よう知らんけど日記

第140回  ほんまやわ! むっちゃて言うてるわ!

2021.4.9 17:52

カテゴリ:未分類

1月☆日 

国際交流基金の企画で、翻訳家座談会の第1回に参加(こちらで視聴できます)。1つの日本語作品を翻訳した各国の翻訳家の人たちが話すというイベントで、わたしの『春の庭』を翻訳した、台湾、フランス、イギリス、オランダの翻訳家の方たちが参加してくれました。トークイベントをオンラインでやるようになり、それでだんだん遠い場所や他の国とを結んだイベントも増えてきて、こんなイベントも可能になったのはコロナがきっかけでもある。 

台湾のエリーさん(黃碧君さん)、イギリスのポリー・バートンさんとは今までにもその国でのイベントなどで何度も会ったことがあるのやけど、フランスのパトリック・オノレさん、オランダのリュック・ヴァンホーテさんとは初対面。時差もあるし離れた5カ所をつないで話すのはなかなか大変なこともあるけど、いろんなお話をうかがえておもしろかった! 翻訳するのが難しかったところとか、発見もあるし、オノレさんが小説に書かれてるアパートや近所を図に描いてたのもおもしろかった(めっちゃ正確でした)。『春の庭』はこれまでに8言語に翻訳されてて、わたしはそのどれも読んで理解することはできないけど(英語はなんとなくわかるがニュアンスまではわからない、中国語は漢字の意味はちょっと把握できる、程度。ハングルやロシア語はどの部分がどの辺かもまったく見当がつかない)、それを現地のイベントで読んでくれた人と話すとものすごく内容を理解してくれてるので、伝わるのってすごいなあといつも感動する。日本語で書いてるから日本語が読める人には全員伝わるわけではないし、文化が違うからこそ興味を持ってもらえること、言葉や習慣をこえて伝わることもたくさんあって、翻訳によって自分が書いた言葉が遠くへ届いていくのは作家としてとてもおもしろい経験です。 

オンラインで4人いるとあっという間に時間が過ぎてしまい、もっと話したかった。旅行できるようになった皆さんで集まれたらいいなあ。 

2月☆日 

NHK FM『夜のプレイリスト』の収録でNHKへ。5夜にわたって自分の好きな、人生の傍らにあった思い出のアルバムを紹介する番組。1か月ぐらい前に話をもらってからめっちゃ悩みました。それで、事前にそのアルバムについてのエピソードとかやりとりして台本も送られてたのやけど、こんなときわたしのぼけぼけ能力が発揮されるものでして、スタジオに入ってから、司会的な人はいなくてわたし一人でしゃべることが発覚。えっ!? 聞いてくれる人がおってもしゃべるん難しいのに、最初から最後まで一人!? 慌てましたがやるしかないので、一人でブースに入りまして、ディレクターの方の指示や助けもあってなんとか5本分しゃべりました。収録で、うまいこと編集してくれるとのことやし。ラジオ、最近よう聴いてるから、自分が出られるのはすごいうれしいし、作家になってから得したことの一つがこの「ラジオに出て自分の好きな曲をかけてもらえる」です。今まではたいてい1曲やったけど、この番組はなんやったらアルバム丸ごとぐらいかけてもらえる、ということで、まず1枚目はThe Velvet Underground 『White Light/White Heat』に。この中の『Sister Ray』が死ぬほど好きなのですが、17分もあるので普通の番組やとまずかけられないんよね(そしてこれ、英語圏ではラジオではかけられない歌詞……)。あと4枚は、人生の転機というか、主に10代20代のころに影響を受けたアルバムということで選びました。エレファントカシマシ『浮世の夢』、中村一義『金字塔』、BECK 『ODELEY』、ROVO 『MON』 。

初回放送は夜12時からやったけど、再放送は夕方6時で、若干その時間にラジオから流れてきてだいじょうぶかな? という曲がちょいちょいありますが、これで出会ってくれた人がいたりしたらええな。 

1年以内に誰かがすでにかけてたらかけられなかったりと条件があったので他にも候補だしてたのやけど、その中の1枚ヴァネッサ・パラディの『Be My Baby』(レニー・クラヴィッツがプロデュースしたやつね)を武田真治さんがかけてはって、へええー、となった。自分が好きなものを好きな人がいるとうれしいよね。サイトでこの数ヶ月に出演した人のリストが見れるのですが、なかなかおもしろいです。 

2月☆日 

岸政彦さんとの共著『大阪』刊行記念のトークイベントを本町の[toi books]さんの主催で。ほんまは大阪で対面でやりたかったのやけど、緊急事態宣言ということで遠隔3元中継(「2元中継 」って昔のテレビではよう言うてたな。『ザ・ベストテン』とかで)。夜9時スタートということもあって、ゆるゆる大阪雑談というか、扇町ミュージアムスクエアとかよう行った映画館の話、大阪で遭遇しがちな有名人話(岸さんが言うてはった、バーとかの壁の絵が「これ、黒田征太郎さんに描いてもろてん」、めっちゃわかる!)、大阪で好きな場所のこととか……。いろいろしゃべってめっちゃ楽しかった! 普段人としゃべらへん生活してるから、トークイベントでもなんでもしゃべれる機会があるとめっちゃしゃべってしまう(そしてオンラインは終わるとぱっと消えてちょっとさびしい)。 

