よう知らんけど日記

第125回 この何年か考えてる「共感」てことについて。

2020.4.16 12:01

カテゴリ:未分類

1月☆日 

久しぶりに渋谷へ。関西の方にはあまりわからないかもですが、渋谷はこの何年かで激変しまして、行く度に「ここどこ!?」状態。あ、ちょっと前の大阪駅周辺みたいな感じかな。工事中の仮通路ばっかりで、毎回道が変わってて、どこに出たらいいのかさっぱりわからへん。そして、高層ビルががんがん建った。大阪駅周りも、今度は阪神百貨店が建て替えしてるからまだ安定してないよね。 

渋谷って、チーマーとかギャルが代名詞やった頃は、百貨店とかマルイとかの中層ビル以外は超高層ビルはほぼなくて(渋谷マークシティも2000年開業)、谷底地形もあいまって地面を歩き回る街って感じやったのが、すっかり輪郭線が変わった。新しいビルはだいたい高層部にグローバルなIT企業、低層部はちょっと高級店が入ってて、よそよそしい感じやなあ、とどうしても思ってしまう。東京全体にこんなにようさん店やらビルやら開業して、そないに商品を買う人おるんかなあ、とも思う。建て替えられたパルコは、買い物してるのは日本文化大好きな感じの外国の人(欧米アジアいろんな国)多かったなあ。VRゴーグルのアトラクションがあるのか、つけて歩き回ってる人もいて、漫画の中の近未来ジャパンみたいでした。屋上がすごいらしい渋谷スクランブルスクエアをぐるっと回ってみたら、めちゃめちゃ行列してる店があって、なんやと思ったら[つるとんたん]でした。おいしいけど、つるとんたん。 

1月☆日 

中国で新型肺炎が流行して大変なことになっている、とニュースが急に増え始めた。インターネットで見てる限りの情報では、そこまで致死率や感染力が高くなさそうだから世界的にそんなに広がらないのでは、という感じ(だったのです、このころは)。 

武漢が封鎖になってそこはかなり深刻で、日本にもちらほら入ってきたりはしても、だいじょうぶそうかなあと(思っていたのです、このときは)。 

マスクが足りないということで、東京でも店頭からマスクがなくなり始めてて、近所のドラッグストアでも、マスクの棚はだいたい空になってて、今からシーズンやのに花粉症の人は大変やんな、早く在庫戻ってきたらいいけど、と思った(こんな感じだったのです、このときは) 。

1月☆日 

青森の八戸へ。八戸ブックセンターで、2016年に参加したアイオワ大学の滞在制作プログラムについて、2018年の参加者の滝口悠生さんの日記や資料と合わせて展示を開催してて、そのイベントのため。八戸は1年前にもブックセンターの取材に来た。関西からって東北はすごい遠いイメージで、そのいちばん北の青森ってどれくらいかかるんやろ、と思っていたら、東京駅から新幹線で3時間かからない。新幹線の駅から八戸市の中心部も近いし、こんなにすぐに来れるんや、ってびっくりした(初めて仙台に行ったときも、近っ!ってなりました)。 

まず三菱製紙の八戸工場を見学。八戸ってイカの水揚げ量が全国1位で漁業はもちろん盛んなんやけど、実は工業の町でもある。三菱製紙の工場はとにかく広大! 工場見学も車に乗せてもらって回った。60メートルの高さがある鉄塔状の棟に上らせてもらったり、コストコやIKEAの倉庫部分が何倍にもなったような紙の製品の箱が気が遠くなるほど積まれた倉庫を見せてもらったり(巨大すぎて奥まで見えない!)、たいへん貴重な経験をさせてもらいました。この工場は本に使う紙を主に作っていて、それも「本の町  八戸」の一端なんよね。案内していただいた工場の紙にめちゃくちゃ詳しい方が尼崎のご出身で、北の地で関西な会話できたのも楽しかったです。 

ブックセンターで展示を見学したあと、高校生とのワークショップ。市内いくつかの高校の文芸部とか本好きの生徒さんたちだったので、具体的な質問が多かった。世間で話題になるのは「本離れ」ばっかりやけど、本読んでる子いっぱいいるよなあ、熱心やよなあ、とこういうイベントがある度に思う。そのあと晩ごはんへ。八戸、町の規模に比べて飲み屋が多く、飲み屋密度日本一では? とか思う(実は、アイオワ大学のあるアイオワシティもバー密度高いという共通点も)。横丁がいくつもあり、その中の渋いお店の二階へ。大阪でもちょいちょいあるけど、二階に上がるとめっちゃ人の家っぽいお店。しかし違うのはテーブルに並ぶ山盛りの刺身! こぼれ落ちる白子! 皿一面の馬刺し! もちろん日本酒! いやー、食べました食べました。そして、八戸市長の小林眞さんに初めてお会いしました。市長が選挙の公約に「本の町」を掲げて、それでブックセンターができたり、子供に本を買える券が配布されたり、いろんな読書活動が進められて来たのですが、さすがに市長は本好き。わたしと滝口さんの小説も丁寧に読んでくれてはるし、おうちのお風呂は読書用にカスタマイズされてるそうやし、やっぱりこういう方が首長になるって大事やね。そしてお酒好きの楽しい人なのも素晴らしい。さんざん食べたあと、裏手にある市長行きつけのこれまた渋い[洋酒喫茶 プリンス]でさらに飲み、夜は更けるのでありました。 

