宝塚ファミリーランド跡地に白い虎が帰還「故郷に錦」中村佑介展

9時間前

4月25日からスタートした『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』(4月24日・宝塚市内)

(写真14枚)

人気アーティストのCDジャケット、ベストセラー小説の表紙などでお馴染みの宝塚市出身のイラストレーター・中村佑介。彼の地元で初となる個展が、「宝塚市立文化芸術センター」(兵庫県宝塚市)で開催中。宝塚や関西にちなんだ作品など、初公開を含む原画300点以上が揃い、完成画と見くらべながら、その魅力を再発見できる過去最大規模の展示となっている。

■ 開催場所は「宝塚ファミリーランド」跡地、思い出の「ホワイトタイガー」描く

物語性のある風景やモチーフをバックにした女性らが描かれ、ファンタジーやノスタルジックな世界へ誘われる中村佑介の作品。CDジャケットや書籍の表紙イラスト、音楽の教科書のカバー、商品パッケージ、アニメキャラクターのデザインなど表現活動は多岐にわたる。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』テープカットセレモニーで、宝塚での思い出を語ったイラストレーター・中村佑介(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』テープカットセレモニーで、宝塚での思い出を語ったイラストレーター・中村佑介(4月24日・宝塚市内)

これまで宝塚市制70周年記念企画の観光パンフレットや、「宝塚大劇場」すぐの「花のみち」を彩る「宝塚ウェルカムフラッグ」なども手がけており、今回は地元開催を望む多くの声に応えるべく、満を持して個展を開催。

イラストレーター・中村佑介のフラッグ
が花の道に登場(4月24日・宝塚市内)
阪急・宝塚駅から大劇場や展覧会会場へ続く「花のみち」に飾られたフラッグにも注目(4月24日・宝塚市内)

開催前日のセレモニーに出席した中村は「高校時代は学校帰りに大阪の画塾に通っていたので、受験の辛かった時期と重なって、思い出を作れなかった印象も。この度、こんな形で故郷に錦を飾らせていただいていいのかなと」と恐縮しつつ「今、宝塚でできることを嬉しく思います」と笑顔をみせた。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』テープカットセレモニーに参列した中村佑介(左から3番目)、森臨太郎宝塚市長(右から3番目)ら(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』テープカットセレモニーに参列した中村佑介(左から3番目)、森臨太郎宝塚市長(右から3番目)ら(4月24日・宝塚市内)

さらに、「この会場は、『宝塚ファミリーランド』(2003年閉園)の動物園があった場所ですよね。子供の頃、そこにいたホワイトタイガーを見て…」と思い出を振り返り、「昔からずっと白い虎を描きつづけていて。もう今、ファミリーランドはなくなってしまいましたが、何匹か僕の絵の中では生きていますので、ぜひご覧いただければと」と呼びかけた。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』テープカットセレモニーで、宝塚での思い出を語ったイラストレーター・中村佑介(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』では、宝塚ファミリーランドの人気者「ホワイトタイガー」がイラストでよみがえった(4月24日・宝塚市内)

■ アジカン、森見登美彦らとのコラボレーション

会場入口では「いまようやく胸を張って言う事ができます。ここが僕の故郷です」と書かれたパネルが出迎え、その先には、代表作ともいえるロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットのイラストがずらり。制作に3ヵ月をかけた大作で、広げると6面になる『マジックディスク』の多要素がぎっしりの手描き原画、『荒野を歩け』で女性の髪型や服装が変化する制作過程など、楽曲イメージの具現化を垣間見れる。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットのイラスト
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットのイラスト(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケット、広げると6面になる『マジックディスク』のイラスト(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケット、広げると6面になる『マジックディスク』のイラスト(4月24日・宝塚市内)

