重三郎の夢を具現化した、「瀬川花魁」の存在【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第14回より。重三郎に別れの手紙を書く瀬以(小芝風花)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。4月6日放送の第14回「蔦重瀬川夫婦道中」では、鳥山検校と別離した瀬以が、重三郎と夫婦になるかと思いきや、予想外の展開に。実在の花魁と重三郎を幼馴染の設定にした、その狙いについて改めて考えてみた。
■ 「吉原者は四民の外」と言い渡され…第14回あらすじ
これまでは茶屋の店先で本を販売していた重三郎は、周囲のすすめもあって、独立した本屋を開く準備を進める。その頃市中に家を買おうとした女郎屋・大文字屋市兵衛(伊藤淳史)は、手付を打ったところで約束を反故にされ、奉行所に訴えた。しかし逆に「吉原者は四民の外」との理由で、見附内(江戸城外堀より内側)の土地と買わないと証文を出すよう命じられてしまい、重三郎をはじめとする吉原の面々は衝撃を受ける。

一方重三郎は、鳥山検校(市原隼人)と離縁した瀬以(小芝風花)と本屋を一緒にやることに。周囲から恨みを買う瀬以を助ければ、吉原が変わったことを世に示せると主張する重三郎だったが、開店目前で瀬以は吉原を離れる。置き手紙には、曰く付きの自分がいることが、吉原を楽しい場所にするという重三郎の夢を阻み、弱みを増やすという離別の理由とともに、自分の支えとなっていたことへの感謝と愛が綴られていた・・・。
■ 高額な身請け話が当時話題に、小説のネタにも
吉原の有力な女郎屋「松葉屋」で、トップクラスの花魁に代々受け継がれた名跡「瀬川」。1728~1801年の約80年の間に、9人(10人の説も)の花魁が名乗ったとされている。そのなかには亡き夫の仇討ちをしたと言われる者や、あらゆる芸事に秀でたうえに占いも巧みという、(安田顕演じる)平賀源内顔負けのマルチな才能を持つ者もいたそう。ただ5代目瀬川は本人の人となりではなく、鳥山検校に莫大な金額で身請けされたということぐらいしか、その特徴は伝わっていなかった。

この身請けは、今で言うなら当代随一の人気アイドルが、悪どいサラ金業者と結婚したようなもの。花魁の場合、建前上は断ることができるとはいうものの、ほぼほぼ自由意志ではないので上記の例えはちょっと弱くなるかもしれないが、やはり「なんでそんな奴とくっつくんだ」と落胆した人や、いろいろと裏事情を勘ぐる人も多かっただろう。重三郎が瀬以に「お前のことが書かれた本だよ」と数冊の本を渡していたが、実際にこの身請け話をイジった小説や芝居などが「瀬川もの」と称してヒットしたそうだ。
今回出てきた『契情買虎之巻』は、瀬川は五郷というマブがいるにも関わらず鳥山検校に落籍され、悲嘆の末に死ぬという悲劇で、あの十辺舎一九が二次創作本を作るほど評判となったらしい。とはいえ、これを『べらぼう』の瀬以が読んだらどのように思ったのだろう。「死ぬなんてありえないねえ」とケラケラと笑い飛ばすか、あるいは五郷と重三郎を重ねて真剣に読みふけったかもしれない。いくつかの小説は現在にも伝わっているが、芝居や浄瑠璃は今でも上演されるような傑作が残らなかったのは、ちょっと残念な気がする。
■ 印象薄い5代目瀬川を、美しいフィクションへ
そんなわけで、どうもキャラクターとしては薄い印象の5代目瀬川だけど、それゆえに脚本の森下佳子は、イマジネーションの翼を広げやすかったのかもしれない。重三郎が作った『青楼美人合姿鏡』に描かれた本を読んでいる姿から、読書好きで知的なキャラクターに設定。さらに重三郎とは幼馴染で、本を通じてつらい境遇を励ましあい、そして同じ夢を追いかける同志のような存在にと、まるで昨年の『光る君へ』の紫式部&藤原道長とも重なる、ソウルメイトのような関係を築き上げることになった。

この『べらぼう』での重三郎が、出版の世界に身を投じる一番の理由は、吉原をあらゆる江戸っ子が憧れるほど楽しくて、かつ女郎たちが幸せに働ける場所にすること。そこで重三郎に、この思いを共有することができて、かつ心から幸せにしたいと願う女郎がいれば、それが漠然とした夢物語ではなく、具体的な目標として視聴者も入り込みやすくなるはず。そこで選ばれたのが、スキャンダルの影に人物像が埋もれた、5代目瀬川花魁だった・・・ということだろう。
じゃあこの2人がくっつけばいいじゃないか! と思うわけだけど、そんな安直な未来など決して与えないのが森下脚本。鳥山検校が罪人となり、自分も共犯者のような扱いを受けた以上、重三郎と一緒になれば、その悪評に彼も巻き込むことになると悟った瀬川は、再び重三郎を別れる道を選んだ。瀬以が落籍して吉原を去るときに、2人で見た夢を1人で見つづけると宣言していた重三郎。彼にとっては単に愛する女を失っただけではなく、2人で背負うはずだった夢を、やはり1人で背負うことになった重圧もかかる、切なくも厳しい別離だ。

自分のがんばる姿や作品を、検校の元にいる瀬以はいつでも見てくれているという実感があった今までとは違い、これからはどことも知れない場所にいる・・・あるいは生死もわからない瀬以に向けて作品を作り、夢を見つづけないといけない。とはいえ重三郎ならば喪失感以上に、この夢をなにがなんでも実現するという使命感の方をたぎらせるのではないだろうか。割と立ち直り&軌道修正の早い彼ならば、そうなると思う。
■ どこかで生きている? 瀬以、今後の邂逅に期待
実際来週からは、山東京伝(古川雄大)という新しい仲間も加わって、吉原を単なる風俗街でなく、カルチャーの最先端の街にするための本格的な活動がはじまる。江戸の街にとどまらないぐらいの大ヒット本を作れば、本好きの瀬以が必ずどこかで手に取るはず・・・というのが、重三郎の生涯にわたるモチベーションとなるのだろう。重三郎がメディア王になれたのは「瀬川」という礎があったからとは、史実もそうだったらすばらしいのにと思えるぐらい、美しいフィクションだった。

そしてこのあとの瀬以の消息は、武士との間に子をなしたとか、大工や農家に嫁いだとか、諸説入り乱れた状態。ただ『契情買虎之巻』のように早世はせず、ある程度は生き延びていたのは間違いなさそうなので、きっとどこかで彼女らしく生きて、重三郎とひょっこり再会を果たすときが来るのではないか・・・と勝手に期待しておこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。4月13日放送の第15回「死を呼ぶ手袋」では、店を立ち上げて本格的に版元として始動した重三郎の様子と、将軍家にも衝撃的な事件が起こるところが描かれる。
文/吉永美和子
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