03文楽女子がイケメン技芸員にインタビュー!
文楽の太夫、三味線、人形遣い…数いる技芸員のなかから、注目のイケメン技芸員=「推しメン」を文楽女子が直撃インタビュー! 文楽に興味をもったきっかけのほか、文楽ビギナーへの鑑賞アドバイス、プライベートで興味があることなど、文楽女子ならではの視点でお話をうかがってきました。
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- 01Sakijudayu
Toyotake
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太夫
豊竹 咲寿太夫さん
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- 02Tomonosuke
Tsuruzawa
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三味線
鶴澤 友之助さん
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- 03Minoshiro
Yoshida
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人形遣い
吉田 簑紫郎さん
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太夫・豊竹咲寿太夫を、文楽女子・白山さんがインタビュー
文楽の太夫になろうと思ったきっかけは?
ぼくの通っていた小学校の旧校舎跡地に国立文楽劇場が建てられた縁もあって、演者さんに文楽を教えてもらう授業があったんですよ
そんな授業があるんですね
そうなんです。文楽を観に行ったり、レクチャーを受けるといった授業ではなく、児童が文楽の演目を1年かけて体験し、年末には発表会で実際に舞台を踏むという授業だったんですよ。『五条橋の段』という演目を習い、太夫を選びました。そのときの舞台がすごく気持ちよくて、それがきっかけで入門したんです
基本的なことですが、入門したいと思ったら、まずどうするんですか?
入門の方法は2つあります。ひとつは研修制度です。宝塚歌劇なら音楽学校、吉本ならNSCの養成所といったように、文楽にもそういった制度があるんです。研修は中学卒業以上、23歳以下の男の人が対象になります。ぼくはもうひとつの方法である『師匠の元へ直接入門する』ことを選びました
研修制度を受けずに?
そうです。授業で教えに来てくださった咲甫兄さん(豊竹咲甫太夫/とよたけ・さきほだゆう)に『文楽やりたいんです!』と言いに行きました
若くしてスゴイ!
ただ、咲甫兄さんが当時20代で、まだ自分も若いので弟子をとることはできないからと、師匠(豊竹咲太夫/とよたけ・さきたゆう)を紹介してくださりました。研修制度だと、太夫、三味線、人形遣い、すべて体験するんですが、ぼくは直接師匠の元へ入門したので、太夫しか知りません
入門してから、イメージとのギャップってありましたか?
中学1年生で入門したんですが、最初はのほほんとしてたんですよ(笑)。でも、高校を卒業したあたり、職業として続けていくことを考えたときに『義太夫って、なんて難しいんだ』って実感しましたね
どのあたりが難しかったんですか?
もう全部です。今の音楽教育って、ドレミじゃないですか。でも、太夫はドレミじゃできないんですよ。音階、発声、拍子・・・基礎的な技術はどれも今の音楽とは根本的に違っていて。50代でようやく一人前と言われるくらいです
文楽の活動以外は、どんなことをしているんですか?
基本的に文楽しかしてないですよ。趣味は多いんですけど、時間がなくって
お稽古のお時間がってことですか?
お稽古もそうですし、それだけでなく、公演中は自分の舞台に加えて、師匠のお手伝いがあります。師匠の舞台の前後は、ずっと師匠の元にいます。師匠が帰られても、先輩方のお手伝いをしたり、片付けや洗い物をしたりしています。また、師匠や先輩方の舞台をそばで聴かせていただき、勉強もしています。公演をしてない普段でも同じ感じですね
おうちまで行くんですか?
はい。例えば、師匠の朝ごはんの用意やお着替えのお手伝いもします。それぞれの一門によって方針が違うんですが、うちはずっと一緒にいることが多いですね。家に帰れば、公演の床本(義太夫文字で書かれた毛筆の台本のこと)を書いたりしていますね。床本は、師匠や兄弟子の物を参考にして、自分で書くんですよ
なんてお忙しい!
そうなんです。趣味では絵を描いたりもちょくちょくしています(東京新聞に隔月で連載中!)。ほかのジャンルの舞台ももっと観たいですね
平成28年『まちなか文楽展』に展示された、豊竹咲寿太夫作のパネル
ほかの舞台がご自身の芸に反映されることってあるんですか?
やっぱり太夫は『語り』なので、ほかの分野の方々がどういう風に声を出して演じられているかはすごく気になりますね。身体のどこの部分を使えば、どういう声色になるのか、どういう響き方をするのか。あとセリフの運び方とか。歌舞伎も落語も宝塚も、文楽とは違うそれぞれの方程式があるので
たとえば、こうすれば文楽がもっと楽しく見られるというポイントとかありますか?
