「ハロー文楽」編集部

文楽をもっと気軽に学ぶ!

こちらは京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」編集部。
取材を通して学んでいったことをご紹介し、
完成したフリーペーパーは、
2018年度版を第5回に、
2019年度版を第9回に掲載しています。
そして、10月27日から2020年度分がスタートします!

FUMI CHAN文ちゃん

敷居が高く感じていた初心者から、少しずつ文楽にはまっている新米編集者。まだまだ、知らないことだらけ。

GEN CHANゲンちゃん

名作『義経千本桜』で、源九郎という名を授かった狐忠信を尊敬するキツネくん。ちょっぴりイタズラ好き。

HelloBunraku08 人形を美しく見せる衣裳室さんへ

地方公演に出発するために「人形こしらえ(衣裳の着付け)」を終えた人形がずらり。正に壮観!!

うわーーー! この光景は圧巻ですね!

すごいよねぇ、やってきたよ。国立文楽劇場の衣裳室に。

この着物があるからこそ、人形がまるで生きているかのように感じるものね。

では今回は、文楽にとって欠かせない存在の衣裳のご担当者にお話をお伺いします!

池上通子さん

profile

企画制作課 文楽技術室 衣裳

池上通子さん
(いけのうえみちこ)

2004年入社。文楽の衣裳の管理・手配から新調、修繕までを一手に担う部門の主任。

劇場内にある衣裳部屋。役に応じて誂えられた色とりどりの着物や帯、反物のストックが整然と並ぶ。そのなかから、役に合わせた着物を選ぶことも。

はじめまして! 文楽の衣裳さんは、ここでどんなお仕事をされているのですか?

劇場が所有する衣裳や小物の管理をしています。総数を数えたことはないですが、何千という数になると思います。上演する演目や配役が決まると、必要な着物や帯、衿などをコーディネートして、人形遣いさんにお渡ししています。

たしか、衣裳の着付けは人形遣いさんのご担当でしたね。あ、お部屋にお裁縫箱がある! もしかして衣裳もここで作っているんですか!?

はい、新調する際はここで縫製していますよ。衣裳は一見、着物のミニチュアに見えますが、後ろに手を通す穴が空いていたり、独自のカスタマイズが多いのです。もちろん、ほつれなどの修繕も手がけています。

着物を縫う以外にも、いろんな熟練の技が必要そう! 池上さんがこの道に入られたきっかけは?

大学で舞台美術を専攻していた縁で、こちらの募集を知ったのです。実は入社前は、1度しか文楽を見たことがなかったのです…。

となると、下積みは大変だったのではないでしょうか。

それはもう…(笑)。役柄ごとに決められた衣裳や決め事を覚えるのが大変で。初めて自分で衣裳を選ばせていただいたのは入社5年目のこと。本番の舞台を見たときは感動しましたね! その後一人立ちするまでに、10年以上かかりました。

10年とは!!  それは長いなあ。何か理由があるのですか?

10年で主な演目がひと回りするので、衣裳の基本がようやく分かるようになるんです。また、人形遣いさんによってコーディネートのお好みもあるので、それを踏まえて提案できてこそ一人前。いろんな塩梅(あんばい)がわかってくるのが、この頃というわけです。

衣裳準備の基本となるアイロンがけ。新人さんの修業はここからスタート!

絹の反物のストック。職人に色指定をして染めてもらったものも多いとか。

キラキラの金襴地(きんらんじ)は、位の高い侍役に使われることが多いそう。こちらも主に京都製。

衣裳づくりは和裁の技法でおこなわれる。針や糸も和裁用。

衣裳部屋はまるで博物館か生地問屋みたい! 絹や綿地に、総刺繍や金糸の織物も。

タンスのなかには、反物もたくさん! 貴重なアンティーク地もあってワクワクするね。

生地の仕入れは、衣裳づくりのいわば生命線。昔の生地には、今では再現できない素晴らしい縞や銘仙も多いので、大切にストックしているんですよ。一方で、理想の色や柄を求めて、京都の職人さんに生地を染めてもらったり、独自の柄を手織りしてもらうこともあります。

生地からオーダーメイドだったとは!  お人形はん、かなりの着道楽。私より断然ええもの着てはりますやん(笑)。

大阪が誇る伝統芸能ですから! それにしても、粋な男だったり、健気な町娘だったり、同じ首(かしら)でも衣裳によって役柄の性格がグンと引き立つのも面白いよね。

そうなんです! 特にスター的な役柄は、その役だけの特別な衣裳があるのですが、これが舞台上で見事に映えるんですよね。人形遣いさんの技と衣裳がひとつになって、初めて感動が生まれる。その瞬間を支えていきたいと思います。

気になるものを見つけました!

この着付は、『平家女護島』の僧・俊寛のために作られたもの。わざとボロボロに加工してあるんだって! こちらは吉田玉男師匠のお気に入り。

裸で登場する人形は、素肌が衣裳になります。悪役とか強い人など役柄を肌の色で変化をつけて表現するんですって。

これだけ見ると何か分からない!? こちらは人形遣いさんの自前の人形の手や足。名前やサインが描いてあって面白いなぁ(地方公演帰りの荷物より)。

竹で編んだ行李(こうり)は、東京や地方公演で活躍。衣裳を着付けた人形をこの中に入れて送るそう。昔ながらの道具も現役というのがステキですね!

ハロー!文楽 フリーペーパー表紙

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※こちらの記事は2019年12月2日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。
取材・文/山口紀子 写真/バンリ イラスト/スケラッコ