第123回 20年間仕事してきていちばんびっくりしたこと。
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12月☆日
4日連続で忘年会的な集まり。たまたまそうなってしまったのやけど、1日目がもっとも酒量の多い集まりにあたって、その後の3日間めっちゃしんどい……。わたしはお酒は好きやし、そこそこ飲めるのやけど、どれだけ飲むかはその場に左右されるタイプ。一人やとまったく飲まないというか飲めない。ほんまにおんなじ酒か? と思うほど、コップ半分ぐらいでももういらん、となってしまう。それが、人がたくさんいておいしい食べものがたくさんあって、なおかつめっちゃ飲む人がいると、つられて飲み過ぎてしまうんよね(前回書いた「モクテル」切実に希望してます)。
初日がいいワインを持ってきてくれる人が複数いる会合で、それはもう、飲むよね。しかし、最近、特に赤ワインが飲めなくなってきたので、それなのにめずらしいおいしいワインとか目の前にあると飲んでしまうのであって……。2日目は文学賞のパーティーだったのでここではお酒飲まず。3、4日目はそれぞれ食べ物がおいしいところだったので、お酒より食べ物が楽しめてよかったです。4日目のベトナム料理屋さんの、しゃぶしゃぶをライスペーパー2枚で食べるやつおいしかったなあ。そこで出てきた、ライスペーパースタンド+水をつけるところ付き、なプラスチックの器が便利そうでほしい。でも、こういうのお店でええなと思っても、家で手巻き生春巻き作るとか、1年に1回もないねん。使わへんねん。買うたらあかん、ということを、最近ようやくできるようになってきました。
12月☆日
ところで、この4日間の集まりは、だいたい同業者というか、直接仕事で関係ある人じゃなくても、同じような職業の人(作家、漫画家、ライター、イラストレーター、デザイナー……)の集まりだったのですが、仕事で起きた大問題を聞くことがしばしば。パワハラセクハラ的なこともちょいちょい聞くし、勝手に原稿を書き換えられて使われたとか、最初と企画が変わって何回もやり直しの上に結局お金払ってもらえなかったとか、いろいろあるわけです。一人話し出すと、あれやこれや出てきて、ええー、そんなひどいことあるん!? てなるのですが、ここでわたしが20年間仕事してきていちばんびっくりしたことを。
「出る予定がまったくない本の新刊インタビューの予告が雑誌に載った。しかもタイトル捏造」です。
なにを言ってるかわからないと思いますが、雑誌の次号予告ページに、「柴崎友香新刊インタビュー」って載りまして、編集部の人から「すみません、延期になったそうですが、修正が間に合わずに載ってしまいました」って連絡があって、「??? 延期もなにも、そんな本、わたし知らないですけど……」「ええっ!? どういうことですか?」とお互いに大混乱。どうやら、その前に一度仕事をしたことがある某出版社の人が、1行も存在してないわたしの本を勝手に出版予定として売り込んでたことが判明。当然、その人を呼び出して説明を求めたのですが、平謝りして「柴崎さんの本を出したいという希望があって予定に書き込んでたらそのまま社内で進んでしまった」とわけわからないことを繰り返すだけ。御社では願望だけで本が出るんでしょうか。しかも、タイトルまで勝手につけられてたそれが、わたしが考えたと思われたら恥で死にたいダサすぎる文言で、次号で謝罪出してもらったとしても、この予告ページ見た人は「この作家、センスなさ過ぎやろ笑笑」って嘲笑されるのはわたしですよね!? もう15年も前の話で、ツイッターはおろか、公式サイトさえも持ってなかったし、今と違って作家が情報を発信する手段がごく限られてて、結局その雑誌の次号に小さく訂正記事が入っただけになった。しかも、わたしも本格的に仕事を始めて日が浅く、東京に来てすぐぐらいで作家の知り合いとかも少なかったからどう対処したらいいかいまひとつわからず、その出版社の上司に話を通すとかも結局できず、うやむやになってしまったんよね。その出版社とはもう仕事をしないようにしてるのですが(1回だけ、友人の作家との対談を受けたけど)、何年も経ってからその出版社の別の編集者の人と話してて、どうもその捏造した人はその一件のことを社内でごまかしてるっぽい、とわかって、やっぱり会社に怒鳴り込む勢いでやっとかなあかんかったなあ、と。理不尽なできごとと戦うのって、心を削られるし、前から知ってた人が相手やと世話にもなったし、みたいな気持ちが湧いてきて、徹底抗戦できにくいけど、今後のほかの作家さんのためにも、きっちり話つけとかなあかんなあと思うのです。
ほんま、今やったら、即ツイッターに一部始終全部書いて、謝罪訂正求めるのになあ。
