よう知らんけど日記

第117回 人生初の天神祭船渡御に乗りました。

2019.10.17 13:17

7月☆日 

天神祭。以前対談させていただいた仲野徹さんのお誘いで、人生初の船渡御に乗ることに。天神祭は大阪でいちばん大きなお祭りやねんけど、わたしは両親ともに大阪出身じゃないし、場所的にもちょっと離れてるので高校生になるまで存在も知らず、そのあとも1回それにかこつけて飲みに行ったのと、もう1回流鏑馬を見に行っただけ、あとはテレビ大阪で花火の中継見たくらいしか縁がなかった。今回はまず、大阪天満宮文化研究所研究員で日本近世史家の高島幸次さんのご案内で、天神さんでのお祭り本体を見学。これこそ大阪の夏っていうめちゃめちゃ暑い晴天の下、次々に天神さんにお詣りしては出発していく「講」を特等席から観る。天神祭はこの「講」という単位でそれぞれテーマのあるグループが参列して、天神さんから天満橋まで行って、船で大川をさかのぼってまた戻ってくるというのがお祭りのメインイベント。まずは、「催太鼓(もよおしだいこ)」という太鼓の山車が出発。シーソー状になってる山車に、真っ赤な長い烏帽子をかぶった男子が太鼓を叩きながら進んでいくのは迫力と派手さがあってかつ風雅でいきなり盛り上がる。そのあとは、子供が主体の和傘や獅子舞で踊る講や、牛や籠などをメインにした講が続く。「渡御(とぎょ)」は天神さん(菅原道真)が年に一回、町にお出ましになってめぐって戻ってくる神様のご巡回的な行事なので、その道中で必要なものや楽しませる踊りとかがいっしょに行く、と解説を聞くとめっちゃなるほどーとなる。「講」は町内会的なところや料亭とかの業種ごとの組合とかいろいろあるんやけど、維持が難しくなって減ったり新たに参加するとこがあって増えたりしてきたそうで、そのへんのゆるい感じが大阪やなあ、と思う。メインは天神さんが乗らはる御神輿、玉神輿と鳳神輿。御神輿って普通は宮大工が作るところ、こちらは船大工に頼んだのでそれぞれ2トンもあるらしい。担ぐのは主に卸売市場の頑強なお兄さんたちなのだけど、それでも何度も交代しながら、肩当てをしてても血まみれになるくらい重いらしい。金に光る御神輿が並び、天神さんの御霊を乗せて、大阪締め。「うーちまひょ、ぱんぱん、もひとつせ、ぱんぱん、祝うて三度、ぱぱん ぱん、おめでとうございます」ていうやつね。この瞬間はやっぱりめちゃめちゃかっこよくて、気持ちがわーっと盛り上がりました。 

7月☆日 

そして、一般参加の船に乗るために、地下鉄で南森町から都島へと移動。天神橋筋商店街も地下鉄も浴衣の女子や夜店に遊びに来た人たちでいっぱい。お祭りの特別な賑やかさって、どこであってもすごい好き。都島駅から川沿いの公園へ行くと、そこにも屋台がずらっと。夜店は商店街らへんだけと思ってて、この辺までお祭りやってるのも知らなかった。だんだん日が暮れていくなか、乗り込んだ船でしばらく待機、すでに飲み始める。前日までの大雨で川の水位が上がってて、そうすると橋の下を通れるところがせまくなるため、かなり待つことに。船はお祭り本体の船(さっき天神さんを出発した講や文楽、能、かがり火の船など)も含めて200隻以上いるので、けっこうな渋滞。空が紺色になり始める頃に出発。川面から眺める川岸の夜店の明かりと賑わう人を眺めていると、ああ、ほんま大阪はええ街やなあ、としみじみした。ほかの船とすれ違うときは、大阪締めを交わす。お祭り本体の船に対してはこちらから送る。あー、なんかこの出会った人とコミュニケーションする感じも大阪やなあ。暗闇の中、能(土蜘蛛を上演)の船が滑るように進んでいくのや、そんなに燃えててだいじょうぶ?って思うくらい炎が上がってるかがり火の船が川の交差するところで輝き続けてるのを観てると、千年以上、形を変えながら続いてきたお祭りと、この街で暮らしてきた人たちのことが思われて、大阪は水運の街なんやというのを実感した。そして、ほぼ真正面で観た花火は大迫力でした。

 

