元雪組トップスター彩風咲奈「ロス期間経て、改めて頑張る気持ちに」

2025.3.19 11:40

卒業後の変化について、「やはりネットの世界(インスタグラム)に踏み出したのは大きいですね。今までそういうことはまったくやったことがなかったので、ゼロから学ぶことばかりです」

(写真4枚)

宝塚歌劇団に首席で入団し、約17年間の男役人生をまっとうして2024年10月に退団した、元雪組トップスターの彩風咲奈。長い手脚を活かしたスタイリッシュなダンスでショースターとして輝く一方、『CITY HUNTER』『蒼穹の昴』『ベルサイユのばら』などで多彩な役を演じてきた。

5月に退団後初ステージとなる『彩風咲奈1st Concert「no man’s land」』を、「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)と「東京国際フォーラム ホールC」(東京都千代田区)で控える彼女にインタビュー。コンサートにかける想い、退団後の心境の変化、ダンスの転機などについて聞いた。

卒業後の変化について、「やはりネットの世界(インスタグラム)に踏み出したのは大きいですね。今までそういうことはまったくやったことがなかったので、ゼロから学ぶことばかりです」
卒業後の変化について、「やはりネットの世界(インスタグラム)に踏み出したのは大きいですね。今までそういうことはまったくやったことがなかったので、ゼロから学ぶことばかりです」

取材・文・写真/小野寺亜紀

■「俗にいう『ロス』になりました

――宝塚を卒業後、約4カ月の日々はいかがでしたか?

退団してすぐ、俗にいう「ロス」になりました。今までずっとお会いしてきた皆さんに会えない寂しさ。男役ができないこと、男役として皆さんの前に立つことはもうないんだという寂しさをすごく感じました。そして自分は本当に宝塚が好きで、男役が大好きだったんだなと思いました。

――いろいろと実感されたのですね。

でもそのロス期間を経たことで、宝塚ファンの気持ちにあらためてなりましたし、頑張ろう!と思える力が湧きました。退団後、週に一度ダンスレッスンに通っているのですが、宝塚時代は大好きだった男役に、逆にすごくとらわれていたんだなということも発見しました。

今までは、男役としてダンスの表現をどうかためるか、どう格好良く振付を踊るか、というのがメインでしたが、今はダンスの先生のニュアンスをそのまま受け取り、身体やラインの使い方はもっと柔軟にしていいんだ、とかいろいろと気づいて、踊るのがさらに楽しくなりました。

――今興味があるダンスのジャンルは?

やはりシアターダンスがとても好きなので、そこはもっと極めていきたいです。それから退団の少し前に、コンテンポラリーダンスにも触れたのですが、言葉がないなかで感情や抽象的なテーマを表現するのも素敵だなと思いました。

シアターダンスのように「魅せる」ダンスも好きなのですが、私は想いを伝えることが好きなので、そういう感情を伝えるコンテンポラリーダンスももっと勉強していきたいです。

――5月に開催される退団後の初コンサートではさまざまなダンスナンバーを披露される予定ですね。タイトルに込められた想いは?

このタイトルは、演出の荻田(浩一)先生と最初にお話ししたとき、私が「男役からまだ変化しきれていない姿、途中過程をお届けしたい」とお伝えし、荻田先生が考えてくださいました。「中間地点」「まだ手のつけられていない土地」という、今しかできないものをお届けしたいという想いが込められています。

――荻田さんは宝塚歌劇団にも所属されていた演出家さんですが、彩風さん自身が構成・演出のお願いを?

