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初めての文楽鑑賞をナビゲート!

京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー! 文楽」編集部。
その活動もいよいよ3年目に入りました。
数々の取材を経験して文楽ツウとして成長しつつある文ちゃんが、
今年も楽しく制作過程をリポートしつつ、
皆さんの文楽鑑賞をナビゲートします!
まずは六代目 竹本織太夫さんの取材から!

FUMI CHAN文ちゃん

「文楽って難しそう」という先入観を克服、過去2年の取材を通してすっかりファンになった20代の編集スタッフ。目指すは文楽ツウな敏腕記者!

カバーイラスト/スケラッコ
文楽の演目『新版歌祭文』(しんぱんうたざいもん)より

Hello Bunraku 202011 〜織太夫さんと歩く〜
文楽ゆかりの大阪 街あるき

一昨年のインタビューで、「関西人は文楽を観る上で言葉や地名などでアドバンテージがある」と語っていた竹本織太夫さん。聞けば、文楽は関西を舞台にした演目が多く、あの名場面の場所が現存している…なんてことも。そこで、生まれも育ちもミナミという織太夫さんに、劇場から歩いて行ける文楽ゆかりの地を案内していただきました。

profile

六代目 竹本 織太夫さん

TAKEMOTO ORITAYU VI

1975年、大阪・西心斎橋に生まれる。1983年、豊竹咲太夫に入門。2018年に六代目 竹本織太夫を襲名。最寄りのスーパーは「大丸心斎橋店」のデパ地下で、「純喫茶アメリカン」でプリンファッションを楽しむ、生粋のミナミっ子。

ゆかりの地で織太夫さんに聞く、 「文楽と大阪の街」のいい関係。

織太夫さんに連れてきていただいたのは「生國魂神社」さん。私も昨年(第7回はこちら)、お邪魔しました~。『曽根崎心中』(そねざきしんじゅう)でお初と徳兵衛が再会する場所ですよね。織太夫さんはよくいらっしゃるのですか?

舞台の初日と千穐楽の朝は必ず来ますね。まず師匠の家に挨拶に行ってから、谷町九丁目の「安楽寺」に師匠の父・八世竹本綱太夫(四世竹本織太夫)のお墓があるので墓参りを。その後、「生國魂神社」を参拝して、坂を下って文楽劇場の楽屋入り…というのが私のルーティンなんです。

驚きました! 初日と千穐楽、どちらもいらしてるんですね。

初日は「無事に務められますように」というお願いですね。千穐楽は「本日、千穐楽を無事に迎えさせていただきました」という御礼とご挨拶に来ます。

やっぱり技芸員さんにとって「生國魂神社」は特別な場所なのでしょうか?

そうですね。こちらの境内には「浄瑠璃神社」があり、竹本義太夫や近松門左衛門といった人形浄瑠璃(文楽)の成立に尽力した“浄瑠璃七巧神”が祀られています。文楽関係者の方が亡くなられるとその御魂を合祀するので、我々にとっては特別な場所です。でもね、「浄瑠璃神社」はあらゆる芸能上達の神として信仰を集めていますから、ピアノが上手くなりたいとか、バイオリンを弾けるようになりたいとか、さまざまな方が参拝に来られていますよ。

ホントだ! お初と徳兵衛の絵馬に“芸能上達祈願”って書いてあります。よーし! それじゃあ私も三味線を習うつもりなので、気が早いですけど上達祈願しておきます。いやぁ、劇場から近いので立ち寄りやすいですね。私も観劇後のルーティンにしたいです。

でしたら、道頓堀にも立ち寄ってみてください。江戸時代の道頓堀は、芝居小屋が密集する演劇の町でした。文楽の源流ともいえる「竹本座」があった場所で、今のTSUTAYAとラオックスの間には“竹本座跡”の石碑がありますよ。あと、「高津宮」も文楽と関係の深い場所です。『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ)のクライマックスでは「高津宮」の夏祭りのだんじり囃子が聞こえてきます。もし機会があれば、「高津宮」の夏祭りに行ってから『夏祭浪花鑑』を観るといいですね。あの夏の夜のジメジメした空気を知っているかどうかで、観劇のリアリティが変わるはずですから。

  • 芸能上達祈願の絵馬は『曽根崎心中』の舞台をもとに描かれている。

  • 神職の中村文隆さんとは旧知の仲。この辺りでよく立ち話をするそう。

  • 織太夫さんの部屋の神棚に祀ってあるという、浄瑠璃神札。

  • 「神様の前やから」と織太夫さんは礼装で参拝。

  • 鳥井さんから寄贈された鳥居とは…大阪らしいシャレが利いてます。

  • 生國魂神社(いくたまじんじゃ)

    大阪市天王寺区生玉町13-9
    06-6771-0002
    日の出〜日没(社務所9:00〜17:00) 参拝無料

    江戸時代、さまざまな芸能が生まれた上方文化発祥の地でもある。『曽根崎心中』の舞台であり、芸能上達の神。境内に「浄瑠璃神社」がある。

  • 竹本座跡(たけもとざあと)

    大阪市中央区道頓堀1-8

    1684年に義太夫節の創始者・竹本義太夫が開いた芝居小屋・「竹本座」の跡地。『曽根崎心中』初演の地でもある。現在は石碑が残り、解説パネルのQRコードを読めば、座の歴史がわかる。

  • 高津宮(こうづぐう)

    大阪市中央区高津1-1-29
    06-6762-1122
    9:00〜16:00 参拝無料

    文楽の夏芝居『夏祭浪花鑑』に登場する神社。織太夫さんは長町裏の段を務めるたびに石玉垣を奉納。境内の南踊り場には前名の“豊竹咲甫太夫”と合わせて2つの名が刻まれている。

文楽ゆかりの地には
織太夫さんのゆかりも!

