「ハロー文楽」編集部

文楽をもっと気軽に学ぶ!

こちらは京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」編集部。
取材を通して学んでいったことをご紹介し、
完成したフリーペーパーは、
2018年度版を第5回に、
2019年度版を第9回に掲載しています。
そして、10月27日から2020年度分がスタートします!

TARO SENPAIたろう先輩

文楽取材を数多く経験し、熱心な文楽ファンの30代編集者。一番好きな演目は『女殺油地獄』。

FUMI CHAN文ちゃん

「文楽って難しそう」という先入観を克服するため編集部に自ら志願した20代。でも、完璧なる初心者…。

HelloBunraku02 第2回 初めての文楽観劇へ

さて、いよいよ大人になってから初の観劇です。でも、正直寝てしまわないか不安なのですが…。

実は、僕も寝てしまったことはあるんだ。でもね、一度、太夫の方にお話を伺ったとき、「寝てしまうのは義太夫節との相性がいい証拠」って教わったんだ。だから、心配しないで。確かに、生の舞台で太夫の語りを聴くと本当に気持ち良いんだよ!

それを聞いて、少し気が楽になりました。でも公演時間が驚くほど長いんですね。今回の第1部は、朝11時から始まって、終わるのが昼の15時過ぎだなんて!

でも休憩を挟んで、異なる演目が楽しめるから全然飽きないんだよ。内容によっては、キツネと人間の愛だったり、ドロドロとした不倫劇だったり・・・今回は「蘆屋道満大内鏡(あしやどうまんおおうちかがみ)」と、「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」を紹介するよ!

それは気になりますね。これは、あらすじを先にチェックしておかないと!

おっ! あらすじを読んでおくのはいいことだね。太夫が語る内容は、舞台の上に字幕があるけど、江戸時代の言葉や言い回しが多いからね。演目の内容を把握しておけば、言葉の意味が分からなくても想像がつくし。あとは太夫の表現力で伝わってくるんだ。

じゃ、早めに席に行って予習しましょう! さて、劇場の中に入ってきましたが…歌舞伎や演劇の舞台とは構造が違うんですね。

一の手摺

いちのてすり…客席から見て最前にある仕切り板。ここから奥が舞台という目印

二の手摺

にのてすり…人形にとっての地面にあたる仕切り板。この奥が舟底と呼ばれる

御簾内

みすうち…舞台上手では三味線を、下手では太鼓や鐘など鳴物を演奏する

ゆか…舞台上手、客席へ斜めにせり出した、太夫と三味線が演じる場所

小幕

こまく…舞台袖にある出入口。人形遣いが人形とともに登場する

舟底

ふなぞこ…舞台より一段低くなった場所。ここに人形遣いが立って人形を操る

文楽廻し

ぶんらくまわし…床の中央にある回転式の盆。回ると太夫や三味線が登場する仕掛け

太夫と三味線が座るところを「床」と呼ぶんだ。向かって右側、つまり上手だね。そして中央の舞台には「手摺」と呼ばれる仕切り板があって、手前から2つ目の手摺が人形にとっての地面になるんだ。太夫の語りや三味線の演奏を目当てに来る人は床の近くの席がおすすめ。舞台全体を見渡したい人は少し後方の席がよかったりするしね。これは好みだね。

じゃ、今度からは席を選ぶときにいろんな場所を試してみます~。で、今さら申し訳ないんですけど、太夫、三味線、人形遣いの役割を教えてもらってもいいですか?

そうだね、じゃ、ちょこっと簡単に! また改めてフリーペーパーでも記事にしていこうか。 「ハロー!文楽(2018年度版)」のPDFはこちらから。

簡単に学ぶ、三業一体について

  • 太夫

    「義太夫節」と呼ばれる抑揚のある語り口で、登場人物のセリフから場面の描写、物語のナレーションまでを語る人。舞台で声を発するのは太夫だけだよ。

  • 三味線

    三味線を演奏する人。太夫の語りの伴奏ではなくて、場面転換や情景の説明、人物の感情などを、音色や間、三味線を弾く撥の緩急で表現するんだ。

  • 人形遣い

    舞台上で人形を操る人々のこと。人形の首(かしら)と右手を操る「主遣い」、左手を操る「左遣い」、足を操る「足遣い」の3人1組で演じるんだ。

ほほー! これは観る前に知っておきたい知識ですね。良かった~。では、これから実際に文楽を鑑賞してみた感想を書きましょう、たろう先輩!

えっ僕だけ?? せっかくだし、文ちゃんも初心者目線でおもしろかったところを書いてよ。

そ、それじゃ…私も頑張ります! 今後、鑑賞するときにご参考ください!

  • 子どもを想う母・葛の葉の気持ちが伝わってきます。人形遣いは人間国宝である吉田和生さん

  • 太夫と三味線は、シーンによって大人数で登場することも。圧巻のハーモニーに

  • 思わず見ほれてしまう人形の動き! 人形遣いは今年5代目を襲名した吉田玉助さん

  • 襲撃された葛の葉姫と童子を救ったのは、家来と、その家来に化けた白狐の仲間。高揚感あふれるシーンに

  • 写真はすべて「蘆屋道満大内鏡」より(2018年11月文楽公演にて撮影)。協力 国立文楽劇場
  • 「蘆屋道満大内鏡」

    カリスマ陰陽師の知られざる出生秘話

    安倍保名は森で白狐を助けるが、狩りの一団に襲われ深手を負った。命を救われた白狐は保名の許婚である葛の葉姫に姿を変えて保名を介抱する。やがて二人は結婚し、安倍童子をもうけるが、そこへ本物の葛の葉姫がやって来てしまい…。白狐は自らの正体を告げ、姿を消すのでした。

  • 「桂川連理柵」

    アラフォー旦那と少女の禁断の愛

    帯屋の主人である長右衛門は14歳の娘・お半と関係を持ってしまう。やがて、その噂は広まり、店を乗っ取ろうとする継母や義弟から不倫を口実に脅され、あらぬ罪を着せられるはめに…。妻・お絹の機転でなんとか事態は収束に向かうが、今度はお半が身ごもっていることを知る。

観劇レポート!

究極の鉢合わせにドキドキしました[蘆屋道満大内鏡]

葛の葉姫に化けた白狐の前に、本物の葛の葉姫が現れ、白狐が我が子との別れを決断。障子に別れの歌を書き残して去っていく場面は胸が熱くなりました。一方で、もし自分とそっくりな人間がいたら…と、本物の葛の葉姫の立場になって考えるとゾッとしたりも(笑)。現実ではありえない、人形芝居ならではの演出が楽しかったです。

白狐が人間の姿に化けて6年暮らしていたのに、家族と突然別れないといけなくて…悲しかったです。でも葛の葉姫から白狐に変身する瞬間は驚きました!

喜怒哀楽に満ちた、泥沼不倫ドラマ[桂川連理柵]

不倫がバレてお先真っ暗な物語ですが、「チャリ場」と呼ばれる滑稽な場面、長右衛門の妻が必死になって夫をかばう場面とか、笑いあり涙ありの展開に引き込まれました。最後、長右衛門とお半が桂川に身を投げる前に抱き合うところ、お半の着物の鮮やかさ、三味線が奏でる音色の美しさが、結末をいっそう悲しくさせました。

印象的だったのは、長右衛門の不倫を暴こうとする儀兵衛が、証人の長吉を責め立てる場面。コントのようにおかしくて、プッと吹き出しちゃいました!

※こちらの記事は2018年11月12日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。
取材・文/福山嵩朗 写真/バンリ イラスト/スケラッコ