そうですね、文楽は大阪の古い言葉(義太夫節)ですので、ストーリーライン(物語の全体像)を知れば、より楽しく見られると思います。あと、今はツイッターやブログなど、個人で発信している演者さんも多いので、そういうのを見ていただければ、もっと親近感をもっていただけるんじゃないかな。ぼくもツイッターとインスタグラムをやっていますので、ぜひ見てみてください
なるほど。最後になりますが、咲寿さんのここを見て欲しい、ここに注目して欲しいっていうのはありますか?
やっぱり太夫なので、ぼくたちの姿を見ていただくより、どんな物語を語っているかを聞いていただけたらうれしいですね。あとは、若い世代の人にはまだ知名度が低いので、日本の伝統芸能・文楽をもっと知っていただきたいです
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三味線・鶴澤友之助さんを、文楽女子・八幡さんがインタビュー
まず最初に、文楽に興味を持ったきっかけを教えてください
きっかけは高校生のときに、たまたま見た文楽公演のテレビ放送ですね。『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』の『山の段』という『ロミオとジュリエット』のような場面のお話なんですが、舞台がとても美しかったので、何の気なしに見ていたんです。そこから鳴り出したのが、それまでに聞いたことがなかった太い弦の音で、『これが三味線なの?』と興味を持ったのが最初です
まず音からだったんですか?
はい。昔から弦楽器が好きで、なかでも特に低い音が好きなんです。9歳でクラシックギターを始めてから、エレキベース、フラメンコギター、コントラバスと習いました。コントラバスでは芸大を目指していたんですよ
普通の三味線よりも、文楽の三味線って音が深いような、渋い低い音がしますよね。作りが違うんですか?
違いますね。日本の三味線って3種類あるんです。細棹三味線、中棹三味線、そして、太棹三味線。『棹(さお)』とはネックの部分のことなんですが、その名のとおり太棹三味線は一番太いネックでできていて、全体的にも大きいので、低くて大きな音が出せるんです
へぇ、そうだったんですね
ちなみに、文楽三味線と津軽三味線はどちらも太棹三味線ですが、駒と撥(ばち)が違うので音色が全然違います。駒というのは糸を持ち上げる部分のことですが、文楽の三味線はこれがとても高く、また弾くための撥も、とても分厚いものを使っているので、同じ三味線でも違う楽器みたいな音が出るんです
まず音に惹かれ、それからどうやって文楽の世界に入ったんですか?
初めて文楽研修生の問い合わせをしたのは、高校2年生のときです。研修生募集のポスターを見かけて、『あの三味線を習えるのかな?』と思い、問い合わせてみました。でもそのときは、『高校辞めないと入れない』と協会の方に言われたのと、僕自身コントラバスで芸大に行きたい気持ちが強かったのもあって、その時はそのまま芸大を目指すことにしました。ところが入試の実技試験の前日に盲腸が破裂、腹膜炎になってしまい1カ月入院。結局試験を受けられなかったんですよ(苦笑)
えぇー!
そんなハプニングがあって、退院した時には受験シーズンは終わっていました。これからどうしようかなと考えたんですが、ちょうど2年に1度の文楽研修生の募集のタイミングなことに気が付いて、これも何かのご縁かなと思って、募集に申し込みました
それまでは文楽を観たことはあったんですか?
実は全然(笑)。父がピアニストで母がヴァイオリニストなので、クラシックコンサート、ミュージカル、バレエは、観たりしていたんですが…
そんな状況から入門して、文楽のイメージは変わりました?
楽器の興味から入ったので全然違いましたね。今までやってきた音楽の知識が通用しない(苦笑)。小節や楽章での表現を習ってきましたが、文楽は登場人物で表現を変化させるんです。人物の入れ替わりが激しい演目ですと、台詞の一言ごとに表現を変化させることも求められます
登場人物の感情を、三味線で表現しているんですよね
そうです。これまで楽器ばかりで、お芝居の勉強はしてこなかったので、入門してからは「芝居心」を考えるようになりました。自分でも随分弾き方が変わったと思います。もっともっと細かくイメージして表現していきたいですね
お休みのときはどんなことしてるんですか?
あんまりお休みはないんです。公演中は、朝から晩まで劇場にいますし、そうじゃないときは稽古があるので
何かで拝見したんですけど、ミューズ(英国のバンド)や、BOOM BOOM SATELLITESがお好きだとか
そうなんです。でも自分の公演があるので、ライブにはほとんど行けずで…今ハマってるのは、岡崎体育さんですね。あと、MAN WITH A MISSIONのライブにも行きたいですし、ラーメンズの公演にも行きたいです
行きたいライブがいっぱい(笑)。わたしたちが文楽を観るにあたって、こうすれば楽しめるよというアドバイスがあれば教えてください
演目のあらすじを頭に入れておくと、楽しく観られると思います。あと、太夫が色んな登場人物の声を感情豊かに演じているんですが、三味線も同じなんです。太夫が女の人を表現して語っているから、三味線弾きも女の人の音なんだ、と思って聴いていただければ、また違った印象になるはずです
なるほど! 最後に、友之助さんの将来の夢をお聞かせください
五線譜(西洋音楽でもっとも広く用いられている楽譜)も読めることは、自分の強みのひとつだと思っています。古典の義太夫節をしっかり弾くことはもちろん大事なんですが、西洋音楽を学んできた事が生かせる三味線が弾ければなぁと。文楽以外の音楽を知っていれば、いろんなジャンルとのコラボレーションの幅も広がりますし、そこから文楽に興味を持ってくださる方も増えるかもしれない。もっと多くの方に文楽を観に来ていただけるように努力していきたい、と考えています
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人形遣い・吉田簑紫郎さんを、文楽女子・中村さんがインタビュー
簑紫郎さんが、文楽に興味をもったきっかけは何だったんですか?
