異例の油絵描き下ろし、書籍装画のお話。
カテゴリ:本
書籍カバーの絵について、少しお話をしましょう。
『丹波篠山 TRAVELOGUE』のカバーと中面、計4点の装画は、丹波篠山を拠点に活動する美術家・福田 匠さんによる新作の絵画です。
まず目に飛び込む青の印象の一方で、天地を大胆に分かつ鋭角の線が清冽で、見る者を主体的にイメージの世界へ誘います。ピントをずらせば、塗り重ねられた層の随所から作画の来歴が覗き、立体的なテクスチャーを感じる空間が展開されていきます。
本の内容から要請されるイメージと、丹波篠山へ移住し、美術家として生きてきた福田さんの美意識の総合が油彩紙全面に広がり、「華美より簡素の美」「時宜に適うより不変の魅力」を持ち味とする丹波篠山にふさわしい、抽象と具象の境界を揺さぶる作品と言えるのではないでしょうか。
担当編集の私感ですが、書籍のカバーには、掲載するコンテンツをわかりやすく知らせる商業的な機能より、本として世に問う意義を代弁する“顔”としての役割を旨とすべきと考えています(市場に寄り添う機能は帯で十分)。
「商品」として強い訴求力を出すべく、自由なサイズのタイポグラフィがさまざまに踊る装丁が書店の平台を占める現在ですが、1枚の絵から喚起されるイメージをブックデザインの要諦にしたいと考えました。ここに至る理路は一言では説明できませんが、丹波篠山の自然を味わい、インタビューを繰り返して持った実感によるものです。
説明過多な観光地とはひと味違う丹波篠山から感じた “奥行き”や“緊張感”を、ローカリティーや情感を捨てずに表現する方法はないだろうか。また、最も時宜に即しつつ、見る人の心にうねりを生み出すのはどういう選択だろうかと考えた時、丹波篠山を拠点に精力的に活動を続ける美術家の福田さんに依頼したのは必然だったように思います。
カバー装画の名前は「篠山—Atmosphere」。名は体を現す38×56cmの世界は、ぜひ本を手に取って実見を。また、書籍には福田 匠さんのご自宅で行ったインタビューを掲載。2022年3月末には、福田さんの作品を常設したアートギャラリー「丹ゆう」が、城下町中心部に開廊予定となっています。こちらはガイドブックにて紹介していますので、どうぞ併せてご覧ください。
<データ>
丹ゆう
丹波篠山市北新町120 Tel:なし 10:30〜16:00 木〜土曜開廊 Pなし
Instagram:tanyu.artgallery