オフショにイベント即売会、蔦重の先見性が炸裂【べらぼう】

7時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。徳川家基(写真左、奥智哉)と将棋を指す田安賢丸(写真右、寺田心)(C)NHK

(写真6枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。3月9日放送の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、重三郎が『青楼美人合姿鏡』の発刊で、またしても前代未聞のアイディアを実現。それと並行して、武家のなかでも吉原に似た話があるという点にもスポットが当たった。

■ 蔦重の将軍献上作戦、一方幕府では…第10回あらすじ

駿河屋市右衛門(高橋克実)らが、市中の本屋の吉原出禁を宣言した一方、若木屋与八(本宮泰風)など一部の女郎屋はそれに反発し、西村屋与八(西村まさ彦)に接近していた。一方、吉原を誰もが憧れる場所にする夢を、須原屋市兵衛(里見浩太朗)や平賀源内(安田顕)に語った重三郎は、源内の「千代田のお城(江戸城)のように」という言葉から、自分が作った錦絵を将軍に献上することで、吉原の格を上げるという作戦を思いつく。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。将軍への錦絵本の献上を相談される田沼意次(渡辺謙)(C)NHK

重三郎は源内を通じて、老中・田沼意次(渡辺謙)に『青楼美人合姿鏡』を献上することに成功した。その頃幕府では、田安賢丸(のちの松平定信/寺田心)が白河松平家に入るために江戸を去るのを目前に、妹・種姫(小田愛結)を将軍・徳川家治(眞島秀和)の養女とし、ゆくゆくは後継の家基(奥智哉)に嫁がせるという話が浮上。これによって田安家の存在感が増し、田沼家の先行きが暗くなることを、意次は案じるのだった・・・。

■ オフショットも蔦重の発明!?先見性が炸裂

今現在のメディアで普通におこなわれていることのなかで、実は蔦屋重三郎の発明だった! というものは、ここまででもいろいろ出てきたが、『青楼美人合姿鏡』の内容・販売方法でも、その天才性がいかんなく発揮された。最初の発明は、女郎の普段の姿を描くということ。これは吉原内部の人間として、素の女郎たちがときとして着飾った姿より美しいことを知っていたからこそひらめき、さらに内部の人間の気安さで、その姿を実際に写し取れたから実現した。まさに吉原独自の板元という特性を、活かしきった一冊なのだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。昼間は生け花など、思い思いに過ごす花魁たち(C)NHK

またこの錦絵の作成に、当時売れっ子の勝川春章(前野朋哉)を巻き込めたのも大きかった。その辺りの詳細は描かれなかったが、劇中の台詞から察するに「女が描けない」と言われていた春章に、女郎の絵を描かせるというアイディアが、春章のチャレンジ精神に火をつけたのではないだろうか。人気クリエイターがあえて未知のジャンルに挑戦することで生まれる刺激は、特に例を出すまでもなくいろんな作品が浮かぶはず。

■ 人脈フル稼働で「将軍献上」錦絵本の販売戦略

そしてもう一つの大きな戦略が、将軍に錦絵を献上して箔をつけるということ。今現在でも「皇室御用達」とか「モンドセレクション」とか銘打たれたものには、どうしても手が伸びやすいのとまったく一緒だ。ただ現在に例えて言うと、ものすごく豪華な装丁の、アイドルのオフショ写真集を天皇陛下に差し上げるようなものなので、この感覚だけはちょっと共有しがたいかもしれない。とはいえそのインパクトの衝撃は、おそらく江戸時代の人にとってもかなり大きかったはずだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。田沼意次に錦絵本の将軍への献上を頼む蔦重たち。写真左から、平賀源内(安田顕)、扇屋宇右衛門(山路和弘)、駿河屋(高橋克実)、蔦重(横浜流星)(C)NHK

さらにダメ押しとして、瀬川の最後の花魁道中という、ほかの花魁たちも多数集まったイベント会場で、彼女らが掲載された錦絵をここぞとばかりに先行発売するという方法。しかも須原屋市兵衛(里見浩太朗)を巻き込んで、須原屋でのみ市中の独占販売を行った。地本問屋ではなく、基本的には娯楽本を扱わない書物問屋で売るというのも、次元を超えた発想だ。まだ第10回だというのに、すでに本の内容や販促に革命を起こした重三郎。ここからまだ伸びしろがあるというだから、もう痛快というのを通り越して、恐怖すら感じる。

■ 吉原も幕府も一緒? 家のため利用される女性たち

さてそんななか、『青楼美人合姿鏡』を将軍に献上するということで、久々に重三郎と幕府パートがリンクする機会ができた。この頃の幕府は、まだまだ田沼意次が実権を握っている頃だが、田安賢丸がそこに楔を打ち込もうとする姿が描かれた。しかしその方法が、妹・種姫を時期将軍の正室候補として、幕府に送り込むというもの。まさに名前通り「種を撒く」という事態になったわけだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。将軍家の養子になる田安賢丸の妹・種姫(小田愛結)(C)NHK

しかしこれは、SNSでも幾人かが指摘していたが、家の繁栄のために妹を将軍家に入れるというのが、生活に困窮したから娘を吉原に送るというのと、考え方としてはほとんど変わらないのではないだろうか? 実際に大奥で高岳(冨永愛)の挨拶を受けた種姫の表情は、新しい生活への期待よりも、「なんでこうなったの?」という疑問の方が色濃く出ているように感じられた。この時代、女性が家を存続させるための道具として、意に沿わぬことをさせられるのは、御三卿も庶民も変わらなかったのだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回より。鳥山検校(写真左、市原隼人)に嫁ぐ瀬川(写真右、小芝風花)(C)NHK

種姫が将軍家に入ったのも、瀬川が落籍したのも、どちらも1775年の年末の頃。一人は兄の策略で籠の中に入れられ、一人は富豪の金で籠から脱出した。生まれや育ちは真逆だけど、置かれた境遇は似た者同士に思えるこの2人が、ほぼ同時期に大きな運命の転機を迎えているのが、歴史の偶然としてはおもしろいし、そこに目をつけてこのエピソードを同時に出した森下佳子の発想力にも、ただただ感服するしかない。

種姫がこのあと誰に嫁ぐことになるかは、大きなネタバレとなるので詳細は伏せるが、この兄がいらんことをしたせいで、かなり気苦労の耐えない人生を送ることになる。彼女があのとき、手にした種の正体を賢丸に聞きに行かなければ、また違う人生が待っていたのだろうか・・・。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月16日放送の第11回「仁義の馬面」では、重三郎が浄瑠璃の人気太夫・富本午之助(寛一郎)を「俄(にわか)」の祭に呼ぼうと奮闘するなかで、鳥山検校(市原隼人)に嫁いだ瀬川(小芝風花)と再会するところが描かれる。

文/吉永美和子

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