今は、個人も情報発信できる手段が増えて、若い作家の人とかがきっちり抗議を書いたりしてるのを見ると、自分がもっとやっとかなあかんかったなとか、これからの人はどんどん発信してほしいなとか、思います。
12月☆日
年末。ぜんぜん寒くないし、仕事は普通にやってたりで、年末気分にならないまま唐突に年末。引っ越してきて最初の年末年始なので、近所を偵察。どこの店が開いてるんかなとか、年末年始の食べ物はどういうの売ってるんかな、とか。一昨年までは、前の家の近くのレストランのおせちが手頃でおいしかったので5年ぐらい買っててんけど、一昨年、その店で晩ごはんを食べようとしたときの店の人の態度のあまりの悪さに、もう二度と買わへんと決意(手が足りてないとか、忙しくて忘れられたとか、そういうのはええねんけど、サービス精神がないというか、ここの場合、予約しようと電話をしたら、しばらく休みと言われたので、いつごろまでですか、予約も受け付けてないですか、と聞いたら、だーかーらぁ、やってねえっつってんでしょ!と返ってきた)。
新しい店を開拓しようとうろうろすると、蕎麦屋さんで売ってた打ちたての年越しそばがおいしかったのと、魚屋さんの刺身盛りがかなりよさそう、と言うことで、来年はこのあたりで組み立てようと計画しました。なんやかんや言うて、年末のざわざわした街の感じはええよね。
1月☆日
あけましておめでとうございます。1日からスーパーが開いてる。前に住んでたとこの最寄りスーパーは三が日は休みやったので、不意打ちな感じ。ほかにも、飲食店とか、ちょいちょい開いてる。1年前にドイツに行って、噂には聞いてたけどドイツの日曜って店が完全に休みで、水さえ買えずにめちゃくちゃ歩き回る羽目になって、その様子を説明するのに「日本の元日ぐらい店が開いてない」って言うててんけど、日本の元日、ドイツの日曜日よりよっぽど店開いてるわ。
そして、ドイツ行ってきた日記もそのうちに書くつもりではいます。うん、書くつもり……。
1月☆日
年末年始は東京にいます。東京に引っ越してきて最初の何年かは元日に大阪に帰っててんけど(新幹線がらがらなので移動するのにおすすめです)、人が少ない東京がなんかええ感じなので、最近はずっと東京です。ゴールデンウィークとかお盆とか、長期の休みは東京で家にいて仕事するのが落ち着いてていいのです。ずーっとこんな日やったらいいのになーと思う。
今年は、お正月にやろうっと、と思ってた仕事が気づいたら多くなってて、あれ? 実はそんなに日がないやん、てなってちょっと焦りました。
1月☆日
ニック・ドルナソ『サブリナ』(藤井光訳)、おもしろかった。というか、怖かった。
グラフィックノベル、漫画の形式で描かれてるのですが、文学賞のブッカー賞にグラフィックノベルで初めてノミネートされた作品でもある。日本の漫画を見慣れてると、まずコマ割りは単調やし、絵も地味で登場人物の顔も区別がつかない感じ。でも、それこそがこの作品の肝要なところでもある。ある日失踪した「サブリナ」という一人の女性に関わる人と、ちょっと離れた人の、複数の日々が進行していって、はっきりとしたことは明らかにならないけど、じわじわ不気味で、そしてその怖さって、読んでるこちらが普段関わってることとつながってるんちゃうの?ってなる。
これを読む前に、Netflixのとある犯罪者のドキュメンタリーが話題になってて、それをちょうど見たところやってんね。これ、犯人による動物の虐待の動画が含まれてて(もちろん加工はされてる)、うっかり見てしまったらダメージが大きすぎるのでタイトルは書かないけど、そのインターネット時代ならではの、自己顕示欲が引き起こした信じられないほど残虐な犯罪者と、犯行の動画がインターネットにアップされて大騒ぎになり、犯人捜しに必死になるネットを見る側の人たち(彼らの追跡で犯人が見つかるのやけど)を追った、実際の事件に関するドキュメンタリー。その犯罪自体はほんまにこんなことやる人おるの!? って衝撃でしかないねんけど、でも、インターネット上でそれに関することを話題にしたりめっちゃクリックしたりリツイートしたりいいね!したりする自分は、その一部に加担してるんじゃないの?ってものすごく怖くなる。『サブリナ』でもその加担してる怖さ、すでに巻き込まれてる怖さ、っていうのをすごい考えてしまう。そして、アメリカはこういう部分では常に「先進国」やなあ、さらに日本はそれを忠実に追っかけてるよなあ、と思ったり。
グラフィックノベル、とっつきにくいなあ、と感じてる人も多いかもしれないけど、漫画と小説と映画のあいだみたいな感覚で楽しめると思います。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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