7月☆日 

高島幸次さん主催の船だったのやけど、福島の[ミチノ・ル・トゥールビヨン]の特製お弁当を出していただいて、これがもう、たいへんにおいしかった。船は都島の飛翔橋から天満橋まで下ってまたもどってくるのやけど、行きはしっかり目でカツサンド中心、帰りはお酒と合うリエットとかのおつまみっぽいもの中心と、わかってはるわ~、やっぱりおいしいものは大阪やわ~、と、初の船渡御にしてたいへんに恵まれた幸せな時間を過ごしました。シェフの道野正さんは本も出してはって、しかもわたしの小説も読んでくれはってるそう。うれしいことずくめの夜でした。 

さらに、この船、関西在住の作家さんが何人も乗っていて、今日本一作家密度が高い場所やな、と思いながら花火と夜景の映る川で揺られておりました。

ところで、今回船渡御に誘ってくださった仲野徹さんが大阪のいろんな分野の人と対談した『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』(ちいさいミシマ社)がちょうど出版されたところで、このあと回ったどこの本屋さんでもすごい表紙がずらっと並んでおりました。ヒョウ柄+金文字のインパクトすごい。タイトルの文字見えへんやん!ていうつっこみ待ちな感じも大阪です。そしてカバーめくったらさらに驚きます。天神祭をご案内いただいた高島先生はじめ、大阪のことば、歴史、食、落語、音楽、花街などなど、めっちゃわかる~ってことから、全然知らんかった!ってことまで装幀に負けず密度の濃ゆい1冊なのでぜひ読んでみてください。 

7月☆日 

早朝からクマゼミがぎゃん鳴き。ああ、これでこそ夏や! いろんなとこで何回も書いてるけど、東京はクマゼミがほぼいないので、夏がめっちゃ静か。クマゼミ100%地帯で育ったわたしには、なんぼ暑くても静かな夏なんて夏の感じせえへん。このクマゼミのうるささ、朝からたたき起こされ、窓開けてると電話もできへん大音量、クマゼミいない地帯の人には話しても全然わかってもらえない。セミの地域差の話をしたり書いたりすると、めっちゃ興味持ってくれる人と、「え? なんか違う?」くらい興味ない人と分かれる。えー、だって、めっちゃ重大やん。「夏」とか「セミ」とかの言葉で思い浮かべてるものの中身が全然ちゃうのやで。夏の朝とか夕方とかの感覚も全然違うのやで(クマゼミは梅雨明け~お盆まで&早朝からお昼まで、アブラゼミやミンミンゼミは7月末~秋&午後~夕方)。さらに、温暖化とかヒートアイランドとかめっちゃ関係あるし、近年は街路樹を遠い県から買うから、九州の木に付いてたセミが東京で繁殖するという地理的経済的にも興味深い現象が起きてるのやで。東京は今年は雨ばっかりで寒くて7月はセミまったく鳴いてなかったので、余計にクマゼミ大音量にほっとしたのでした。 

7月☆日 

梅田蔦屋書店で、『待ち遠しい』刊行記念で文化人類学者の松村圭一郎さんとトーク。松村さんは『うしろめたさの人類学』ていう本を出してはって、おもにエチオピアの社会について研究されてます。本に書かれてるエチオピアでのエピソード、人間関係はほんまにおもしろいことばかり。明らかに周りに迷惑ばかりかけている人に対しても「彼は今、そういう時期だから」となんとなく受け入れていたり、現代の日本の社会から見ると、えっ? と驚くことがたくさん。わたしが子供の頃の記憶をひっぱってみても、世の中のあり方というか、特に人と人の関わり方ってだいぶ変わってきてて、それはいいとこもあんまりええことないとこもあって、ええとか悪いとかじゃないとこもあって、それを思い起こしたり、ほかの社会のあり方と照らし合わせてみたりして、違うあり方、普段慣れきってしまってる感覚と違うなにかを知ると、今の社会や世間で生きてる中でしんどいことって、もっと別のやり方があるんちゃうん?  別の可能性があるんとちゃうん? って思えるんよね。そして、自分が正しいと信じてることも、文化や社会の仕組み、もっと言うと政治や国のあり方にめっちゃ影響受けてて、しかもそれに気づいてなかったり。だから、日常を考えること、書くことって、なんでもないささやかな幸せみたいなことではなくて、もっと根本的で、ときには戦うことでもあるって、思ってきたけど、松村さんの本を読んで、話してみて、あらためて思った。 