ところで、トークイベントを観覧してくれてはったエルマガジン社の編集者・藤本和剛さんがトーク中にわたしが「むっちゃ」とよう言うてたのをツイートしてはって、自分では全然気づいてなかってんけど、ほんまやわ! むっちゃて言うてるわ、てなった。この日記でも文字で書くときは「めっちゃ」て書いてて、文章中ではたぶん「むっちゃ」て書いたことないと思うねんけど、頭では「めっちゃ」で口から出るのは「むっちゃ」やったてことやな。大阪弁の強調語である「めっちゃ」「めちゃめちゃ」、バリエーションがありまして、「むっちゃ」「むちゃむちゃ」は、「滅茶苦茶」と「無茶苦茶」があるからその変化なんやと思うねんけど、あとは「むっさ」はダウンタウン、「めっさ」はぜんじろうが多用してるイメージです。『テレビのツボ』が人気あるとき「めっさ」も流行ってたなあ、て地域も世代もピンポイントな話やけども。 

2月☆日 

池袋の[ジュンク堂書店]と[旭屋書店]の書店員の方が『大阪』について熱いツイート、というか、東京でこの濃さはだいじょうぶなんやろうかと思うくらい熱烈大阪な感じのツイートをしてくださっていたので、サイン本を作りに訪問しました。お二人とも一見しゅっとしてるけどしゃべった途端にそれはもう大阪ど真ん中な女子で、しゃべってると「ここほんまに池袋?? 難波ちゃうん?」と錯覚しそうに。「東京で擬態してます!」と言うてはりましたが、そういう大阪人もめっちゃいてはるのやろなあ。ほんの短い時間やったけどすごい濃い、楽しすぎる時間でした。ありがとうございます。 

関西発祥の会社は東京でも関西濃度が高いところがたくさんあって(雰囲気だけじゃなくてスーパーの「ライフ」に行くと関西系の食べ物が手に入ったり)、それに触れるとほっとします。

2月☆日 

地震があった。ソファ(ヨギボー)に転がって半分寝てる状態やったけど、ずずんと振動がまずあって、あ、これはなんかいつもと違うやつ、となった。思った通り、揺れがだんだん大きくなってきて、この感じは2011年のあのときを思い出す感覚でたぶんやばい。部屋の壁はほぼ全部本棚で逃げ場がないので、とりあえず携帯だけ持って外へ。全体にがちゃんがちゃんと揺れてる音がする。 

揺れが収まって戻ってみると、ちょっと本が倒れてたぐらいでだいじょうぶやったけど、物は減らさなあかんなあ。 

震源の福島のほうは被害がけっこう出ているようで心配。東京の震度は4になってたけど、体感的には4.5ぐらいの感じやったかも。10年前はこれぐらいの余震がしょっちゅうあったんよな、その感じはもう忘れてしまってるよな、とも思った。地震はほんまに怖い。 

2月☆日 

友達と、近所のおいしいケーキ屋さんでケーキを買ってうちでお茶。ケースに並ぶ美しいケーキを1つには決めきれず、3つ買ってそれを半分ずつ。いやー、おいしかったね!! やっぱりケーキも人と食べるのがおいしいよねっていうか、あれこれ言いながら食べたいし、こうして3種類食べれたりするやん? 部屋の中で離れた場所に座るとかできる限りの対策はして、窓も開けたままなので少々寒かったけど、ものすごく久しぶりのほっとする時間やった。おいしいもの食べてしゃべる、これがわたしの人生で最も楽しいことなのに、それが難しいこの1年はほんまにしんどいね。 

ケーキ3種類ではもちろん終わるわけはなく、チョコレートやらクッキーやらも食べました。そしてこのところのいろんな話をできて、しみじみと楽しい一日でした。 

2月☆日 

髪切りに銀座へ。なんで銀座まで行ってるかというと、わたしは実家が美容院で他の美容院に行った経験がない状態で東京に来て、美容院に行くハードルがめちゃめちゃ高く、実家に帰ったときに切ってもらったりしてたのやけど、銀座を歩いてるときに声をかけられて、怪しいかも……とおそるおそるながら行ってみたら、なんか気の合う美容師さんで、それ以来ずっと行ってる。5年ぐらいかなあ。わたし、髪をすごくきれいな状態にしていることが少ないので、ってごまかす感じで書いたけど、ようするに伸び散らかしてぼさぼさで歩いてることがままあって、ちょいちょい路上で美容師さんに声かけられてたんよね。 

で、去年、そのお店の近くの鴨ラーメンの店がすごいおいしいことに気づき、髪を切ったらラーメン食べて帰るという組み合わせになってます。銀座、ちょっと遠いのやけど、「鴨ラーメン食べれる」と思ったら楽しく電車に乗れるので。 

無事に髪も整い、鴨ラーメンも食べれて満足の一日。 

2月☆日 

2月の初めにやたら早い春一番も吹いたし、あんまり寒くならへんまま冬が終わっていくなあ。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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