よう知らんけど日記

第105回 なんか聞いたことあるよね、ルートビア。

2017.2.21 10:00

カテゴリ:アメリカ

8月☆日
アイオワ、思ったより暑い。大阪とか東京に比べたら全然涼しいやろとなめてたら、夏の終わりやのに結構暑いし、湿度もある。そして、蝉がめっちゃ鳴いてる。緑いっぱいのとこで、大きい木も多いねんけどそこらじゅうに蝉がおる(姿は見えずやけど)。鳴き声は、アブラゼミとミンミンゼミとクマゼミを足して3で割ったような感じ。クマゼミほどはうるさくないけど、へー、と感心するくらいにはよう聞こえる。

8月☆日
歩いて行ける距離には小さい店しかないので、スーパーへ買い出しに。作家は車の運転は不可なので、大学院生が運転してくれる車に分乗。20分ほどで着いた先は、これぞアメリカな、広ーい店にでっかいカートのスーパーマーケット。日本では売ってないものや、ずらーっと並ぶ特大サイズの食品見てテンション上がるものの、オーガニック系らしく、値段が高い。

そのあと、大学に戻って共同で使えるキッチンへ。部屋には冷蔵庫(冷凍庫なし)と電子レンジしかないのよね。買い物もキッチンも毎週火曜日と決まってる。料理をしたい作家が全部で7人くらい来て、わたしと韓国の女性作家さんは見学。イスラエル、ウクライナ、ロシア、ナイジェリア……。ナイジェリア女子は、豪快に鶏丸ごとをスープに。ちょっと味見させてもらったら、おいしいけど辛い!! ナイジェリア料理ってこんなに辛いのかー。あと、イスラエルのサラダも食べさせてもらって、こちらはレモンと塩たっぷりで食べやすい感じやった。調理後、何人かで作ったものを食べてたら、買い物先について、ほかの作家も、高い、オーガニックとかじゃなくて安いとこに行きたい、と合唱になり、翌週からはごく一般の安いスーパーに行くことになりました。

8月☆日
世界各国から作家が集まって合宿なInternational Writing Program(IWP)、今回の参加は33カ国から37人。全部書いてるとページが埋まってしまうので、そのなかでこんな機会ないと話すことなかったし、そこの国の文化や政治体制も知らんかったなあ、という国を書いとくと、ボツワナ、モーリシャス、ガイアナ、かなあ。毎週決まってあるのは、朗読の時間、自分の国の文化や自分が書いているものを説明する時間、毎週違ったテーマがあって4、5人の作家が発表・ディスカッションする時間。IWPの期間中に各時間1回は回ってくる。自国の文化・文学を話す時間に初めて出た日、前に立って堂々と話す作家たちの姿に、え、これは「スーパープレゼンテーション」やん、「TED」やん! Eテレでやってる英語のプレゼン番組のあれですやん! わたしこんなんできませんよ、無理無理無理無理……。1週間経ったこのころには、どうも自分だけが断トツで英語ができないっぽいことががっつりわかってたので、先行きが不安に……。 そのほか、映画を見る時間(上映後は質疑応答)、大学院生と翻訳のワークショップ、ライブハウスで詩の朗読、それからピクニックや旅行と、思ってたよりえらい盛りだくさんの日々が始まってたのでした。

9月☆日
銀行へカード作りに行ったり、社会保険事務所に行ったり、図書館の使い方のレクチャーに、学校のインターネットを使うための登録に行ったり……。3カ月も研修生の身分で滞在するとなると、いろいろ大変なのね……。社会保険事務所は、警備も厳重やしぴりぴりした雰囲気で、ビビりながら待ってたら、バスケのユニフォーム着た黒人のおじいちゃんが入ってきて、腰をかがめて人の隙間をかき分け「ソ~リ~、ソ~リ~」とだみ声で言いながら進んでいった。大阪の、特に南のほうにおるおじいちゃんと言動がまったくいっしょやったので、異国の地で和みました。

そして、図書館。今までにも、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ロサンゼルス校で図書館に行って、ものすごい蔵書の量、最新設備、勉強熱心な学生の姿に圧倒されてたのやけど、アイオワでは実質2カ月ほどいるだけのわたしたちも学生と全く同じように使えるらしい。意気込んで図書館に向かい、ウェブサイトで規約を確かめると、貸し出しは夜11時まで! 図書館自体は24時間開いてる! そして何冊借りられるんやろ……え、500冊!? 期限は?……来年6月!?(つまり、学年が修了するまで)。あまりの充実ぶりに、人生やり直してアメリカ留学したい、と思わずにはいられませんでしたよ。