はい。私は宝塚に入る前から荻田先生の作品が大好きで、初めてバウホール公演に出演したのも荻田先生の作品(『凍てついた明日-ボニー&クライドとの邂逅(かいこう)-』)で、先生が宝塚を退団される前の最後の作品(『ソロモンの指輪』)も雪組でご一緒しました。短い期間でしたが色濃い時間を過ごしたのが印象的で、またご一緒したかったですし、退団後初めてのコンサートは少しでも宝塚や私のことをご存知の方がいいなと思いお願いしました。

撮影時、その表情に思わず「あのポスター……」と言葉がもれると、「音楽学校の!」と自身がモデルを務めた宝塚音楽学校生募集ポスターのことだとすぐに気づいてくれる彩風
撮影時、その表情に思わず「あのポスター……」と言葉がもれると、「音楽学校の!」と自身がモデルを務めた宝塚音楽学校生募集ポスターのことだとすぐに気づいてくれる彩風

――まだ稽古に入られる前ですが、見どころになりそうなところをお聞かせください。

振付の先生の名前(原田薫・大野幸人・三井聡・Seishiro・橋本由希子)を見ていただくとわかると思うのですが、とても素晴らしい方々に振付をお願いしていて、まず「踊ります!」というところです(笑)。男性とご一緒するのも初めてなので、さまざまなコラボレーションをお届けできればと思います。

――彩風さんが中心になって踊られた名シーン「海の見える街」(ダンスパーティーで男女がジャズにのせて、約5分間にわたり爽やかにパワフルに踊る)の振付も三井先生でしたね。

最初に『SUPER VOYAGER!』(2017年上演)で踊ったときは、三井先生と「初めまして」だったので、何度も振りを見ていただいたりして、先生のニュアンスをどうお客様にお伝えしようかと思っていました。また、まったく歌のないダンスだけのシーンは結構珍しくて、その総踊りをみんなで総合芸術としてつくるのに頑張った思い出があります。

その後数々お世話になり「三井聡先生エッセンス」が入ったところで、『ALL BY MYSELF』(2024年上演)でリバイバルとして踊ることに。この公演では、初演のときより「こんな風に踊ればよかったんだ」と身体が動いたところがあります。卒業間近だったので、初演のころのがむしゃらな思いとかいろんなものもなくなって。でも初演は初演のよさが、『ALL BY MYSELF』にはそのころのよさがあったと思います。

――一緒に踊られるメンバーも、また違いましたよね。

『ALL――』では「音楽学校に入る前に観ていました!」という下級生もメンバーに入ってきて。「大好きな場面で踊れるのがうれしいです」という子が本当に多くて、卒業公演を控えた時期に、下級生たちにこの場面が受け継がれていくことも大きな喜びでした。

「自分の技量が全然足りていなくて、身体づくりから」

――彩風さんにとって「ダンス」とはどういうものですか?

私はもともとダンスに苦手意識があり、いつも「闘わなきゃいけないもの」でした。ありがたいことに、下級生のころからダンスシーンに出させていただくことが多かったですが、そこに自分の実力が追いついていないと思うことが多くて。

でもトップに就任したあたりで、ダンスは本当に楽しいなと意識が変わりました。そのきっかけが『ODYSSEY(オデッセイ)-The Age of Discovery-』でしたね。

――東京での上演がコロナ禍で全公演中止となり、その後「梅田芸術劇場メインホール」で2022年に上演された作品ですね。

そうです。2幕もののレビューだったのですが、これを1日で2回公演をこなす自分の技量が全然足りていなくて、身体づくりから始めたんです。今までは踊るナンバーの練習ばかりしていたのが、すべて踊り切るためにどこの筋肉をつけたらいいかなど、身体のコンディションから整えることを始めました。

そしてこの舞台をやり切った後、その身体をキープすることが、また次に繋がっていって……と、踊るための身体をつくる大切さを学びました。

――確かにハードな公演だったと思います。その身体づくりのために始めたことは?

いろいろなことをやったのですが、一番私に合っていたのがジャイロトニックでした。ピラティスに似たような感じなのですが、私はこれがすごく好きで、身体を動かしながら筋肉をつくれるというのが、自分に合っていたのだと思います。

――今も続けているのですか?