公演の初日と千穐楽は生國魂神社にお参りを。『夏祭浪花鑑』の重要な段を務めるたび、「高津宮」に石玉垣を寄進する。華やかな活躍の裏で感謝を忘れない、織太夫さんの行動に感激! 私も織姫(織太夫さんファンの通称)になっちゃいそうです♡

文楽劇場と織太夫さんのお膝元、 愛する“ミナミ”のいい店案内。

続いては、劇場の近くにあるお店を案内しましょう。まずはお好み焼きの「おかる」さんです。私は生まれも育ちもミナミなので、こちらの息子さんとは中学校が同じ。ずいぶん前からお世話になっていますが、どのメニューも絶品なんです。僕がいつも頼むのは道頓堀焼そば。あと、お好み焼きのスペシャル(全種入り・玉子2個入り)に、さらにかき玉か豚玉。全部、大盛りでお願いします。お好み焼きを2枚頼むって言っても、スペシャルはおかずで、豚玉やかき玉はごはんという感じかな。

全部、大盛り! お好み焼きをおかずに白ごはんを食べるのは聞いたことがありますが、お好み焼きをおかずにお好み焼きを食べるのは初めて聞きました…。さすがは太夫さん。舞台でエネルギーを相当消費されますもんね。おひとりで召し上がる量がケタ違いです。あれ? お好み焼きの上に描かれているのは何ですか?

これは“アマビエ”で、疫病除けのご利益があるといわれる妖怪です。「おかる」では焼きあがったお好み焼きの上にマヨネーズで絵を描いてくれるんだけど、新型コロナウイルスの自粛明けに来たら、疫病退散の願いを込めて息子さんが“アマビエ”を描いてくれたのが嬉しくてね。僕にとっては“アマビエ”のお好み焼きを食べることは、神社で手を合わせて疫病退散を願うのと同じことなんです。

おいしいものを食べられて、疫病退散の祈願までできるなんて…一石二鳥! 素敵なおもてなしですね。「おかる」さんのお好み焼きはふわふわ。焼きそばも極太麺がモチモチしておいしいです! んん!? そういえば、「おかる」って名前、どこかで聞いたような…。

文ちゃん、よく気づいたね! 「おかる」という店名は、実は文楽三大名作のひとつ『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)の登場人物から来ているんだ。昔はなんばグランド花月のそばで「勘平」という名でお店をされていたそうだけど、勘平は忠臣蔵の中で切腹するでしょ? だから、勘平の恋人だったおかるに名前を変えたそう。文楽とのおもしろい繋がりでしょ?

それはテンション上がりますねー! ミナミは文楽発祥の地。神社や史跡だけじゃなくて、お店にもゆかりがあるんですね。ミナミを知っているようで全然知りませんでした。「おかる」さんにはどんなときにいらっしゃるんですか?

家族でも来るし、東京からのお客さんを連れてくることもあります。僕にとってはダイニングでもあり、サロンでもあるかな。ミナミは地元ですから、法善寺横丁の「喝鈍」で昼飯を食べたり、「サロン・ド・テ アルション」でお茶したり、通い続けてるお店が多いんです。例えば精肉店の「はり重」では、お中元やお歳暮にコールビーフを買うけど、土曜日にカレー用のスジ肉も買いに行きます。ハレの日でも普段使いでもいける。それがミナミのお店の懐の深さ、街のええとこだと思います。

  • 「おかる」特製のマヨアート。写真はアマビエ。※リクエストは不可

  • お好み焼きのスペシャルに11月〜2月は「牡蠣も入る」と女将さん。

  • 夜になるとネオン煌めく「坂町」の路地で、おかるはひっそりと佇む。

  • 壁に飾られる浮世絵。年代物かと思いきや、美大出の息子さん作。

  • 注文はすべて全種入り&大盛りとは…食いしん坊な織太夫さん!

  • お好み焼 おかる

    大阪市中央区千日前1-9-19
    06-6211-0985
    12:00〜14:30LO 17:00〜21:30LO 木曜&第3水曜休

    1946年創業。ふわふわのお好み焼きはテコで生地をしっかり押した後、フタをして蒸し焼きにするスタイル。豚、肉ミンチ、イカ、エビ、タコ、かき(冬期限定)の全種入り“スペシャル”は1,300円。

  • サロン・ド・テ アルション
    法善寺本店

    大阪市中央区難波1-6-20
    06-6212-4866
    11:30〜21:00(食事〜19:00LO、喫茶〜20:00) 不定休

    フランス菓子と紅茶のお店。織太夫さんは無類のチーズケーキ好きゆえ、「フォークが立ちそうな」濃厚食感のロワイヤル387円(写真手前)をアルションブルー660円と一緒に。

  • 喝鈍(かつどん)

    大阪市中央区難波 1-1-18 法善寺横丁内
    06-6213-7585
    11:00〜20:00 月曜休

    カツオやアゴなどでダシを取り、カエシは創業以来継ぎ足し。客の顔を見てロースの赤身と脂のバランスを変える、一食入魂のかつ丼。織太夫さんの最近の推しはなべカレーかつどん900円。

どのお店も1つの道を究めていました。

織太夫さん行きつけのお店には共通点を感じました。どのお店もオリジナリティと並々ならぬこだわりがあって、その姿勢を長い間貫かれています。そういうお店に惹かれるのは、芸の道を究める“太夫”という職業と無関係ではないのかも!?

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※この記事は2020年11月27日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。 取材・文/福山嵩朗 写真/竹田俊吾 イラスト/スケラッコ