第126回 ナンバーガールを観るためだけに大阪へ。
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2月☆日
ナンバーガールを観るためにZepp大阪ベイサイドへ。東京公演は追加公演も含めて3公演あってんけど、友達とともにチケットが取れず、第3希望にしてた大阪が1回で当たるという、東京と大阪の都市の規模がこの十年ぐらいでもかなり開いてしまったことを実感しつつ、これだけのために大阪へ。新型コロナの影響か、新幹線はかなり空いてた。そしてわたし、ベイサイドと言えばベイサイド・ジェニーが思い浮かんでしまう旧世代のため、ずっと大阪港に行くと思い込んでて同じく東京から来る友達にもめっちゃそう言うててんけど、前夜になって気づく。最寄り駅の桜島、実はフェス的な催しが1989年にあり、エレカシのために観に来て、すかんちとか出てて、トリはARBやったという、もうなんか完全に歴史上のできごとみたいな感じやけど、そのときは当然ユニバなんて影も形もなく、工業地帯の空き地やったのに、今ではこじゃれたホテルが建ち並んでいて、同じ場所とは思えない。行く途中の電車で、近くにいた20代前半ぐらいの男子たちが、バンドやってるっぽいねんけど地味な淡々とした感じで、あの曲のギターやねんけどな、なんとかさんがめっちゃうまくてな、とかしゃべっている大阪弁が、ああこれやねん、普通の大阪弁、ええ感じの大阪弁、東京やったら何割か増し増しの芸人口調ばっかりでなかなか聞かれへん普通の大阪弁、と涙ぐみそうであった。
入り口では、身分証明書が必要と知って慌てましたが(だって、普段行ってるライブはそういうのいらんとこばっかりやねんもん)、保険証とクレジットカードで事なきを得、端っこやけどいちばん前に陣取ったのでした(周囲の人はわたしも含めてかなりの人がマスクしてたような記憶。電車の大阪弁男子たちもマスクしてたし、入場待ちで並んでたときもマスク率高かったなーと、わたしは記憶が映像タイプなので、数珠つなぎに光景が浮かんでくる。この時期にはもう大部分の人が気をつけてたんやな。そしてマスクはどこも売ってへんかったからみんなどこで買うてはるんやろと思ってた)。いやー、よかったね! また聴けるなんて、長生きするもんやね! 田渕ひさ子さんの猫背がめちゃくちゃかっこよかったね!
自分が最後に行ったナンバーガールは、2002年の心斎橋クラブクアトロで、そのときも最前列で完全に耳がいってもうて耳鼻科通いとなり、解散発表後のライブはチケット取れなくて行けず、そのときに京大の学祭で西部講堂のイベントに出るのがあって、とりあえず前まで行ってTシャツだけ買って、なんかわからんサークルが出してたモンゴルのパオの中でモンゴルのうどん食べたのが想い出でした。
2月☆日
大阪からの帰り、新幹線から富士山見えた地点が、自分史上最遠を記録。めちゃくちゃ晴天やってんけど、豊橋駅を過ぎてちょっとしたあたりから、え、あれ富士山ちゃうん? ていうのが山の向こうにうっすら見え始め、浜名湖越しの富士山もくっきり。そのあとずーっと、東京に着くまで見えてた。角度違う富士山の写真、撮りまくってしまった。先月八戸に行ったときの東北新幹線では、大宮あたりからも富士山見えて、このときはいつも見るのとは形が裏向きなのに感動した。富士山、たしか三重県の山からも見えるとこあるんよね。すごいなあ。しかし、自分の観察では、富士山見て「富士山!富士山!」と大騒ぎになるのはだいたい関西人のような。だって、めずらしいねんもん。
2月☆日
写真の町・東川写真賞の選考で恵比寿の東京都写真美術館へ。人出がちょっと減ってるというか、道行く人もたいていマスクしてたり用心してる感が増えてきた(気をつけてはいたけど、3月以降のすぐ身近に迫ってる感じとはまたちゃう空気やったなと、これを書いてる今(4月半ば)は思う) 。
選考、朝から夕方まで、数百冊の写真集や資料をひたすら見て、5部門の賞を決めるという、けっこうハードな一日。わたしは今年で3回目なのですが、毎回、写真家ってこんなにいるのやなあ、写真集ってこんなにあるのやなあ、写真というてもいろんな題材や撮り方がこんなにあるもんなんやなあ、とまず単純に圧倒されてます。写真は趣味で撮ってたり、好きやから写真集見たり写真展行ったり、それなりに関する本も読んだりするけれど、ほかの専門の審査員の皆さんに混じって、ちゃんと見れてるかな、的確な評がちゃんと言えてるかな、と最初から最後まで緊張する。それでも、だんだん票が絞られてくると、だいたい思ったようなところに落ち着いてくるので、これが今現在の写真の感じ、表現の前線なんやなあ、と、それは小説でも同じなんやけど。発表はもう少し先ですが、いい選考になったと思います。そしてこの場で出会う写真家もたくさんいて、ますます楽しみが増えます。
2月☆日
