神戸で生まれ歌い継がれる『満月の夕』あれから30年…中川敬に聞く

ライブハウス「磔磔」で行われた『つづら折りの宴〜あれから30年』の様子(2025年1月19日/京都市下京区)
■「満月を見るの怖いなぁ…」胸いっぱいで一気に書きあげた『満月の夕』

──そして、その後に向かったのが長田だったんですか?
いや、12日にも三宮周辺へ演奏しに行って、14日が長田の「南駒栄公園」という港の方にある公園やったけど、それがちょうど1月17日以来の満月の夜でね。その日はなぜか北摂から長田に到着するまで道がすごく混んでて、6時間以上かかって、晩の7時ごろから演奏する予定やったのが9時ごろに着いちゃってね。
みんな寒空の下で待っててくれて、平均台みたいなのをいっぱい並べて客席にして、ドラム缶の焚火を周りに設置して、俺らが演奏するためのステージらしき場所があって。俺らは「遅れてゴメンゴメン」とか言いながら、車から楽器を持って行ってすぐに演奏した。で、演奏が終わって、ドラム缶の焚火に当たりながら被災者の人らと喋ってたら、みんながみんな空を見上げて「満月を見るの、怖いなぁ」って言い始めて。
ちょっと前に、山口洋(ヒートウェイヴ)が曲の入口の2小節分だけ作って、その続きを一緒に作ってほしいと持ってきてたメロディがあって、俺はその続きを8小節まで作ってた。簡単に言うと、一番のAメロのメロディやね。で、俺は3回神戸に行って4回ライブをやった段階で、もう胸いっぱいで、今この大事な体験を曲に落とし込むべきなんじゃないかと思って、「あのメロディを下敷きに曲を作ろう」と。長田のライヴの次の日、だから2月15日、俺一人で曲を全部作っちゃったわけ。それが『満月の夕』。

──「風が吹く/港の方から」とか「焚火を囲む」とか、『満月の夕』の歌詞にはその14日の長田の光景がリアルに描写されていますよね。(注:『満月の夕』にはソウル・フラワー・ユニオン版とヒートウェイヴ版が存在するが、それぞれに歌詞の一部が異なる)
その後の数年間で、被災地の慰問で約200本くらいのライブをやったけど、実は注意されたことが1度だけある。それもこの2月14日のことで、『チョンチョンキジムナー』を書いた照屋政雄さんの『トゥルルンテン』という沖縄民謡の曲をやって、その中に「祭りだ、祭りだ、みんなの祭り」という歌詞がある。もちろんやってる時はみんな手拍子で笑顔やったけど、終わった後、あるオッちゃんに「兄ちゃん、まだ瓦礫の下から出てきてない人がおるねん。祭りだ、祭りだという歌はヤメた方がエエんちゃうかー」って言われてね。
その後、俺はオッちゃんに「ええアドバイス、ありがとう」と言って『トゥルルンテン』はそれから数年間被災地でのレパートリーから外したんよね。でも、被災地で注意されたのはその1回だけで、もっと口論とかいろんなことになりそうやけど、他にはトラブルとかは一切なかったな。

──確かにもっとクレームを付けてきたり、絡んでくる人が出てきそうですけど。
後から振り返ると、俺は東日本大震災後に東北でも30カ所くらい避難所や仮設住宅へ歌いに行ったけど、まず1つ思うのは、この30年くらいで日本人は少し変わった。その次は、何より、阪神淡路大震災の時は関西人同士だったということ。俺らのバンカラな関西人の感じと、長田みたいな下町のノリがすごく合ったんやろなと思う。
演奏が終わった後も「おい!オレの店で焼肉を食わしたるから、来い!」とか言われて、俺らもゾロゾロ付いていって食わしてもらって、それがそのまま打ち上げになったりとか(笑)。そのオッちゃんも被災してたけど、店は大丈夫やったりしてね。だから、何か気質が合ったようなところもあった。
──この30年くらいで日本人は少し変わった、という話は頷けるところで、今だと当時のようにはいかなかったかもしれないなと思ってしまいます。
例えば、コレは当時人づてに聞いた話やけど、大阪のホームレスのオッちゃんらが歩いて神戸までやってきて、炊き出しに並ぶようになって。それを若い奴らがちょっと問題視したことがあって、その時にそこにおった爺さんらが「オレらもみんなホームレスみたいなもんやろ。メシはみんなで喰った方がうまいんや」と言って窘(たしな)めた。それでみんな黙ったらしいけど、それが今の日本でも起こることなのかどうかは、俺にはわからない。あの頃の日本の風景なのかもしれない、それは。
──確かに、今の日本ではどうかな・・・と思ってしまいますね。残念ながら。
当時は、そういう、温かいエピソードに溢れてたよね。当時も、なんか外国人がモノを盗んでるから自警団を作ってみたいな話が出てきかけてたところもあって、みんながそれを猛烈に窘めたらしいんよ。だから、それは関東大震災の時の朝鮮人や中国人の大虐殺とか、戦前の排外主義的な日本のことを実体験で知っている世代がまだ生きていたから、というのもあったやろうな。

こういう話は、俺は今でもちょくちょく思い出すことがあって、今回も新聞のインタビューとか結構あって、記者が20代後半やったりすると「中川さんは、この活動を通してどんなことを伝えたいのですか?」というような質問がくるわけやけど、やっぱりこのへんの話をちゃんと伝えていきたいな。
今は、SNSもかなり酷い状況になっているし、そういう意味でも、阪神淡路大震災の時のことをもっといろいろ思い出して、あの頃の人情味のある人間同士の付き合いみたいなエピソードを、ちゃんと伝えていかなアカンなと思う、次の世代に。人間はほんまは捨てたもんじゃないよ。日本は災害大国、災害列島。残念ながら今後も災害は起こるし、そこから逃げることはできないわけやから、人と人が助け合うしかない。大人たちがしかるべき情報を得て、しっかりやっていかなあかんのよね。
中川敬インタビュー後編 ガガガSP、BRAHMAN…中川敬『満月の夕』カバーへの思い
■ソウル・フラワー・ユニオン『闇鍋音楽祭 2025』
2025年3月22日 <東京> Spotify O-WEST
ゲスト:ピーズ
■ソウル・フラワー・ユニオン『年末ソウルフラワー祭 2024』大阪延期公演
2025年3月30日<大阪> 梅田 シャングリラ
ゲスト:伊丹英子(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)
■『中川敬・59回目の降臨祭』~ソウルフラワー中川敬の弾き語りワンマン・ライヴ!
2025年4月6日 <京都> 京都 磔磔
2025年4月12日 <愛知> 稲沢市 カフェサルーテ
2025年4月20日 <東京> 下北沢 440 (four forty)
2025年4月26日 <滋賀> 近江八幡 サケデリック・スペース 酒游舘
■『中川敬・雑種天国2025』~ソウルフラワー中川敬の弾き語りワンマン・ライヴ!
2025年5月10日 <大阪> 梅田ムジカジャポニカ
2025年5月17日 <宮城> 南三陸町志津川・月と昴
2025年5月18日 <福島> 郡山ピークアクション
2025年5月24日 <神奈川> 横浜サムズアップ
2025年5月31日 <兵庫> 加古川セシル
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