蔦重の人心掌握術が生んだ、「三度」美味しい本【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第12回より。重三郎(写真左、横浜流星)と青本のアイデアを出し合う平沢常富(写真右、尾美としのり)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。3月23日放送の第12回「俄(にわか)なる『明月余情』」では、またしても重三郎が、時代を先取りした新しい本を発売。そして彼が大物作家を次々に落としていく、必勝パターンも見えてきた。
■ 人気作家の正体は吉原の馴染み客…第12回あらすじ
重三郎は「富本豊前太夫」を襲名した富本午之助(寛一郎)直伝の正本を売り出し、本を目当てに吉原まで足を運ぶ客が増えた。さらなる一手を考える重三郎は、「俄」の祭りの内情を描く本の文章を平賀源内(安田顕)に依頼しようとするが、代わりに人気戯作者・朋誠堂喜三二を推薦される。さらに喜三二の正体が、吉原の馴染み客で、俄にも協力している秋田藩士・平沢常富(尾美としのり)だと教えられた。

重三郎は平沢に青本の執筆を依頼し、平沢も乗り気になるが、平沢の青本を一手に手掛ける鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)に、店を支えるために現在の独占販売をつづけてもらうよう、家族総出で懇願される。そこで「務めが忙しくなった」という方便で、重三郎と距離を置くようにした平沢だったが、彼と鱗形屋との関係を推し量った重三郎は、俄の冊子『名月余情』の序だけを依頼。さらに別名を使って、吉原の案内本を書くことを提案するのだった。
■ 名案! 祭りの「現地レポート冊子」を急遽発売
「吉原を江戸っ子たちが憧れる場所にする」という具体的な目標が決まってから、まさに同業者を震え上がらせる勢いで、いろんなアイディアを実現させていく重三郎。「俄」の宣伝本の出版権は西村屋与八(西村まさ彦)に取られてしまったが、祭りを目にした勝川春章(前野朋哉)が「俺が描きたかったなあ」と悔しがっているのを見て、即日かつ安価で作れる一色刷りの簡易本を発売するという手段を思いついた!

これを見てSNSでは、今回も同人誌経験者を中心に「印刷所を通すカラー本はできないけど、コピー本ならできるよ! のノリ!」「現場の盛り上がりで急いで作った突発コピー本」と、現代にも通じるやり方であることを指摘する声が一斉に挙がっていた。確かにこの当時、同じ江戸のなかといえど、口コミが広まるのは結構時間がかかると推察される。しかも場所が「悪所」吉原なだけに、変な尾ひれが付く恐れもあっただろう。
そこで「こんなイベントですよ! 見て見て、めっちゃ楽しそうでしょ?」と言わんばかりの本を作れば、噂よりも効果的に情報が拡散していくはず。実際に小田新之助(井之脇海)の長屋でも、多くの人が回し読みしていた。いわば『名月余情』は新聞の号外やSNSのリアルタイム投稿のような役割を持ちつつも、祭りに行った人の記念のアルバム的なものでもあり、さらには春章&喜三二の貴重なコラボ本でもあるという、1冊で三度美味しいというミラクルな冊子なのだ。

これを配信している『Lmaga.jp』のような情報サイトの記事も、イベントがはじまる前の告知記事よりも、はじまってからの現地レポートの方が読まれる率が高くて、より実際に足を運ぶ効果もあるのではないか・・・と聞いたりする。庶民たちが以前より金銭的にも精神的にも余裕ができ、次々と地元発信のイベントが起こるようになったこの時期ならではの、ライブ感と速報性とアーカイブをすべて満たすメディアを真っ先に生み出すとか、毎度ながら感心するしかない。
■ クリエイター心くすぐる、重三郎の人身掌握術
しかし今回重三郎が『名月余情』を実現できたのは、春章と喜三二をその気にさせた人心掌握術にあることは間違いない。まず春章は、俄の宣伝本『青楼俄狂言尽』の仕事を『雛形若菜初模様』の礒田湖龍斎(鉄拳)に取られた悔しさと、俄の現場が予想以上に盛り上がってる=絵にしたらおもしろい! という絵師としての本能を重三郎に看破されたうえ「春章の手にかかればどうなんのか、俺も見てえし」という殺し文句で、突発コピー本(笑)を作ることを快諾。

さらに喜三二には、大きな仕事を断ったという弱み+大好きな吉原での接待という、2つの武器を使って序文を書いてもらうことになった。ときにはクリエイターの表現欲と闘争心を焚き付け、ときには邪道ギリギリの手段を使って相手を動かす。これは重三郎の天性の部分もあるだろうけど、長年吉原のお座敷で働き、女郎のご機嫌をうかがい、忘八たちの非情ともいえる仕事ぶりを側で見て学んだことが多々あったと思われる。
実際の重三郎も人たらしの面があったと、彼にまつわる数少ない記録に残っているという。時代の先の先を行くアイディアに加えて、いろんな才能に対してあの手この手で心をつかみ、「俺も見てみたいです」という殺し文句で出版に持ち込む・・・という交渉術が、メディア王への道を作っていくのだろう。今は鱗形屋への義理もあって、重三郎を快く思っていない恋川春町(岡山天音)も、これからどのようにして心を開いていくことになるのか。現代の私たちも参考になりそうな、人たらし術が披露されるときを楽しみにしよう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月30日放送の第13回「お江戸揺るがす座頭金」では、盲人たちの金貸し「座頭金」についに幕府の調査が入るなか、鱗形屋孫兵衛が再び偽版の罪を犯してしまう姿が描かれる。
文/吉永美和子
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