1月☆日 

1年前に来たのと同じホテルに泊まったのは、朝ごはんがおいしかったから。ごはんに自分で刺身やらとろろやらめかぶやらを乗せてどんぶりを作れる。楽しみに食堂に下りたら、もう朝ごはんの時間が終わってた! のやけど、片付け始めてはるのに入れてくれて、無事に食べることができました。おいしかった。 

そして、市内の小学校へ。青森は縄文の遺跡がいくつもあるのですが、この小学校も校庭から土器が出たそう。教室に入ると、さすがに北国、ストーブが大きい。特別教室っぽい部屋で広々してて、そこに5年生が30人くらい。わたしは子供いてないから今どきの学校ってどんな感じなのかわからないのやけど、自分が子供のときは人数がやたら多くて教室にぎっちり詰め込まれてる状態やったんで、ゆったり感がいいなあ、と思う。わたしと滝口さんの小説は5年生には読み慣れないやろうからどうするのかなと思っていたら、先生がとても工夫して進めてくださってて、わたし自身もおもしろかったです。5年生のとき、どんなこと考えてたかなあ。 

夜は、前日とはまた別の横町、八戸屋台村 みろく横町の[へちま]で一日店長企画、というか飲みながらしゃべるだけなんやけど。店長企画二軒目のブックバー[AND BOOKS]は最近このお店を始めた店長さんが同世代、しかもスコッチウイスキー大好きとのことで、お店にはほかで見たことないようなウイスキーが揃ってた。全種制覇したいなあ。 

2月☆日 

おなかすいてないのに意地でも朝ごはんを食べる。そしてチェックアウトを延ばして昼まで部屋で転がってた。旅行に行く度に思うのやけど、わたしは活動量が少なくて、なにか一つやるごとに休憩(長め)するし、すぐ眠たなるし、早起きしてどこか行くとかもできへんし、もったいないというか効率悪いというか。滝口さんのアイオワ生活の日記読んでても、飲みに行った後に部屋に戻って仕事とか書いてあって、わたしそんなん全然できへん、と茫然としました。飲まなくても、どこかに出かけたあとに仕事ってできへん。 

午後に再びブックセンターでトークイベント。その前に近くの百貨店でお土産を買う。サバ缶のカレーとかトムヤンクンとか、おいしそう。ここで買った紅玉のジャムがアップルパイの中身みたいでめちゃめちゃおいしかった。 

イベント終え、わたしは一足先に帰る。駅に向かう途中で[八食センター]に連れて行ってもらう。観光客向けの市場やけど、今まで行ったとことはスケールが違う! はしっこが遙か遠くで全然見えへん。魚がでかい! りんごジュースが50種類ぐらいある! 買った魚介をその場でバーベキューできる! と目移りしまくり大興奮、なのに30分しか時間がないこの悲しみ……。車やったら(免許ないです)、大家族やったら、大量に買って帰れるのに、と未練いっぱいで新幹線へ向かいました。そして八戸駅でもまた買うた……。うまい棒ホタテバターと南部せんべいと鯖鮨。鯖鮨は新幹線で食べました。 

2月☆日 

銀座の資生堂の写真スタジオでポートレートを撮ってもらう。フルメイクで自分のマックスはどれくらいやろ、と一回行ってみたかってんなー。ヘアメイク1時間の撮影1時間。こんなイメージでというのを持ってきてください、と書いてあったので、最初は作家の写真を探しててんけど、日本やとどうしても女の人はほんわか笑顔系に撮られてしまう問題があって、検索してるうちに、Instagramでペネロペ・クルスとかモニカ・ベルッチとかシャルロット・ゲンズブールとかに……。こんなんでもいいんかな、とおずおず出すと、はいはい、了解です! って感じでさくさく進めてくれはる。顔は、保湿マスクから始まり、メイク過程めっちゃ勉強になる。ナチュラル系からモードな目の周り黒い系まで、なんでもOK。担当してくれた女子に、小説家で著者近影にしようと思って、と話してると、「わたしも小説家になりたかったんですよー!」と。小学生のときは友達と漫画描いてて、でもなぜか学園ホラーで転校生が来てなにかが起こるみたいなの、その後は小説も書いたんですけど雪山で殺人事件とか。わかるー! めっちゃわかりすぎ! わたしもだいたい同じ感じでした! その後、写真も細かく調整しながら撮ってもらえて、すごいおもしろかったです。就職活動用の写真を撮る人も多いらしい。 