また、ユニークな京都の世界観を確立させた作品、作家・森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』の書籍カバー、アニメ化でのキャラクターを特集した展示も。『夜は短し~』の表紙原画は、まるで設計図のように人物と背景の建物が別々に描かれたバージョンも並び、着色前のシンプルな原画だからこそ、人物の髪の毛のハネ方や和建築の格子など、細やかな表現力が際立つ印象だ。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』の作家・森見登美彦作品の世界観を表現したコーナー(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』のイラスト(4月24日・宝塚市内)

小説関連では、『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉著)の書籍カバーも有名で、こちらの展示室では中村佑介作品にまつわる「謎解き」パネルにも注目を。「なぜ横顔の絵は左を向いているのか」「影のつけ方にもオマージュがある?」など、構図の工夫や影響を受けた漫画家の豆知識が明かされ、作品の見方が変わるヒントに。

■ 宝塚モチーフの作品は、実は細かい仕掛けが随所に…!?

後半は更に幅広いジャンルとのコラボ作品も。「阪急ラッピング電車」謝辞イラスト、「大阪国際女子マラソン」メインビジュアルなど、大阪在住だけに関西関連の作品も多く、本展の目玉である宝塚作品は原画を初公開。観光パンフレットと市政70周年フラッグに使われた2作は「宝」と「塚」の文字が隠れていて、背景には宝塚の名所が。よく見ると、同郷の手塚治虫作品のキャラや「ZUKA」表記もあり、遊び心のある仕掛けが楽しめる。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』のイラスト(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』阪急電車、須磨離宮公園など、関西にちなんだイラストもずらり(4月24日・宝塚市内)

ほかにも、「浅田飴糖衣」のど飴パッケージをはじめ、サンリオのキャラクター、ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティなどが中村流に描かれ、多彩な世界観に適合しつつ、独自性も失われない作風を展開。その普遍性について、「色」の解説パネルでは「中村作品の女性の顔には色づけがされていない。(略)その白は、女性の存在自体を無機質に見せる措置とも思えるし、その白以外の色彩を際立たせる効果を持っている様にも思える。」(文/武田砂鉄)との考察も。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』「浅田飴糖衣」のど飴パッケージ(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』「浅田飴糖衣」のど飴パッケージのイラストは、原画と製品と一緒に展示(4月24日・宝塚市内)

デビュー以来23年間のほぼ全てという作品が集結し、今や日常にとけこんだ中村作品の軌跡を辿れる同展。本展を主催する「宝塚市文化財団」担当者は「着色前と後では作品のイメージが大きく変わる印象ですね。特に、普段は目にできない手描きの線画は血が通ったあたたかみも感じられて、改めて唯一無二の魅力が伝わるのでは」と話す。

『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』サンリオのリトルツインスターズ(通称・キキララ)とコラボした作品(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』サンリオのリトルツインスターズ(通称・キキララ)とコラボした作品(4月24日・宝塚市内)

グッズ売場には、宝塚市限定・同展キービジュアルのアクリルホルダー2種(各770円)や先行販売となるカプセルトイ「浅田飴糖衣」アクリルキーホルダー(1階500円)が登場。館内7~8カ所には写真撮影が楽しめる乙女風な等身大パネルが設置されている。

宝塚市限定・同展キービジュアルのアクリルホルダー2種(各770円)、マルチケース(500円)を販売(4月24日・宝塚市内)
宝塚市限定・同展キービジュアルのアクリルホルダー2種(各770円)、マルチケース(500円)のほか、多数のグッズを販売する(4月24日・宝塚市内)
館内にはたくさんのフォトスポットが(4月24日・宝塚市内)
館内にはたくさんのフォトスポットが(4月24日・宝塚市内)
『中村佑介展 in TAKARAZUKA 2025』サンリオのリトルツインスターズ(通称・キキララ)とコラボした作品(4月24日・宝塚市内)
等身大パネルやボックス型で作品に入った気分になれる?!フォトスポットも(4月24日・宝塚市内)

また、7月12日にはサイン会が開催される。さらに6月22日には、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とのトークショー&ミニライブの開催が決定。詳細は公式サイトで確認を。

取材・文・写真/塩屋薫

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