「ハロー文楽」編集部

文楽をもっと気軽に学ぶ!

こちらは京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」編集部。
取材を通して学んでいったことをご紹介し、
完成したフリーペーパーは、
2018年度版を第5回に、
2019年度版を第9回に掲載しています。
そして、10月27日から2020年度分がスタートします!

FUMI CHAN文ちゃん

敷居が高く感じていた初心者から、少しずつ文楽にはまっている新米編集者。まだまだ、知らないことだらけ。

GEN CHANゲンちゃん

名作『義経千本桜』で、源九郎という名を授かった狐忠信を尊敬するキツネくん。ちょっぴりイタズラ好き。

HelloBunraku07 文楽ゆかりの地はあちこちに、実際に訪れてみる

さて、文楽発祥の地の大阪とあって、今もゆかりの地がいろいろあるんだけれども、お話の舞台になった場所に行ってみたことってある?

えーと、『曽根崎心中』のお初天神さんは行ったことがあります!

お初天神は徳兵衛とお初が心中してしまう「天神森の段」に登場するよね。ちなみに、お話の冒頭の「生玉社前の段」に出てくるのが谷町九丁目にある“いくたまさん”こと「生國魂神社(いくたまじんじゃ)」なんだ。

あっ!! 知ってます。街なかなのに、すごく広くて、緑豊かな神社ですよね〜。

当時は実はもっと広かったんだ。お話の想像力を膨らませるためにも行ってみよう。

  • 神社の目印の石鳥居。表参道に堂々とそびえる

  • 現在の本殿は昭和31年(1956)の再建。城郭風の存在感のある屋根が見どころ

  • 朱色の北門から境内をのぞむ。門前の坂は天王寺七坂のひとつ「真言坂」

  • 境内北側は鎮守の杜が広がり、ピースフルな雰囲気。神社と縁が深い井原西鶴の座像も

生國魂神社について

社伝によれば創祀は2600年前! 上町台地が海に突き出た半島であった遥か古代から、なにわの総鎮守社として信仰を集めてきた大阪最古の神社。かつては大阪城の地に鎮座していたが、天正11年(1583)に豊臣秀吉が築城する際に当地へ遷座。社殿は本殿と幣殿をひとつの大屋根で葺きおろし、3つの破風(はふ)を据えた独特の様式で、豪壮な桃山建築の遺構を今に伝える。

ようこそお詣りくださいました。神職の中村文隆です。

こんにちは、よろしくお願いします。こちらは近松門左衛門の『曽根崎心中』の物語が始まる場所だそうですね。

その通りです。遊女のお初が境内の茶屋で休んでいると、恋仲の徳兵衛が偶然通りかかって悲劇が動き出すのです。2人が心中したキタ(梅田界隈)は今でこそ都会的ですが、江戸時代は森や沼地に囲まれた寂れた場所。にぎわいの中心は、当社があるミナミにありました。

文楽、歌舞伎、そして角座(現在は心斎橋角座)などの芝居小屋も、江戸時代は道頓堀沿いにあったんですよね! そのなかで、いくたまさんはどんな存在だったのですか?

現在の5倍以上の広さがあった当社は、江戸時代の信仰の中心地。人が集まってくるので、あちこちで芸能者が大道芸や独吟を披露しており、それが専門職や常設の小屋が生まれるきっかけに。町人が主役となる上方芸能の発祥の地だったのです。

なるほど。最初は、ここで芸が磨かれていたんですね。

そうなんです。上方落語の始祖 米沢彦八や、俳諧師・浮世草子作家の井原西鶴はここで単独俳句ライブを一日中おこない、観衆を熱狂の渦に巻き込みました。この24時間俳句ライブが『矢数俳会』と呼ばれます。

ここでオールナイトイベント! 彼らと同じ時代を生きた近松も、盛り上がる様子を見ていたのでしょうね。ほかにもいくたまさんが舞台になった演目はあるのですか?

同じく近松の『生玉心中』は、当社で心中を遂げるお話です。ただ、『曽根崎心中』が有名過ぎて、あまり知られていませんが。さて、境内にはいろんな神社があるので巡ってみましょう。

浄瑠璃神社

生國魂神社の境内にある浄瑠璃神社(写真の右側)。芸能上達が御利益で、春分と秋分の日に例祭がおこなわれている。鳥居の右側にある社号標には「浄るり神社」という文字が刻まれている

芝生もあって気持ちがいいなあ。建築や鍛冶の神さま、女性の守り神も。おっ、僕が尊敬する源九郎狐(げんくろうぎつね)さんを祀る神社もあるよ。

当社は創建以来、大阪の街全体を守ってきたので、あらゆる神さまをお祀りしているんですよ。実は「浄瑠璃神社」もあるんです。もちろん全国唯一です。

浄瑠璃の神さま! 初めて知りました。

近松門左衛門や人形浄瑠璃(文楽)の成立に寄与した関係者、歴代の物故者をお祀りしています。文楽関係の方のみならず、舞踊家や音楽家、アナウンサーなど幅広い方にご信仰いただいていますよ。近松にあやかり、劇作家やライターの聖地にもなっています。

『曽根崎心中』のお初と徳兵衛が描かれた絵馬も素敵。私も奉納させていただきますね。文章が上達しますように〜。

生國魂神社(いくたまじんじゃ)

万物を産み育てる神を祀り、御神徳は五穀豊穣や健康長寿など。7月の生國魂祭、9月の彦八まつりが有名。「いくたまみくじ」は、おめでたい三番叟を舞う彦八人形付きで、ゆるカワな表情。

住所:大阪市天王寺区生玉町13-9
https://ikutamajinja.jp

『心中天網島』に登場するのは、天満橋、天神橋、大江橋など。「天神橋」は治兵衛が妻と子を捨てて、心中を決めたときに渡っていく。そして、小春とともに心中する場所を探した際に次々と橋が登場。

さて、いくたまさんについて学んだ後は、ほかの文楽の舞台もめぐってみよう。心中ものには「道行(みちゆき)」というパートがあって男女2人が心中場所まで歩く道のりと心情を、実際の地名や景色と共に語られるんだよ。大阪の橋もたくさん出てきて、2人が本当に歩いているような不思議な気分になるんだ!

橋はこの世とあの世の境界なのかも・・・。『曽根崎心中』のお初と徳兵衛の道行にも出てくるの?

もう存在しないけれど堂島にあった「梅田橋」が、来世の良縁を結ぶ橋に見立てて登場するね。今も渡れる橋がたくさん出てくるのは、近松の『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』。最後の段は「道行名残の橋づくし」で、なんと12もの橋が出てくるよ。まさに橋づくし!

たしか、遊女の小春と、天下のダメ男こと治兵衛の話ですよね・・・。

フフッ。だけど胸を打たれるんだよね。物語では「天神橋」の北に治兵衛の妻子が住む家がある設定で、心苦しく感じる二人は南岸へと渡ります。掛詞(かけことば)も多くて「天満橋」は“天の魔物”が住む橋、一方「京橋」は“お経”に掛けたりして、言葉遊びも洒落ているんだよね〜。

『心中天網島』は2019年11月24日(日)まで開催中の11月文楽公演の第一部で鑑賞できますね。行ってみましょう!

ぜひぜひ! 第二部では『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の最後の四段が上演されるね。こちらは、自分の命や子どもの命も投げ打ってでも、だれかのために役に立ったり、信念を貫こうという名作。祇園や山科など京都も舞台となっているので、こちらも楽しみだなあ!

※こちらの記事は2019年11月11日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。
取材・文/山口紀子 写真/バンリ イラスト/スケラッコ