それにしても銀座、春節なのに中国からの観光客が来られなくなったので、百貨店も道路もゴーストタウンのようでした……。 

2月☆日 

三鷹市芸術文化センターで講演。 

去年、講演で息継ぎできなくて倒れそうになったことを書きましたが、やっと慣れてきました。と、言いつつ、この日も90分のうち前半60分は講演、あとの30分は対談形式にしてもらいました。 

講演部分は、子供の頃から出会ってきた詩や小説について、そしてどんな小説を書いてきて、小説は人の人生を想像したり体験したりできるものだと思うという話をしました(ざっくり)。 

後半で、去年刊行した『待ち遠しい』の登場人物に性格がきつい人物がいて、厳しい会話をする場面がけっこうあって、なんでそう書いたのか、と対談の聞き手をつとめてくれはった編集者さんに聞かれてんね。そのときは、かみ合わなさとか、いろんな人間関係を書きたいみたいな話になってんけど、そのあともそのことについて考えてて。 

というのは、この何年か考えてる「共感」てことについて。小説とか映画とか、あるいは現実のできごとにも、「共感しました」というのが褒め言葉というか、万能の価値みたいになってるようなとこがあって、もちろん、共感はだいじな感情なんやけども、それってどういう意味で使ってんやろうとか、共感できないとわからないってことなんかなって考えこんでしまうこともある。自分と同じ、共通点がいくつあるから共感して、自分と違うから共感できないのなら、フィクションとか他人の経験を知る意味ってなんやろうとか。 

評判になってるブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には、「シンパシー」じゃなくて「エンパシー」って言葉が出てくるのやけど、それって日本語やとどういう言葉に置きかえたらいいんやろう、と思ったり。 

『待ち遠しい』では、3人の主要登場人物のうち、いちばん若い子が感じ悪いことばっかり言うのやけど、それに対して、なんでそんなことを言われても交流を続けるのか、と聞かれることもあったりして、それはそうなのかもしれないんやけど、なんで自分は共感されにくい言動をわざわざ書いたのか、自分でももうちょっとクリアにしたいと思ってたのが、それがやっとこの講演の帰り道に言葉になって。 

あー、そうか、「かわいそうだから、助ける」じゃなくて、「困ってるから、助ける」ってことやな、と。 

それはこのところ、生活の援助を受けてる人が友人とランチに行ったからって贅沢してるとバッシング受けたり、電車で子供連れのお母さんは申し訳なさそうにしてろみたいなクレームだったり、楽しそうにしてるのはほんものの被害者じゃないとか言われたりすることに対して感じてた違和感とかも同じで。自分が「かわいそう」と認めたから助けてあげる=自分に基準がある、に対して、誰かを助けるのは、「その人が、困ってるから」やん、ていう気持ちがずっとある。性格悪くても、ダメな人でも、その人が困ってるから助ける、自分も困ることがあったら助けを求めることができる、っていうのが「社会」やん、と思う。それはニューヨークのぼろぼろで全然バリアフリーじゃない地下鉄で、ホームレスの車いすのおっちゃんを、近くにいた人たちが特別に親切とか優しくしてあげるとかいうのでなくて、居合わせたから手伝うのが当たり前という感じで、階段を運び上げてる光景を何回も見たときに思った。手伝った人もどっちかというとめんどくさいなーって感じで、車いすのおっちゃんのほうも恐縮とかしてなくて、ただそこで困ってる状況があるから手伝うのは当たり前という感じで。

日本やとどうしても「思いやり」とかかわいそうな人に親切にしてあげましょう、みたいに教えられるから、手伝いを申し出て断られると傷ついたり、申し訳なそうにしてないからって腹立てたりするんちゃうかな、と思う。 

わたしは、書いた小説の中の人に対して「共感できませんでした」って言われることよくあるんやけど、作者としてもっとうまいこと書いてあげられへんかってごめんなっていうのもあるけど、それでも、人に望まれるような慎ましい人を書きたくないあまのじゃく感というか、そういう望まれる「正しい人」を書くことで、現実のいろんな面を持ち合わせてる人が、もっと慎ましくしろみたいになることに反抗したいのかもしれへん。それは「正しい」「慎ましい」が好きじゃないとかだめとかいうのではなく、そんなに切り分けられるものでもないんちゃうかなって思う。 

『寝ても覚めても』の主人公なんて、ほんま「共感できませんでした」「最低」と言われるの得意やけど、書いといてよかったなと思ったりする。今のほうがもっと、正しくない人を書きづらくなってるから。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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