チャーミングと狂気の両立、安田顕に称賛の嵐【べらぼう】

18時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。平賀源内(写真左、安田顕)に礼金を差し出す老中・田沼意次(写真右、渡辺謙)(C)NHK

(写真6枚)

森下佳子脚本・横浜流星主演で、江戸文化の仕掛け人となったプロデューサー・蔦屋重三郎の人生を描いていく『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。4月20日放送の第16回「さらば源内、見立は蓬莱」では、平賀源内と田沼意次のあまりにも悲しい別れと、ギリギリの狂気を演じきった安田顕の名演に注目が集まった。

■ 田沼意次と平賀源内が決別…第16回あらすじ

松平武元(石坂浩二)が暗殺されたことを察した田沼意次(渡辺謙)は、自分や将軍家に類が及ぶことをおそれて、徳川家基(奥智哉)の死因の調査を断念。平賀源内(安田顕)にもこの件から手を引くよう告げるが、源内は意次が出世できたのは自分の手柄をぶんどったからだと怒りをあらわにし、意次も自分がどれだけ源内に身銭を切ったかと反論。源内は口止め料も突き返し「俺の口に、戸は立てられませんぜ」と言って去っていく。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。平賀源内を思って涙を流す老中・田沼意次(渡辺謙)(C)NHK

そのあと源内は、殺人の疑いで投獄され、重三郎たちが無実を申し立てるために意次と面会している最中に、獄死の知らせが入った。重三郎から受け取った源内の遺稿に目を通した意次は、源内が新作小説を通じて、現在家基を殺したと噂されている、意次の無実を晴らそうとしていたことを知って涙する。その頃一橋治済(生田斗真)の屋敷の庭では、源内の残りの原稿と思しき物が焼き捨てられていた・・・。

■ 平賀源内の「最後の花道」を、安田顕が熱演

頭と口の回転が直結してるのか? と思うほどの早口でしゃべり倒し、いい男と恋バナが大好きな一方で、日本を豊かにするためにいろんなアイディアを繰り出す「憂国の士」でもあった『べらぼう』の平賀源内。人なつこい明るさのなかに、どこか狂気を宿したキャラクターを得意とする安田顕には、まさにハマり役だったと言えるだろう。その最後の花道は、時代の先を行き過ぎて社会の方がついて行けず、孤独に陥った源内の焦燥と憂鬱を、涙も鼻水もダダ漏れな圧巻の演技で体現した。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第11回より。「エレキテル」を開発する平賀源内(安田顕)(C)NHK

今でこそ歴史の教科書などで「画期的な発明」と褒めそやされるエレキテルだけど、偽物騒ぎなどもあって源内の評判を落とすきっかけとなってしまった。かつては数多くのヒット小説&キャッチコピーを手掛け、その才人ぶりを褒めそやされていただけに、エレキテルの失敗で失われた信用も、その分非常に大きかったはず。高みに登れば登るほど、道を踏み外したときのダメージは取り返しがつかないものになるのは、現代でも同じことだ。

■ 書きかけの小説の中で生きる「名バディ」

ただでさえ傷ついた源内の自尊心を、さらに叩き壊すきっかけを作ってしまったのが、源内と同レベルで社会情勢について語ることができた、おそらく唯一の人物・田沼意次だった。実際に源内が意次の参謀的な位置にいたのかどうかは不明だが、源内の死後に「実は意次がひそかに匿っている」という噂が当時流れたほどなので、やはり親しい仲ではあったと推察される。そんな両翼のような関係と考えていた相手に、手切れ金を渡して切り捨てられるような態度を取られた絶望は、想像に余りある。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。平賀源内(写真左、安田顕)の牢を訪ねた老中・田沼意次(写真右、渡辺謙)(C)NHK

そうして決別した2人が、再び手を取るきっかけになったのが、源内の逮捕というのがシチュエーションとして悲しすぎた。しかしメンタルが完全に壊れた源内を「俺はここにいる」という一言だけで現実に引き戻せるのは、意次しかいなかっただろう。むき出しの魂をぶつけ合うような安田顕✕渡辺謙の「Wケン」の演技は凄まじく見ごたえがあったけど、結局意次は将軍家を守るために、この件には深入りしないという苦渋の決断をした。やはり彼は、どこまでも政治家なのだ。しかしここで意次を一人の人間に戻したのが、源内が遺した小説の序文だった。

死を呼ぶ手袋を悪用した事件が起こり、犯人にされそうになった「七ツ星の龍」を助けるために、源内軒が立ち上がるという内容。「七ツ星の龍」が、七つの星が並んだ「七曜紋」を家紋とする意次なのは明らかだ。源内が平秩東作(木村了)から「手袋は田沼様からの注文」という情報を聞いたときに「そういうことかい」とつぶやいたのは、意次を真犯人と思ったのではなかった。逆に濡れ衣であること&自分をこの件に巻き込まないようにしたこと見抜き、せめて小説で真相を暴こうとしていたのだ・・・本当に、どこまで通じ合っていた2人なのだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第16回より。重三郎に頼まれた戯作を執筆する平賀源内(安田顕)(C)NHK

ここで意次が男泣きをするシーンでは、SNSも「二人で本当の悪党を倒す物語書いてたんだ(泣)」「報われずとも、意次を信じ潔白を訴えようとした源内。その気持ちに応えられない意次の心情たるや辛かろう」「創作の中でしか救われなかった源内先生、悲しすぎる」「この正月、耕書堂に令和にまで語られるであろう『七ツ星の龍』と『源内軒』のとんでもバディなブロマンス青本が並ぶはずだったのによお!!」と、ともに怒り泣きをするような言葉が並んでいた。

■ 安田顕の生涯に残る「当たり役」にSNS絶賛

源内の逝去は、重三郎にとっても痛手だっただろうが、同じ理想を追い求めた相方を失った意次にとっては、まさに片翼をもぎ取られたような心境だろう。しかも重三郎のように大っぴらに悲しむことはできず、表面上は厄介払いをしたような振る舞いをつづけなければならないとは・・・この心の枷が、後世で「悪徳政治家」呼ばわりされることとなる田沼意次に、どのような影響を与えていくのだろう?

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第15回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第15回より。笑みを浮かべる平賀源内(安田顕)(C)NHK

そして全身全霊で、おそらくは生涯の当たり役となるであろう平賀源内を演じきった安田には、SNSで「稀代の天才の数奇な生涯を彼に背負わせる決断をしたNHKチームと、鮮烈な登場から壮絶な散り様まで見事に披露してくれた安田顕に拍手喝采」「向こう数十年、平賀源内といったら安田顕になってしまったくらい大河史に残る名演」などの絶賛の言葉が寄せられていた。退場があまりにも惜しまれるので、本当になんらかの形で生き延びていて、別人のふりをして重三郎や意次の前に現れてくれたら・・・と願っている。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。来週の4月27日は、特別番組『大河ドラマ べらぼう ありがた山スペシャル』を放送。5月4日の第17回「乱れ咲き往来の桜」では、女郎・うつせみ(小野花梨)と駆け落ちした小田新之助(井之脇海)が重三郎の前に現れ、新たな販路を作るきっかけとなるところが描かれる。

文/吉永美和子

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