小学校の頃に、テレビでたまたま文楽人形を見たんですね。工作するのが得意だったんで、最初は仕組みや作る方に興味が沸いて。それがきっかけです
まず人形に惹かれたんですね。今日、間近で拝見して、テレビで見るより大きいのでびっくりしました
そうですね。実際に近くで見られた方はほとんど、思ってたより大きいと驚かれます
文楽の世界に入る前のイメージと、入った後の違いはありますか?
いまだに新しい発見がありますね。大阪だと1公演でだいたい20日以上あるんですけど、そのなかでも(新しい発見が)あって、どんどんのめり込んでます
新しい発見というのは?
例えば、人形の動きの主導権をもっている主遣い(おもづかい)の方が、この演目はこういう芝居をやると決めたら、足遣いはそれについていくわけです。そのなかでも、自分なりの役を作るというか、大きくは変えられないんですけど、細かな工夫やキャラの組み立てなど、まだまだできることはあるなと。そういう発見がいっぱいあります
私も公演を拝見させていただいて、人形の動きがものすごく細かいのにびっくりして。修業に時間がかかると聞いていたんで、見たときに感動してしまって
文楽を初めてご覧になる方は難しいことは抜きにして、ただ人形がキレイ、かっこいい、動きが面白いってだけでいいと思うんですよ。僕も30年近くこの世界にいますが、何回も見ている芝居ですら、結構分かってないですから。奥深いからこそ、おもしろい
そう言われると、気持ちが楽になります(笑)
そうです。ストーリーは分からなくても、人形がキレイとかおもしろいとか、ひとつ印象に残るものがあれば、もう1回観てみようかなとなるじゃないですか。たとえば、身近なところで言えば、外国のミュージシャンの音楽って、普通に聞くじゃないですか、言葉がわからなくても。文楽も同じように捉えてもらえれば
たしかに! 外国人アーティストのライブでいつもはしゃいでます(笑)
ですよね。(太夫の)言葉の意味がわからなくても、なんとなく悲しい場面とか、感情をグッとこらえてる場面とか、わかると思うんです。洋楽を聴いてるような感覚でね。あとは、物語をちょっと予習して来てもらえれば、芝居もすごく楽しめると思います。演目のあらすじは、インターネットにも載っていますから
なるほど。女形は足がないと聞いたんですが…
足はないです。着物のふちを指でつまんで、ひきずったり動かしたりして感情を表現します
この、口もとの針はなんなんですか?
これは、女形だけに付いてるんですけど、悲しいときや悔しい場面のとき、着物の袖を引っかけるんです
えー、すご~い! 衣装の着付けは、人形遣いの方がされてるんですか?
そうです。千秋楽に全部バラすんですけど、やっぱり愛着が沸いてくるんで、バラすのが嫌になるんですよ。師匠も同じことをおっしゃられるんですけど、次の公演で同じようにうまく着付けができるとは限らないんで
その道何10年でもそうなんですか?
もう、全然。師匠は今84歳なんですけども、いまだに公演の途中で直したりしてます。その姿を見てたら、修業に終わりがないですよ
人形の動きや仕草って、どこで研究されるんですか?
僕は映画が大好きなんですけど、結構参考にしてますね。どうすればもう1回見たいと思わせる演出が出来るかとか。もちろん、そんな簡単ではないんですが、この映画の監督はどういう演出で観客を引き込もうとしているのか。そういうのを分析してますね
いろんな演出方法をストックしていく、という
今は、基本的な動きで人形のカタチが崩れないように意識して遣っていますが、人形独特なぎこちなさ、崩したカタチでも魅せられるような人形遣いになりたいです。映画でも、抽象的なカタチで魅せるシーンとかありますよね? 言葉では説明できないような、そういう表現ってすごく印象に残ると思います。映画は楽しむと同時に、お芝居にどう生かせるか。そんなことを考えながら観てます。
人形に対する愛情がすごく伝わっていきました
自宅でも人形を作ったりしていますからね。とにかく人形が好きなんです
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Toyotake
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太夫
豊竹 咲寿太夫さん
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Tsuruzawa
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三味線
鶴澤 友之助さん
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Yoshida
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人形遣い
吉田 簑紫郎さん