去る瀬川のために新しい錦絵作りに乗り出すところと、田安賢丸(のちの松平定信/寺田心)が江戸を去る前に、幕府にある働きかけをする姿が描かれる。
文/吉永美和子
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