「みんぱく」に行くとうきうきすると同時に心が広がっていく感じするのも、こういうことを考えられるからやね。 

ところでエチオピアというと、アイオワ大学のプログラムでいっしょやった女子が、トモカってエチオピアのコーヒーの名前、って言ってて、松村さんに聞いてみたら確かにメジャーな銘柄らしい。「玉露」みたいな感じ? 一回飲んでみたいなあ。コーヒー、基本的には飲まれへんねんけど、その子が連れて行ってくれたシカゴのエチオピア料理屋さんで飲んだエチオピア式のコーヒーはおいしかったしめっちゃ飲めた。 

7月☆日 

京都&大阪で『待ち遠しい』のサイン本を作らせてもらう。 

東京での書店めぐりは、ここにこんな書店あるんや、ここはこういう棚が充実しててこんな感じのお客さんが多いんやとか、新しく知る感じなんやけど、京都&大阪は、どの本屋さんに行っても思い出とか記憶とか、その近くに住んでる友達のこととか、個人的な思いがわーっと出てくる。ここであの本買ったなとか、誰と待ち合わせたなとか、あのときの帰りに寄ったなとか、忘れてたようなちょっとしたことがすごい明瞭に思い出されてびっくりする。東京に続き、大阪でも今まで訪問したことがなかったお店にも行かせてもらったので(『待ち遠しい』の舞台になってる枚方の書店さんにもうかがいました!)、いろんなこと思い出した。しかも、やっぱり書店員さんも大阪の人なので、しゃべったらめっちゃおもしろい。別にわざわざネタを話すみたいのではなくて、ナチュラルにおもろいことがくっついてくる感じ。すごい満腹感でした。お忙しい中対応いただいて、たくさんお話ししてくださった書店のみなさま、ほんとうにありがとうございました。 

7月☆日 

京都と大阪を移動してるとき、屋根にブルーシートかかってるとこがちょいちょい見えた。大阪や京都の友達と話してても、あそこは去年の台風で壊れてとか、けっこう聞く。でも、去年の関西直撃台風、信じられへんような大被害で、わたしも動画見たり、弟から送られて来た近所の画像とか見て驚愕してたのに、東京ではほんま知られてない。翌日に北海道で大きな地震があって台風の報道が一気になくなってしまったこともあるけど、それにしても、「そんなことあったけ?」ぐらいの反応が返ってくることもしばしば。実家の周りの画像見せると(業務用の特大室外機が4階屋上から落ちたり、屋根が吹き飛んだり、公園の大木が折れまくったり、信号機同士がぶつかったり……)、やっと、えー、たいへんじゃないですか、とびっくりされる。いまだに壊れたままのとこがあったり、長く被害が続いて今も大変なことなんて、まったく知られない。狭い日本、おんなじ日本の中で、これだけ情報発信の手段も発達してて、それでもテレビとかメジャーなところでがんがん報道されないと、なかったことになってしまうのはなんでなんやろなあ。と言いつつ、わたしだって自分と縁の薄い地方の災害被害をどこまで知ってるかというと心許ないわけで、なんか定期的に伝える手段とかあったらええのにと思う。 

8月☆日 

日本近代文学館主催の「夏の文学教室」という、そうそうたる作家さんたちが5日間にわたり講演をする催しに初めて参加させてもらう。有楽町よみうりホールという、1000人も入る立派なホール。対談はだいじょうぶやけど、一人で話すのってめっちゃ苦手で、しかも1時間、どうしようと思いながら、前日まで必死で原稿書き。だって、一人でしゃべるのって、誰に向かってどんなしゃべり方したらいいかわからんやん? 相づちもないのに一人でしゃべり続けて、こんなわたしのしゃべりでそれだいじょうぶ? って感じやん? しかも1000人とは行かないまでも500人はいてはるし……。めちゃめちゃ緊張しつつ、たどたどしく、それでも話の内容的にはまあなんとかなったかな、というところやけど、それ以前にまず! 体力的に! 物理的に!60分一人でしゃべるの無理やった……。45分ぐらいのところで息切れしはじめ、まじでマラソンとか水泳とかの長距離後半みたいになり、でもしゃべらなあかんからどこで息吸うてええかわからんようになり、最後の15分ほんま何回も「息止まって倒れたらどうしよう……」と不安に襲われながらの講演でした。無事に終わってよかった。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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