第130回 電気の炊飯器、やっぱり便利やわ!
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4月☆日
3、4月に春休みやからかけっこう多めに入ってたイベントの仕事が全部中止になったんやけど(1つだけ無観客の座談会になった)、書くほうの仕事も、先の見通しがわからなくて企画が難しいせいか依頼がほとんどない。出かける系の特集はできへんし、雑誌が出るときに世の中の状況がどうなってるかわからへんし、そもそも本屋さんが閉まってたり制作の工程でも通常とは全然違う事態になってるから合併号にしたり発売延期になったりも多い。こういう中で雑誌を作っていくのはほんまに難しいやろうなと思う。連載してるエッセイはあるし、大きなスパンでの仕事や、やらなあかんことはあるのやけど、妙にぽかんとした時間になってる。本読んだり、フルーチェ作ったりはしてるけども、なんか時間が停滞してるみたいな妙な感じ。人に会ってなくて世の中の状況わからへんのも大きいんやろうな。
4月☆日
子供がいるおうちは大変という話を友人たちからもよく聞く。保育園とか学校とか早い段階でいきなり休校になってようわからんまま勉強もなんも家族だからなんとかしてください状態のようで、ちっちゃい子がいる家、思春期の子がいる家、それぞれに大変そう。とにかく家にいてということで、家で楽しもうとか、この機会に家族でゆっくりみたいなのもあれこれインターネットに流れてくるけど、みんな事情はいろいろやで、と思う。家族それぞれに部屋があったらええけども、そうじゃないとこも多いし(自分が中学生まで住んでた家で家族全員一日いてたら、と想像するだけでむちゃしんどい)、仕事行かなあかん人もようさんいてはるし。あと、もともとインドア系趣味の人は全然つらくないとか、普段は学校で友達と活動的な人が落ち込んでるとかもよう聞くけど、そういうのも簡単には分けられへんと思う。家族の関係がよくないから学校では友達と賑やかにしてるのかもしれへんし、インドア系趣味の人でも普段とは違って家族や近所に気を遣ったりで自由にできなかったりもするやろうし、仕事の心配が切実な人も多いのやし。散歩してると、広々したおうちの庭にビニールプールが出てて子供が遊んでるのを見かけて、こういうおうちならそら STAY HOME でも楽しいやろうけど、と思い、そしてでも外から見ただけではわからへんしな、とも思う。
4月☆日
用事で久々に電車に乗る。初夏のとてもいいお天気。換気のために電車の窓が開けてあって、あー、昔の電車みたいやなあ、と思う。昔、って、いつごろまで電車の窓って開けてたかなあ。そういや扇風機が回ってたよなあ、と記憶がよみがえってくるけど、わたしは電車の通勤通学の経験がほとんどないので(大学だけ)、いつごろどういうふうに変遷してきたかわからない。
真夏とか真冬とかは難しいかもやけど、開けられる季節は窓開けといてほしいな。ただし、地下の区間は騒音すごくてびっくりする。
4月☆日
連休。連休? あー、そうなんか、連休かー、ぐらいに全然実感がない。生活は何も変わらないし、と思いながら外に出ると、商店街はえらい人出。みんな遠くに遊びにも行かれへんし、近所にいてはるのやな。テイクアウトやってるお店が路上にお弁当やら並べてたりして、ちょっとしたお祭り感があって不思議な雰囲気。ドラッグストアやらスーパーやらに急にマスクや除菌ジェルが復活。こないだまで全然見なくて、ときどき路上に怪しい感じの高額マスク売りがいたりしたのに、戻ってくるときは一気にあっちでもこっちでも店頭に山積みで、これもなんか不思議な感じがする。マスク見なくなってから3か月以上。長かったなー、こんなことはじめてやなあ、と思いながら、人混みを避けてお天気のいい住宅街をちょっと歩く。
5月☆日
コロナがなければ、4月21、22日はROVOのライブで大阪と京都に行ってるはずで、そして5月10日は毎年恒例の日比谷野音でのROVOやった。日比谷野音はオリンピックのもろもろでできないはずが、ちょっと前に急遽開催できることになって狂喜乱舞していたのに、全部なくなってしまいたいへん悲しい。そしたら5月10日のその時間に合わせて去年のライブが配信されることに。準備万端、部屋で楽しむROVOもすごい楽しかった。視聴してる人の様子が見られる機能もあってんけど、部屋でミラーボールつけてはる人とか普通にお茶の間な感じで見てはる人とかいろいろいておもしろかった。毎年野音に来て踊り狂ってはるみなさんが、こういう部屋でこういう格好で生活してはるのやなあ、というのは、この5月のROVOに行き始めて13年目で初めて垣間見られて、妙に連帯感があった。
5月☆日
