朝ドラのセット作り裏側、異例の「2階建て」と「鏡」の苦労

2025.3.8 17:45

NHK大阪局1階アトリウムに再現された「ヘアサロンヨネダ」のセット

(写真9枚)

連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)のセットや小道具が、現在NHK大阪放送局(大阪市中央区)にて一般公開されている。これにちなんで、朝ドラ16作品の美術に携わり、現在『おむすび』の美術チーフをつとめる西村薫さんに「朝ドラ美術の秘密」について訊いた(取材・文/佐野華英)。

【前編】朝ドラ16作を担当した美術スタッフが語る、「小道具」の秘密

■ 苦労した『あさが来た』のセット。「崖」の使い回しがバレて…

──大量の大道具や小道具、衣装などはどうやって管理しているのですか?

NHK大阪放送局はあまり広くないので、ここに全ては置いておけないんです。大道具・小道具・衣装などはそれぞれの業者さんに管理してもらい、その都度出してきてもらっています。

昔は僕も直接倉庫に行って、ああでもないこうでもないと、やりとりをしたこともありましたが、長いお付き合いになるので最近はもうお互い勝手がわかっているというか。「これはイメージと違うかも」というようなことはほぼなくなりましたね。

──担当された朝ドラのなかで、特に思い出深い作品はありますか?

『あさが来た』(2015年後期)ですかね。時代ものの朝ドラはいつも苦労するんですが、『あさが来た』は幕末からのスタートだったのでさらに大変でした。あさ(波瑠)の実家と婚家に加えて炭鉱、はつ(宮﨑あおい)の婚家の「大店」らしさを出すのとか、和歌山に行ってからのみかん農家など、それぞれのセットでの撮影スケジュールがタイトななか、「撮って、解体して、作って」を繰りかえして。時間がないので和歌山と炭鉱の崖の部分を共通で利用したところ、視聴者の皆さんにバレてしまったという思い出があります(笑)。

西村さんはセットの制作に先駆けて常にダンボール製の建築模型を作るのだそう。「人型のフィギュアを置いてスマホで写真を撮ってみると画角に収まるスケール感がわかるんです」とのこと

■ 昔に比べて格段にシーン数が増えた、21世紀の朝ドラ

──初めて担当された朝ドラ『すずらん』の頃と今の朝ドラで、美術に関して大きく変わったことはありますか?

やっぱりまず、台本が変わってきていますね。昔の朝ドラみたいにお茶の間や食卓のシーンが主体ではなくて、いろんな場所で撮らなければならない。シーン数が増えるのに伴ってセット杯数も増えるので、描く図面の枚数も以前より確実に増えています。

糸島・米田家の、農作物の出荷準備をする作業場

──今回一般公開されている『おむすび』の「糸島の家」と「ヘアサロンヨネダ」のセットについて教えてください。

朝ドラの美術はいつでも、スペースとスケジュールの割りふりがいちばん難しいですね。糸島の家のセットを作るために現地でいろんな民家を取材しましたが、どの家も広いんです。カメラレンズの関係で、通常セットは原寸の7割ぐらいで作るのですが、それでもあのスケール感を出すためには糸島の家のセットがスタジオの3分の2以上を占めてしまって。

大きく映る植木は本物の木を使用している

キャストのスケジュール上、「スナックひみこ」のセットは同時に建てなければならなかったので、入りきらない結(橋本環奈)や歩(仲里依紗)の子供部屋は作業場の上に組んで、2階建てセットにしました。セット作りでは常にスケジューラーと連携をとって、建てたり建て替えたりする相談をしていますが、他の週も撮影スケジュールに合わせて、毎回複数のセットを組まなければならないので、常にパズルのような感じで頭を捻っています。

西村さんら美術スタッフが糸島の民家を訪ね歩いて知った「糸島らしさ」が家のそこここに

ヘアサロンヨネダは、なんと言っても「鏡」に苦労しました。僕は常々「鏡を使うセットは大変だよ」と釘を刺しているんです。鏡を大きくすればそれだけ撮影スタッフが映り込みやすくなるから。なので、不自然にならない範囲で鏡はなるべく小さく作るようにしています。

「ヘアサロンヨネダ」のバーバーチェアまわり。鏡のあるセットでのスタッフの映り込みを防ぐのは至難の業らしい
聖人と愛子(麻生久美子)の理容師免許証

散髪に来たお客さんとのシーンより、商店街の人たちと喋っている場面のほうが多いので、待合はリアルより広めに作っています。ちなみに、ヘアサロンヨネダに貼ってあったカットモデルの写真ポスター(前半で登場)とイラストポスター(後半で登場)のモデルは演出と美術のスタッフです。

待合スペースに置かれた雑誌と漫画。『ジロヲの微妙な冒険』は『舞いあがれ!』「うめづ」の蔵書から。『サーカス』は『カムカムエヴリバディ』でひなた(新津ちせ)が読んでいた少女漫画誌『おサーカス』の少年版だろうか
「ヘアサロンヨネダ」の壁に貼られたカットモデルポスターは、演出と美術のスタッフの似顔絵とのこと

『おむすび』セット公開は3月9日まで開催され、8日(土)と9日(日)には制作スタッフのミニ講演会もおこなわれる。午前10時から午後5時まで、入場は無料。

【前編】朝ドラ16作を担当した美術スタッフが語る、「小道具」の秘密

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