よう知らんけど日記

第46回 おいおい、おっさん、失礼ですよー。

2013.2.15 17:53

12月☆日
阪神淡路大震災から18年。
テレビのニュースでは追悼行事の様子を少しだけ放送してた(最近テレビ見てる率低いのでもっと扱ってたとこもあったかもしれへんけど)。
東京に引っ越して初めての1月17日、ニュースの扱いがものすごく小さいことに驚いた。そのとき、あー、そうかあ、関西とは違うんやな、と思った。そういう自分も、中越地震の日付もあやふややし、と気づいた。
2011年の震災の後、わたしはてっきり、これからニュース番組の中で情報枠が、いや、こんなにおおごとなんやからニュースとか関係なく、どのチャンネルでも震災関連のレギュラー情報番組ができるんやろうな、と思ったんやけど、当初の大騒ぎがなんやったのかというくらい数ヶ月ですぐ通常になった。そう思ったのは、阪神淡路大震災のとき、毎日ずっとインフラの状況とか伝える時間があったから。だけどそれは、ローカルなことやったんやな、とあらためて思い知った。
こういうことが「温度差」というやつで、難しいけど、そこを越えてなにか伝えないと、受け取らないと、そもそも「温度差」があることを知らないと、と思う。

1月☆日
『阿修羅のごとく』の舞台版を見に行く。キャストが、加賀まりこ、浅野温子、荻野目慶子、高岡早紀、奥菜恵、となにをポイントに選んだのかと聞きたくなる、ある意味超豪華キャスト。加賀まりこがお母さん、荻野目慶子が次女の地味な専業主婦、高岡早紀が堅物の三女となかなか意外な配役やったし、テレビドラマで8回分のストーリーをコンパクトに詰め込んであって、ベタやけど泣けるし笑えるしという感じ。女優さんはさすがにみんな存在感ありで、ドラマ版で次女(八千草薫)の娘(女子高生)やった荻野目慶子が次女をやってたのも感慨深い。荻野目慶子が演じると平凡な主婦がちょっとおかしくなっていく過程がよく出てた。

それにしても東京の演劇の公演に行くと、たいてい、有名人を見かける。有名人遭遇率は 劇場がいちばん高いんちゃうかな。帽子とめがねで隠してる人もいれば、目立ちまくっている人もおり、それは知名度とは関係ない。3年前に革ジャンでばっちり決めた東山紀之が涼しい顔で目の前を歩いていったときがいちばん驚いた。

1月☆日
テレビをかなり見なくなっている中、最近おもしろかった番組は『笑う洋楽展』(BSプレミアム)。みうらじゅんと安齋肇が、昔の洋楽のビデオ見ながら勝手なつっこみをだらだら入れるというだけの番組なんですが、ひたすらくだらないことを言うてておもしろい。うんちくとか全然なく、たぶん間違いだらけのことを推測で言うてるねんけど、それがおもろい。もったいぶらずにくだらないことだけをやってるテレビって、心が穏やかになる。

1月☆日
大阪にちょっとだけ滞在。タクシーに乗ると、おっちゃんがめっちゃ話しかけてきた。「えらいべっぴんさんやな」とか、「おっちゃん見る目は確かや」とか、最初は、まあ、いかにも大阪らしいしゃべり、なんていうか昼間のAMラジオから聞こえてくるようやな、と思ってました。が、「せっかくべっぴんさんやからきれいな服着たらもっとようなる」と言い出したあたりから、ん~? という感じになり、「町内会でもいっつも寝間着みたいなん着て化粧もせんおばちゃんがおって、あんなん浮気されてもしゃあない」「おねえさんももうちょっとスカートはくとかリボンでもつけるとかしたほうがええよ」「土台がええからもったいない」と延々続き、悪気はないのやろうが……おいおい、おっさん、失礼ですよー。か、な、り、失礼ですよー。
わたし今、アイメイクとかしてないしダウンジャケットにごついブーツ履いてますけどけっしてどうでもいい格好とちゃいますよー。リボンとか39歳やからかえって無理やし。
良くも悪くも、大阪によくおるおっさん、でした。
大阪でタクシーに乗ると、精算するときに東京に比べて金額が少なくて、街の規模がコンパクトなんやな、と思う。