それで、その最初に行った2008年のROVOの日比谷野音のことを「宇宙の日」という短編にその年に書きまして、これはほんまにライブを観てるその間のことだけをひたすら書いたごく短い話で、エッセイ?って言われたりするのやけど小説でその年のベスト短編にも選ばれたりしたりやっぱり小説なんやけど、単行本には入ってなくて(講談社文芸文庫の『現代小説クロニクル2005~2009』には入ってます)、それを4月の緊急事態宣言始まったころぐらいに、今まで何度か朗読イベント(ROVOの勝井さんのバイオリンとわたしの朗読という超僥倖なイベントも)を企画してくれた熊谷充紘さんが本にしませんかということで話をもらって、5月5日に合わせて発売したのでした。本、といっても、ごく短い短編なので小冊子くらいの感じなのやけど山口洋佑さんの装画に横山雄さんのデザインで実物ができあがると、やっぱり本というか、1冊にすると全然違うもんやなあ、と思う。早速買ってくださった方の感想を読んでると、今ライブに行けないこともあって、ライブでの感覚(ROVOじゃなくても)を共有してくださっててすごいうれしい。実体のある形にして誰かに届けるというのは大事なことなのやなあ。
『宇宙の日』は、独立系の本屋さんとオンラインショップで販売しています。詳しくはこちらへお願いします。
5月☆日
連休の終わりぐらいから、連休明けたら緊急事態宣言解除になるっぽいという見込みによるちょっと開放的な気分が街にあり、初夏のさわやかな気候や青空や連休はやっぱり楽しい感じがあったりして、実際は解除は5月25日やってんけど、連休明けから電車もだいぶ人が多くなり、飲食店も再開してるとこにはまあまあお客さんがいたりして、4月半ばごろまでの抑圧的な雰囲気が急にゆるんだ。だけどこの緩んだ感がこのあとどうなるのか、っていう不安もずっとあり、引き続き人に会ってしゃべるとかもないので、先の見通しが立たないのは変わらない。仕事は、少しずつ動き出したのか、エッセイの依頼が続けて来る。家飲み企画だったり、行ってみたい旅行みたいな仮想的なことだったり、今の状況を反映したお題。出版関係の仕事が動いていることにはほっとして、一方でリモートの人も多いけどこの状況で出社したり慣れないやりとりしたりするのたいへんやろうなと思ったりもする。
5月☆日
元々の予定では5、6月あたりに出す予定だった新刊を7月に刊行することになり、その校正やらもろもろの作業。本をこの時期に出すと最終的に決定するのは遅くても2、3か月前で、でも今はその2、3か月後に世の中がどんな状況であるかわからず、思い切って決断するしかない。こんなに大変なときに、携わってくださるたくさんの仕事の方にほんまにありがたいと感謝しつつ、ひたすら作業。
5月☆日
家にいる期間に料理をするようになったとか思い切って家を片付けたりしたという話をよく聞きますが、わたしは普段と生活がそんなに変わらないこともあり、フルーチェ作るぐらいで(パンは挫折)新しいことはほとんどやってないのやけど、さすがに自炊の頻度が上がって、米がめっちゃ減る。いつも炊飯器でまとめて炊いて冷凍しとくのやけど、あれ、もうないやん、てなる。
ところで炊飯器。2年ぐらい前に、ストウブていう鋳物鍋でごはんを炊いてみたらおいしかって、しばらくそれで炊いててんけど、なんせ鍋がめっちゃ重たいし、鍋にくっついて残るご飯がもったいない気がするし、それで軽くてくっつかないごはん用鍋っていうのを買ってんけど、これが火加減がようわからん。いつも今ひとつの出来。それで1年ぐらい調整しつつやっててんけど、ふと説明書を読み直したら間違えてたやん、火加減……。ていうことでちゃんと書いてあるとおりにやってみたら、なんとさらにだめやった……。間違えた火加減のほうがまだまし、ってどういうことやねん。などの紆余曲折があり、最終的にやっぱり炊飯器買おうということになって、家電量販店に何回も行ったり検索したりしてんけど、炊飯器って安いのは1万円せえへんぐらいやのに、かまど炊きとかなんかごつい名前のついてる高級機種は10万円近くして、なんなん!? その差は! しかも、ほとんどの機種が、ヘルメットみたいなてかてか流線型デザインで、こんなん台所に置いたら悪目立ちの上たぶん邪魔やん……。しゅっとしたやつもあるにはあるけど、全部高いやつで、高いものを買わせるためにお手頃価格のんはわざとダサくしてんのか?? と問い詰めたくなり。あまりの流線型攻撃にうんざりして、うっかり予算オーバーの象印STAN.ていうおしゃれ家電シリーズのを買ってしまいました。ちっちゃく象のマークも入っててかわいい。そして電気の炊飯器、やっぱり便利やわ!
それにしても、10万円ぐらいの炊飯器てそないにごはんの味ちがうのやろか。わたしは味覚が繊細じゃないのでたぶん違いがわからんような気がするなー。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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