はい。コンサートに向けて鍛えなきゃ、と思っています。

――ところで彩風さんは雪組トップスターになられてからも、舞台上での挨拶がとても温もりがあって素敵だなと思っていました。

ありがとうございます。私は思い返してみれば、挨拶は毎回、卒業のときの最後の挨拶も、前日にお風呂場で考えていました。

――前日に!? 湯船につかりながらですか?

はい! 前日の夜です。言葉が湧いてこないと文章をつくれなくて。やっぱり退団公演のときは毎日舞台をやり遂げることに精一杯でしたから。

――「あなた」という言葉を使われるなど、皆さんに深く伝わるように言葉を紡いでいらっしゃった印象があります。心の指針にしている言葉があれば教えてください

私は宝塚でいろいろな方と出会えたことが財産になっていて、その時々で皆さんからさまざまなことを教えてもらいました。

本当に幸せな下級生時代を過ごし、いろいろな新人公演で主演をさせていただきましたが、「もっと周りを見なさい」「自分のことばかりではなく、下級生をどんどん見てあげて」など、その都度私に教えてくださる方が周りにいて、一つひとつの言葉が残っています。舞台は本当にひとりでつくるものではないんだな、という思いがあります。

退団後初コンサートには竹内將人、菜々香、鈴木凌平など実力あるキャストがそろい、「お客様と一緒に楽しめる作品に」と意気込む
退団後初コンサートには竹内將人、菜々香、鈴木凌平など実力あるキャストがそろい、「お客様と一緒に楽しめる作品に」と意気込む

――宝塚でたくさんの学びがあったのですね。退団後、何かやってみたいことや、実際にやってみたことはありますか? 

それが意外と、退団してからやってみたことはなくて(苦笑)。ヘアスタイルも特に伸ばしたいという気持ちはないんです。伸ばしたくなったら伸ばすかもしれないのですが、今は男役のショートではできなかったスタイルなど、ショートの幅を広げたいなとは思っています。

――今着けてらっしゃる素敵なピアスは、もしかして新しいことのひとつでしょうか?

あ、そうですね。確かに男役時代は、フェミニンに見えることはすべて避けていたので、こういうピアスも自分のなかでは、辞めてからという思いがありました。

――あらためて振り返ると、「彩風咲奈」さんはどんな男役だったなと思われますか?

本当に格好よくなかったなって思います(笑)。トップスターに就任したとき、自分が思っていたどの方の背中にも届いていないと思ったんです。「もっとトップさんは素敵だった。先頭をきって私たちを導いてくれていた」と。

でも、格好いいヒーローから、少年漫画の登場人物や、夢さん(『夢介千両みやげ』の朴訥とした夢介)のような宝塚の主演男役には珍しいタイプの男性まで、いろいろなお役をさせていただき、「彩風咲奈ってこうだよね」と決めつけられていないのが、自分のいいところだったかなと思います。フェルゼンだったら、「フェルゼンみたいな男役」ではなく、夢さんもできる、みたいな(笑)。

――そういう意味では、退団後もいろいろな色に染まっていけたらと?

はい、そうですね。いろいろなものを見て、いろいろなものを感じて、挑戦したいと思えることを探していきたいです。

◇ ◇

『彩風咲奈1st Concert「no man’s land」』は、5月2日~5月4日に「梅田芸術劇場メインホール」、5月10日~5月12日に「東京国際フォーラム ホールC」で上演される。スペシャルゲストとして大阪公演には水夏希、東京公演には望海風斗が出演(それぞれ一部の回)。アフタートークショーも開催され、彩凪翔・愛月ひかる・舞羽美海が登場する。チケットは3月29日一般前売り開始。

彩風咲奈1st Concert『no man’s land』

期間:2025年5月2日(金)~5月4日(日) 
会場:梅田芸術劇場メインホール(大阪市北区茶屋町19−1)
料金:S12500円、A8000円、B5500円

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