第144回 わたしのローソンを返して!!
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5月☆日
アメリカのドラマ『シカゴ・ファイア』を見始めてしまった。1年ぐらい前からはまってる『LAW&ORDER 性犯罪特捜班』『LAW&ORDER』の現在視聴可能な分はほぼ見てしまい(他のシーズンも見られるようにしてください!)、同じプロデューサー、ディック・ウルフが制作、『LAW&ORDER』ともクロスオーバーエピソードがある『シカゴ・ファイア』をうっかり見出したら、毎日何時間も見るはめに。アメリカのドラマ、年々競争が激しくなってるから、視聴者をテレビの前につなぎ止める技術が異常に発達しており、それに消防署の話ってぴったりやな、と。次々起こる事故や火事、その現場でのスリル満点の救出劇は炎の中での連続ファイト一発状態。そこに消防士や救命士たちの人間ドラマが絡んでくるんやけど、その会話が「えっ? それはもしかして……」となった途端に出動命令が出て持ち越し。警察署&犯罪やと、事件の前後にある程度理由やら成り行きやらが必要になるけど、事故はいきなり起こって見せ場のみでOK。うーん、ようできてるわ。さらに、刑事や警察やと間違いがあったり葛藤が多いけど(そこがおもろいんやけど)、消防士や救命士は基本人を助ける正しさがあるもんな。現場での葛藤はもちろんあるけど、根底が揺るぎないし、見てるとアメリカ人にとっては消防士ってヒーローなんやなあとようわかる。なにしろファイヤー・ファイターやもんな。アイオワにいるとき、警報器の誤作動で消防車が来たことが2回あってんけど、アメリカの消防車、とにかくでかい。四角くてごつくて、銀色のとこがぴかぴかしてて、すごい強そうやな、って思ったもんな。救急車も、四角くてでかい。そして、消防署のチームワークでファミリーで、そらアメリカで大人気であろう。
5月☆日
ところで、ローソン。
あれは1年ほど前のことだったでしょうか。ローソンの商品のパッケージが「おしゃれ」とは名ばかりのわかりにくい区別のつかんものに一斉になったのは……。小学校4年の時に初めて近所に出来たコンビニであるローソンで紫色のシャーペンを買って以来、コンビニといえばローソン。今はちゃうけどダイエーが親会社やったし大阪人はやっぱりローソン、ということで、東京に来てからもローソン第一主義で生きてきたわたし。昨年のパッケージ変更の際は、ショックすぎて、そしてローソンを悪く言いたくない気持ちが強すぎて、ツイッターにもこの日記にもなにも書けずにおりました。
のっぺりして区別のつかん食欲の湧かない棚を見るたび、わたしのローソンを返して!! と心の中で叫び続けて約1年。大きな写真が使われたパッケージの総菜を久々に見たときは、この暗黒期にようやく終わりが来たかとほっとしたものでした。まだまだベージュのデザインが目立ちますが、だいぶ売り場の賑やかさも戻って参りました。このままどうか、わかりやすいデザインに戻してください。
いや、まじで。だって、あれ、文字をじっくり見んと区別つかんもんようさんあったやろ。普通の牛乳と低脂肪乳とか、ビールと発泡酒とか。ほぼ同じ大きさと形に控えめの文字で豆腐は「TO-FU」だけ、納豆は「NATTO」だけて、なんで謎のローマ字表記や。わかりにくすぎるやろ。コンビニに来るお客さんには日本語わからなかったり漢字読めなかったりする人もようさん来はるのにパッケージをぱっと見てすぐわからんのって買ってもらいにくくなりそうやし、細かい文字見るんがしんどなったわたしも近寄って確認する気が起こらん。まだ元のままやけど、カフェラテやらエスプレッソやらも、どれがどれかまったくわからんパッケージで、透明で中身が見えるうえにちいちゃく書いてる文字だけで区別て、いちいち手にとって顔近づけないかんやん(コーヒー飲料系は他のコンビニでも似たような事例が。ドラッグストアの化粧品とかシャンプーもそやねんけど、液体の透明パッケージに細かい文字ってものすごい難易度高い)。あと、食品がイラストで描かれてて、イラストのほうが食欲をそそる場合もあるけど、コンビニの総菜のパッケージの場合、絵ではなんか食べ物感がいまいち伝わらんというか。部屋のインテリアになじむようなデザイン、みたいな記事も見たけど、基本コンビニって、限られた時間でさっと買うて(わたしは20分ぐらいいたりするけど、そんな人めったにおらんし)、買うたもんはすぐ食べるし、見えるとこに並べとくこと少ないやん。もの単体でのデザインがいいか悪いかじゃなくて、デザインと用途と目的の不一致みたいなことやん? こういうの、大きい会社でいろんな人の意見やら目を通ってくるはずやのに、ときどき不思議な事態になるのはなんでなんやろうなあ。
ローソン、食べ物は今もいちばん好きなので(冷凍食品の焼きビーフンと鍋焼き麺系おすすめです)、早く全面的に元に戻ってくれることを祈っています。
5月☆日
すれ違った男子大学生が、「オリジナル・ラブの『接吻』ってすごいいい曲なんだけど知ってる?」と言っていて思わず振り返った。なんで聴いたん? ほかにどんなん聴いてんの? と質問したくなった、けどしなかったですよ。昨今は、YouTubeでなんでも見れるし、シティポップ流行ってるし、時代とか関係なく聴いてるのやろうけど、なんか不思議な感じ。自分も学生のころは60年代や70年代の音楽聴いてたから、いつの時代もそんなもんなんかもしれへんね。