1月☆日
そして念願の阪急百貨店へ。1時間で下から上まで見ただけやけど、めっちゃ楽しそう。噂の吹き抜け階も祭り感あってええね。と思いながら案内図見たら、若い女子向けの売り場の名前が「うめはんシスターズ」&「うめはんジェンヌ」!!高級感、ハイセンスを売りにしつつも「うめはん」(梅田阪急)。そこはやはり大阪! 阪急! 押さえるとこは押さえてますね。ジェンヌはもちろん宝塚。こういうところが阪急ブランドの求心力かも。
地下で人気の[ル・ブーランジェ・ドゥ・モンジュ]に行ったらほんまに1時間待ち、しかも閉店間際で並ぶのも打ち切られてたので、その向かいのうどん屋さん[冨美家]で持って帰って作る用のうどんセットと焼きそばセット買うて帰ったらえらいおいしかったです。

1月☆日
最近、よく本を読んでる。小説家やのになに言うてんねん、とお思いでしょうが、前は「それなりに本読む人」くらいしか読んでなくて「読書が趣味」「読書家」な人に比べたら全然少なかった。好きなのを繰り返して読むタイプやったし。

たぶん、小説家になってからのほうが小説のおもしろさがわかるようになって、というか、まわりにおもしろい小説をすすめてくれる人が増えたので、どれを読んだらいいかわかるようになってきた、という感じ。わたしは近い人がすすめてくれるもので基本成り立っていて、映画も音楽も妙にピンポイントで詳しかったり、一方では超メジャーどころを聴いたことがなかったりするのも、「友達が貸してくれたから」または「貸してくれる友達がいてへんかったから」という理由。それでこの何年かでやっとどれがおもしろいか、嗅覚が働くようになってきた。1月に読んでおもしろかった本を書いとくと、ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』、角田光代『くまちゃん』、ゼーバルト『空襲と文学』『移民たち』、ハーマン・メルヴィル『ビリー・バッド』、アーネスト・ヘミングウェイ『こころ朗らなれ、誰もみな』、若田部昌澄・栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』、恩田陸編『新耳袋コレクション』。自分がおもしろいと思う人のオススメ本、書評本が大変参考になりますよ。

2月☆日
やってきました恵方巻き。午後3時ぐらいに近所のスーパーに買いに行くと、狙ってた「特選和牛巻き」は売り切れ…。海鮮巻きと特大エビ天巻きを買ってると、近くにいた子供がお母さんに「アホ巻きってなに? ねえ、アホ巻きって?」と言ってて、去年書いたことを思い出してウケました。
ツイッター見てると、伝統じゃないとか由来が下品やとか関西でも一部だけやとかいろいろ言われていましたが、恵方巻きが流行った理由の一つは「ごはんの支度せんでもええから」なんやな、とも実感。会社辞めた後、3年ほど家事全般引き受けてたのですが、ごはん作るよりなににするか考えるのが大変やった。最初は自分の好きなもん食べれると思ったけど、3カ月ぐらいで飽きた。そのとき、会社いっしょやった人が言うてた言葉を思い出した。「お母さんが、今晩なに食べたい? って聞くやろ。あれ、相手の望みをかなえたいのとちゃうねん、考えるのがめんどくさいねん」。
恵方巻き(というか、昔は節分に恵方を向いて巻きずし食べる、ということで、恵方巻きという名前じゃなかったと思う)の記憶をたぐると、わたしは食事担当やった父と食べてたのですが、父は一人暮らしの男子みたいな料理しか作れなかったので、恵方巻きはもってこいやったんやろなあ、と今更ながら気づきました。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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