9月☆日
アイオワ大学のスターは、もちろんフットボール部ホーキーズ。アイオワは野球もバスケもそのほかプロスポーツチームがないので、大学だけじゃなく、地域にとっても娯楽やから大人気。スーパーマーケットでもホーキーグッズ、ユニフォームからお菓子から日用品から何でも売ってる。ホーキーTシャツやスウェットを着た人をそこら中で見かけるのやけど、チームカラーが黄色と黒。……なんか見たことあるような色の組み合わせやね! というわけで、親近感を覚えてしまいました。

ホテルは学生会館とつながってるのやけど、そこのロビーにいつもチアリーダー部っぽい子たちがたむろってる。さらさらの金髪ロングに、ショートパンツからは長ーい足。ほんまにアメリカ映画で見る世界やなあ。学生会館も24時間開いてるのやけど、早朝から夜中まで、そこら中でノートパソコン(9割Mac)開いて勉強してる。パソコンは授業中もごはん中も開いてて一心同体っぽい。だから、全員か、ていうほどリュックしょってて、購買部で売ってる鞄も、ノートパソコン入れるクッションポケットがついてるリュックしかない。大学院生くらいになるとちょっと個性も出てくるんやけど、学生はほぼスポーティーなカジュアルにリュック。日本の大学生には、スマホや携帯でなんでもできるからパソコン苦手な子もおるけど、アメリカの大学ではスマホよりとりあえずパソコン開く感じのよう。

8月☆日
だんだん生活のペースができてくる。8時ぐらいに朝ごはん部屋に行ってベーグル食べて、その日のクラスに出て、部屋で英語の勉強して、ほかの作家の作品読んで……。
アメリカに来る前に、『GIRLS』ていうドラマで主人公(レナ・ダナム)がアイオワ大のライターズ・ワークショップに入学する話があると聞いて、見てきた。ドラマの中で、その授業が、普通の一軒家(アメリカのちょっと古いスタイルの素敵なおうち)で行われてて、あれはなんやろ、と思ってたのやけど、ほんまにその通りやった。アイオワシティは、大学だけで町が成り立ってる典型的なアメリカの大学町やねんけど、大学と町の敷地が分かれてない。IWPの事務所とメインの部屋は一軒家にあるし、普通の家に見えて教室になってるとこが点在してる。塀もなければ、ここからが大学っていう境界がなくて、町の中心にある小さなショッピングモールも半分は大学の事務所で、フードコートは学食状態(ここは中華料理が多いので、中国の留学生の子の集まる場所になってた)。
日本はもちろん、今まで行ったアメリカのほかの大学とも違うので(ニューヨーク大学みたいにマンハッタンのダウンタウンにあるからビルがあちこちに点在してるタイプもあるけど、それともまたちょっと違う)不思議な感じ。広々した敷地、先に書いた朗読やクラスはそれぞれ別の場所で行われるので、けっこうな距離を歩いていかなあかん。東京では締め切り前なんて家から一歩も出ない日が4日続いたりやったから、とりあえず、めっちゃ健康的です。

9月☆日
食べ物に関してはチャレンジャーな性格。見たことないものはとりあえず試す、が信条なので、購買部で売ってるルートビアが目に留まって、買ってしまう。なんか聞いたことあるよね、ルートビア。アメリカンな味って言うよね。ドクターペッパーみたいな感じかなー(って、飲んだことないけど)、と部屋に持って帰って、飲みました。……ぐああああ、すんません! これは無理! なんぼなんでも、無理! 飲みもんとちゃう!! なんやろ、この味。薬? 湿布? いや、絶対知ってる、なんかの味や! ということで、こんなときインターネット。どんな経験も、物も、絶対誰かがブログに書いてる、ということがわかって来たアメリカ滞在2週間目、やっぱりずらずらっと出てくるね、ルートビア記事。湿布、うーん、それもそうなんやけど、と検索してたら、あった!! 正解が!! イソジン!!! それや~……。イソジンのボトル一気飲みしたらこんな味するやろなー……。ミントの葉っぱと薬草とフリスク系の強烈なやつを煮詰めたら近いものになるかも。はまる人もおるかもしらんけど、もともとミント系が苦手なのでかなりつらかった……。そして、こっちのスーパーで買うた歯磨き粉がめっちゃ変な味で苦しんでたんやけど、このルートビアと同じ味やったのがわかりました。

柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com

権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com 風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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