5月☆日
『シカゴ・ファイア』、ひたすら見てます。今までいちばんはまったドラマは同じシカゴが舞台の『ER』なんやけど、毎週放送されるのを1話ずつ見てたから、このサブスクで見放題システム、おそろしいね。
消防署ドラマというと火事ばっかりかと思いきや、事故も多い。考えてみれば日本ではそういう時にどこが出動するのかよく知らないのやけど、舞台になってるシカゴ51分署には、はしご車、ポンプ車、レスキュー隊、救急車がいて、交通事故なんかでもはしご車とレスキュー隊が出動してる。この事故の場面がかなりリアルなので、痛そうなやつ苦手な人は見るの注意です。事故った車に鉄骨が刺さって首を貫通してるとか、飛び降りた人が柵に刺さってるとか、機械に腕が巻き込まれてるとか……。刺さった鉄棒を抜くと出血するから鉄のほうを短く切断して搬送するんやけど、鉄を切断する振動がまたものすごい痛そう。ぎゃーと言いながら見てます(『ER』もたいがい痛そう場面多かったけど)。 事故に備えての勉強にはなります。事故で車に閉じ込められるのって多いんやなぁ。
それにしても、ドラマやからしょうがないけど、事故起こりすぎ、殉職しすぎ。列車脱線とか、テロの爆発とか、10年に一回ぐらいの大事件が1年のあいだに次々ある。ギャングの銃撃も多いし、シカゴそんなやばい街なのか? てなる。シカゴはアイオワから2泊3日の旅行に行って、『ブルース・ブラザーズ』でもおなじみの高架電車を見て喜んだなあ。大都会、って感じではあったけど、そないに治安悪かったんかな? と検索してみたら、確かにニューヨークよりも犯罪多いらしい。
ところで、51分署の救急車、救急救命士が2人乗ってるねんけど、2人とも女子。日本では女性の救急救命士あまり見かけないし、救急車ももう少し人数乗ってる気がするので(わたしは救急車に乗った経験が2回あり)、女性2人でこんな大事故の現場に行ってすごいなあ、と(ほかの署の救急車も女性率高いのやけど、実際のアメリカではどのくらいなんやろ)。その救命士の女性が消防士を目指して、消防士のほうはめっちゃマッチョな男社会で苦労するエピソードもある。日本ではどうなんやろ、と思って検索してみたら、女性の救急救命士も消防士も、少ないけどちゃんといてはるのやね。消防士なんて装備だけでも重くて大変そうやし、それでもこうしてちゃんと仕事としてやってはる女性がいるのは、素直に頭が下がるなあ。
5月☆日
散歩に行く。空き地、というか、家を取り壊して次を建てるまでのあいだの期間の土地に、花がいろいろ咲いてる。東京に来て散歩してよく見かけるのは、小さめのオレンジのひなげし。あっちにもこっちにも大量に咲いてる。これ、ナガミヒナゲシていう毒性もある外来種らしくて、最初に世田谷区で発見されて、関東地方の都市部が特に多いらしい。群生してるの、花畑みたいにきれいな見た目なんやけどなー。
空き地に適当に咲いてる花がデレク・ジャーマンの庭みたいな、ちょっと荒廃気味の野性的な庭っぽくなってるの、見つけるとうれしい。
5月☆日
『族長の秋』を語るトークイベントを豊崎由美さんと。『族長の秋』、ガブリエル・ガルシア=マルケスの長編で、わたしは最初に読んだガルシア=マルケスがこれだったので『百年の孤独』より印象が強い。20年ぶりぐらいに読み返してみて、やっぱりめちゃめちゃおもろいし、荒唐無稽に見えてすごい緻密に構成されてるのがようわかった。とある国に長年君臨した独裁者の大統領が死んだところから話が始まるのやけど、改行のない文字びっしりの語りで無茶苦茶なエピソードが複数の視点が入り交じって進み、また大統領の死んだ地点に戻ってきては別のエピソードが語られるのが6章繰り返される。読みにくい、と言われることも多い小説やけど、わたしは逆に読みやすかったというか、大阪市立中央図書館で借りてきて、こんな文字びっしりの長編読めるかな? と読み始めたら一気読みしてしまったんよね。時系列もいったりきたりするし、これ誰?って人が次々出てきて語りがずれていくし、大統領も200年ぐらい生きてる?って感じやねんけど、その語りに素直に身を任せてればいいというか、これが誰でどうしたからこうなって、っていうのを把握しなくても、なんかようわからんけどなんしかそんなことがあってんやな、と思って読んでいったらよくて、わたしはそういう変な語りの小説が好きなんやな。図書館でなんとなく手にとって以来20数年、おもしろささらに倍増、なんぼでも楽しめる小説ってすごいよね。
『よう知らんけど日記』でもカダフィが死んだときに『族長の秋』を思い出したって書いたけど、それから10年、日本や世界の状況が変化してきて、そうすると独裁者ってカリスマ的な人物だけでなく、もっとぬるっとじわじわと日常が崩れていくような感じのことかもしれん、と思ったりする。
5月☆日
渋谷のスクランブル交差点のとこを久々に通った。夜8時ぐらいやのに、前やったら終電後かというほどの人の少なさ。こういう状態になってだいぶ経つけど、人の少ない繁華街はいつまで経っても慣れへんなあ。
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プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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