青山ブックセンターで、書評家の豊崎由美さんと「読んでいいとも!ガイブンの輪」のトークイベント。略して「よんとも!」は、豊崎由美さんがホストで、外国文学が好きな人や翻訳家などを、ゲストが次回のお友達を紹介する方式で呼んで外国文学について語り合うイベント。もう何年も続いてて、わたしの周りの人も何人か出演してるのですが、なかなかわたしの番が来なくてうずうずしておりましたところ、ようやく登壇となり、喜びました。ちなみに、リチャード・パワーズなどを翻訳されている木原善彦さんに呼んでいただきました。
外国文学、好きというか、わたしはどこの国とか今とか昔とかそんなに区別することなく読むのやけど、棚の半分は外国文学というか、影響を受けたのも外国文学のほうが多いかも。まず、今みたいな文学観に至ったきっかけが小学校の教科書に載ってたジャン・コクトーの詩やし、大学生のときに読み始めたポール・オースターやレイモンド・カーヴァーなどの現代アメリカ文学が自分の小説の基礎になってるなあと思う。そんな出会いから、多大な影響を受けた5冊(選ぶのが大変やった!)『ジーザス・サン』デニス・ジョンソン、『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク、『アウステルリッツ』W・G・ゼーバルト、『自転車泥棒』呉明益、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディックを中心にお話ししました。いやー、好きなことやとなんぼでもしゃべれるね。外国文学、名前がなじみにくいとか(わたしも、ロシア文学で、アレクサンドルとサーシャ、ドミトリーとミーチャとか、同じ人やったん!ちゃう人出てきたんやと思てたわ!とわかったん、15年ぐらい前なんで)、知らない場所や習慣が出てくるのがわからなくて苦手というのをよく聞きますが、わたしは逆で、むしろ知らないところのようわからん人やから、小説の中でなにが起きてもめっちゃ変わった人が出てきても、あー、そうなんやー、ここらへんやったらこんなこともあるんやろなー、とすんなり受け取って読めるから楽しい。そしてその知ってる範囲とは全然違うはずの場所や人のなかに、ちゃうけどめっちゃわかる!っていうのを発見したときの、現実の身の回りにはわかってくれる人がいなくても、世界のどこかには自分とめっちゃ仲良くなれる人がいるかもしれへん、ていうことに、すごい助けられてきてんなー。
なので、書いてあることをそのまま読んでいけば世界が開けると思って、ぜひ、読んでみてください。
打ち上げの帰りに、ダイヤモンド・プリンセス号が大変なことになってるね、どうなるんやろね、という話をした記憶が鮮明にあり、そうやってんなあ、そんな時期やってんなあ、とこれを書いている4月半ばには思う。
2月☆日
確定申告の書類をまとめてやっと送る。数字とか計算とかびっくりされるぐらい苦手で、考えようとしただけで脳が拒否して停止するので、自力はあきらめて税理士さんにお願いしている。使える制度とか、この書類足りへんよとか、めっちゃ教えてくれる&やってくれはるうえに、確定申告の作業だけやとそんな料金でもないので、苦手な人は依頼するの推奨です。それでも、領収書やら各種書類をまとめて月々の経費を計算するまでは自分でやるので、毎年この時期になると紙に埋もれて苦手な足し算、引き算……。もうちょっと早くから始めれば、と毎年なぜ同じことを繰り返すのか……。ともかく無事に書類を揃えられてほっとしました。
2月☆日
だんだん、今後のイベントが中止になるかも、という話が出始める。と思っていたら、まだ告知前だった大阪の公共施設でのイベントが延期との連絡。自分が観客として見に行く予定だったイベントもちらほら中止の連絡が。3月は出演予定のイベントが多くて、どうなる、どうする、のやりとりをしていたら、突然、外出自粛と学校の休校が発表された。数日前に観に行った演劇も、日程を残しての即日終了。急な展開に友達からのメッセージが行き交い、SNSでも学校が休みだと仕事に行けないとか学童保育はどうなるのかなど大混乱な文字が並ぶ。わたし自身は、家で仕事をしていて子供もいないのでこれまでの外出をなるべく控えてというような中でもそんなに変わらず過ごしてきたけれど、出勤しないといけないとか子供の面倒を誰かが見ないといけないとか、そして演劇やライブやいろんなイベントを中止しないといけないことは、どれだけ困難な、生活に直結した大変なことなんやろうと愕然としてしまう。SNSには、『AKIRA』の「東京オリンピック開催迄あと147日」の看板のシーンの画像が上がっていて、まさにその日になり、誰もこんな状況になるとは想像してなかった世界になってきたな、と思う。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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