結ばれなくとも夢でつながる、蔦重と瀬川の愛【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。最後の花魁道中を歩く瀬川を見つめる蔦重(横浜流星)(C)NHK
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。3月9日放送の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、重三郎が瀬川の落籍記念となる絵本『青楼美人合姿鏡』を発売。重三郎がその本に込めた、瀬川への思いと餞別の言葉に、SNSは号泣状態となっていた。
■ 豪華絢爛な錦絵本を餞別に…第10回あらすじ
瀬川(小芝風花)の落籍を前に、重三郎は吉原の主人たちから、女郎たちを宣伝するための新しい絵本を依頼される。これまでさんざん世話になり、そして密かに恋していた瀬川に報いるため、今までにない錦絵本を作ることを決意。『一目千本』で世話になった北尾重政(橋本淳)と、役者絵を得意とする勝川春章(前野朋哉)を招き、あえて女郎たちの日常風景をテーマにした豪華絢爛な錦絵本『青楼美人合姿鏡』を完成させた。

重三郎は、最後の花魁道中を間近に控える瀬川に『青楼美人合姿鏡』を渡し、吉原が楽しいことばかりで、女郎がいい思い出を持てる場所にしたいという夢を語る。それを馬鹿らしいと笑う瀬川に「こりゃ2人で見てた夢じゃねえの? お前と俺をつなぐもんはこれしかねえ」と打ち明け、自分はこの夢を見つづけると宣言した。そして年末におこなわれた、瀬川の最後の花魁道中が終わると同時に、『青楼美人合姿鏡』がはなばなしく売りに出されたのだった。
■ 蔦重が瀬川に送る「最後にして最高のラブレター」
ずっと好きだった(と20年経ってから気付いた)幼馴染への恋が破れ、抜け殻のようになった重三郎。しかし失恋の傷を癒やすのに一番いいのは、いつの時代でも好きな仕事に没頭すること! というわけで、タイミングよく吉原の忘八アベンジャーズに、豪華な錦絵本の制作を頼まれた重三郎。しかしこれが、瀬川に送る最後にして最高のラブレターになるだなんて、オープニング時には誰が想像できただろうか・・・。

まずはどんな姿を描こうかと考えたときに、芝居小屋のエリアを歩きながら「役者の普段の姿(オフショット)って需要があるんじゃね?」と思いついた。このひらめきにSNSでは「役者してない時の役者絵か・・・蔦重それオフショやないか」「オフショも蔦重が発明したの!?」「江戸の人々もオフショに熱狂していたと思うと嬉しい」「マジでこいつ昨今のオタク市場でも通用する戦術取ってくる」と、目の付け所の鋭さに改めて驚きの声が。

しかしこれは単にファンの需要を満たしただけではなく、瀬川にとっても嬉しいショットとなった。望まない客すら取らねばならないオンのときではなく、好きな本を片っ端から読めるオフの方が、瀬川にとっては吉原で味わえる幸せな時間だったはず。本を読む自分の姿を見ることで、瀬川が楽しく幸せなときだけを思い出すという効果を、重三郎は最初から狙っていたのか否か。もしキッチリと狙ったのだとしたら、このプロデュースの天才ぶりを表せる言葉は、ちょっと見つからない。
SNSでも「楽しかったことだけを残そうとするのが蔦重の、彼の今出来る精一杯のことなんだよ」「餞別の絵本がつないだ二人のひとときの逢瀬は、一度きりの契りを交わしたようなものかもしれない」「瀬川の現存する姿というのは『青楼美人』の本を読む絵だけだと思うんだけど、そこから瀬川と蔦重の繋がりを広げてこんな素敵な物語にするのが森下佳子の力業」「沼るしかねえだろこんな男・・・つら」などの感動の声があふれていた。
■ 結ばれなくても「覚める気はない!」2人で見た夢
そうして迎えた、瀬川の最後の花魁道中。花嫁衣装で、幸せそうな微笑みを浮かべながら歩くその姿は、前回で女将・いね(水野美紀)が言い聞かせたように、まさに多くの女郎たちにその背中を見せる晴れ舞台となった。しかしそのとき瀬川の心にあったのは、重三郎の「吉原を幸せな場所にするという2人の夢を、俺はずーっと見つづける」という言葉。自分はもう叶えることのできない夢を、愛する男が生涯をかけて実現に向けて生きてくれるだなんて、これはもう結婚なんかしなくたって、恋愛成就も同然ではないか。

SNSでも「『俺はこの夢から覚めるつもりは毛筋ほどもねぇよ!!』なんちゅう告白」「これは2人で見た夢で、自分はその夢から覚める気がないってさあ・・・一緒になれなくても自分の人生あげますっていう最高のプロポーズじゃないですかもう涙とまんねえ」「全然愛の告白じゃないのにめちゃくちゃ愛の告白なの本当にこの脚本家さんは・・・!!」「今日の瀬川が一段と美しいのは蔦重の言葉があったからだと思うのよ」という、涙涙のコメントが多数。
■ 無言ですれ違う2人…からのイベント即売会!
そんな2人が大門の前で、無言ですれ違うシーンはあまりにもドラマティックだったけど、なんで重三郎が花魁道中のどセンターで、都合よく待ち構えることができるの? もしかして妄想?・・といぶかしんでいたら、瀬川が吉原を出た瞬間にすかさず『青楼美人合姿鏡』を、街を上げてプロモーションするという作戦ゆえだった! しかも蔦重にとっては、別れの寂しさに浸る間もなく働けるわけだから、まさに一石二鳥ってなものだったろう。

SNSも「イベント会場先行発売だ!」「いい感じで送り出したのに、途端にプロモーションに入るのウケる」「そうか大店に協力依頼してるから、大門まるごとセールスの場・・・!!」「余韻・・・とかない! これでこそ蔦屋重三郎!!!」と商魂のたくましさと抜け目のなさにうなる一方、いつもは通りすがる程度の平沢常富(尾美としのり)がバッチリ映っていたために「尾美さぁぁん!! 今日はわかったよぉぉ!!!」「今週の尾美としのりを探せは瀬川身請けのご祝儀サービス問題」という声も混じっていた。
こうしてド派手に失恋の傷を癒やして、板元としての蔦屋重三郎の再出発・・・と思いきや、『青楼美人合姿鏡』を見た鶴屋喜右衛門(風間俊介)から「この本は売れません」という不穏な言葉が。これは本自体になにか問題があるのか? それとも吉原の悪評を市中に吹聴したように、鶴屋がなにかネガキャンをしかけるのか? この鶴屋ならやりかねないが・・・その真相が気になるところだが、次回予告を見る限り、瀬川はまだ退場とはならないようなので、そこは安心しておこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月16日放送の第11回「仁義の馬面」では、重三郎が浄瑠璃の人気太夫・富本午之助(寛一郎)を「俄(にわか)」の祭に呼ぼうと奮闘するなかで、鳥山検校(市原隼人)に嫁いだ瀬川と再会するところが描かれる。
文/吉永美和子
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