おむすび脚本・根本ノンジ氏、視聴者の声に感謝「朝ドラは偉大」

12時間前

『おむすび』第125回の場面より、結(橋本環奈)(C)NHK

(写真6枚)

放送を残すところあと5回となった連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)。脚本を手がけた根本ノンジ氏が、脚本脱稿後の2月初旬、インタビューに応じ、2年以上におよぶ朝ドラ制作を振りかえった(取材・文/佐野華英)。

■ 演者の芝居に触れ「どんどん書き足したい要素が増えて」

──『おむすび』の制作スタートはいつごろからだったんですか?

2022年の秋ぐらいから、制作統括の宇佐川隆史さんと打ち合わせを始めました。

──最終回で描かれる結末は、最初に想定していたものと変わりましたか?

おおまかな結末は作って想定していたんですが、そこに行き着くまでの流れがだいぶ変わりました。実際映像になったものを見て演者さんのお芝居に触れたり、スタッフ間で話し合っているとどんどん書き足したい要素が増えていくというか。でも、阪神・淡路大震災と東日本大震災、そして終盤でコロナを描くことははじめから決めていました。

『おむすび』回想シーンにて、歩(高松咲希)を抱きしめる母・愛子(麻生久美子)(C)NHK

■ 松平健の演技を見て、永吉のイメージがさらに膨らんでいった

──脚本の想定を超えてきたキャラクターはいますか?

前半では何といっても永吉さんですね。あんなにも自由奔放な存在になるのかと(笑)。書いている僕も松平健さんのお芝居を見て、さらに永吉さんのイメージが膨らんでいったところがあります。ルーリーも、あそこまで存在感が大きくなっていくとは想像していませんでした。みりちゃむさんの演技を見て、面白いからもっともっと出てもらいたいなという気持ちになりました。

『おむすび』第1回より、米田家の朝食風景。写真奥左から、父・聖人(北村有起哉)、祖父・永 吉(松平健)、結(橋本環奈)(C)NHK

後半では、宮崎莉里沙さんと新津ちせさんに演じていただいた花ちゃん。当初はあそこまで物語の鍵を握っていく想定ではなかったのですが、お2人の演技を見て変わっていったなという感じはします。

■ 震災の「その後」の日常を丁寧に描くことを重視

──それぞれ違うかたちで、震災によって心に傷を負った結(橋本環奈)、歩(仲里依紗)、孝雄(緒形直人)などの無意識下の苦しみや葛藤が、行きつ戻りつ、少しずつ変化していく様子が描かれていました。実はすごく難しいことをやっているなという印象があるのですが。

好意的にご覧になってくださった皆さんにはそう言っていただいて。シナリオの構造的にちょっと分かりにくいところもあったのかもしれないな、とも思います。でも、時間のかかることを丁寧に描いてきたつもりではあります。僕はいつも、人の心の移り変わりということに興味があるというか。

『おむすび』第21回より、海辺でたたずむ結(橋本環奈)(C)NHK

──ドラマ、特に朝ドラは「わかりやすさ」と「物語の奥行き」の決着点が難しいのではないかと思うのですが、根本さんはどういったバランスで『おむすび』を制作されましたか?

わかりやすく作ろうと考えているわけではないのですが、とにかくもうシンプルにこの米田家の人々がどういう風に人生を送っていくのか、ということを常に考えていました。結、歩、聖人(北村有起哉)、愛子(麻生久美子)は阪神・淡路大震災という非常に大きな出来事に直面しますが、このドラマは「その後」の日々を描いています。

それはつまり、友だちと出会ったり恋愛したりという、誰もが日常に感じる出来事です。僕の筆のタッチというんでしょうか、「わかりやすさ」よりも、どちらかと言えば、そういう日常を丁寧にゆっくりと描くということを重視したつもりです。

歩(仲里依紗)に「もうここには来んといてくれ」と言う渡辺(緒形直人)(C)NHK

■「シンプルな言葉で人の心に届く台詞を」根本氏のこだわり

──放送開始直後の記事(「夜ドラで人気作多数の脚本家・根本氏、朝ドラ執筆の苦労明かす」)で制作統括の宇佐川さんは、「根本さんの台本はブラッシュアップを重ねるたびにどんどん磨かれて、『ど真ん中』の王道だけれど、本気が詰まったものになっていく」と語っておられましたが、根本さんご自身の「台詞のこだわり」について教えてください。

台本に関しては、初稿を書いてみて伝わりづらかったり、専門的な台詞が多いのでわかりづらかったりするところを、スタッフ間で揉んでいくというやり方でした。みんなでディスカッションしてるうちに、どんどんシェイプされていくというか。僕自身は常に、なるべく簡単な言葉を意識していて。仰々しい言葉じゃなくて、シンプルな言葉で人の心に届けたいなと思っています。

──すべての台本を書き終えた今、どんなお気持ちですか。

ちょっとまだ自分の中で総括できていないのですが、夢中で走り抜けたという感じです。出だしのペースは順調だったんですが、後半になると精神的にも肉体的にも疲労がピークになり、最後の原稿を出し終わったあとは、倒れましたね(笑)。2日ぐらい動けなくなりました。

『おむすび』第121回より。新しく赴任した外科医に、手術の延期を頼み込むNSTチームのメンバーたち(C)NHK

■ 想像を超える反響に改めて思ったこと「朝ドラは偉大」

──「朝ドラって〇〇」。「〇〇」の部分には何が入りますか?

「朝ドラは偉大だ」ですね。書き始める前から思っていましたが、書き終えた今、さらに強く思っています。やっぱり毎日放送されて、毎日何かしら記事が上がって、いろんな方に感想を言い合っていただけるというのは、稀有な枠ですよね。

自分の想像をはるかに超える大きな反響があって、それだけ大勢の方に観ていただいているんだなと、改めて思いました。なので、今まで朝ドラを書いてこられたすべての脚本家の皆さんを僕は本当に尊敬します。「ああ、皆さんこうやってくぐり抜けてきたんだな。すごいな」って。

■ 誰もが、誰かを少しだけ思いやることができたら

──最終週の見どころを教えてください。

『おむすび』で阪神・淡路大震災を扱うと決めたときに、「ボランティア元年」と呼ばれた1995年という年は、多くの人が「自分に何ができるんだろう」と模索していた時期だったなと思い出しました。最終週は、これまで結や米田家の人々をはじめ、登場人物全員が問いかけてきた「何ができるのか」という問いへの、ひとつの答えが描かれます。それとともに、結と米田家の人々が今後の人生を見据えてどのような選択をしていくのか。ぜひ最後までご覧いただければうれしいです。

──最後に、視聴者にメッセージがありましたら。

半年間、『おむすび』を見守ってくださり、ありがとうございました。皆様の声はしっかり届いていましたし、その声で何度も何度も励まされました。心から感謝しています。この作品は「誰かのために自分は何ができるのか」ということをずっと描いてきました。一人一人ができることは限られていますが、誰もが、誰かを少しだけ思いやることができたら、今よりもっと優しい世界になると信じています。それが一人でも多くの方に伝わったら幸せです。皆様、長い間本当にありがとうございました。

『おむすび』は3月28日まで。3月31日からは今田美桜が主人公を演じる『あんぱん』が放送される。

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