第59回 無造作ポニーの作り方。
10月☆日
大阪&京都で連続イベント。来ていただいたみなさま、ほんとうにありがとうございました。作家って、直接読者の声を聞ける機会ってものすごく少なくて(ライブとか展覧会できる人はいいなーと思ったりする)、今回の4日間は、自分の小説がこんなに読まれてるんやっていうのを心から実感できて、号泣しようかと思うほど感激しておりました。サインするのに、新刊持ってきていただけるのはもちろんうれしいですが、何年も経ったちょっと日焼けした本を「これがいちばん好きなんです」と差し出されるのは何とも言えない幸せです。おみやげにお菓子やオリジナルフィギュアや「旅の宿」もいただいて、ほんまにありがとうございます。
東京のイベントから、サインの横にハンコを押してて、「猫」「ベトナム」(友達におみやげでもらった天秤柄)「ルドン」(ルドン展で買ったルドンの絵に出てくるまっくろくろすけに足生えたみたいな生き物)「モンゴルずもう」(みんぱくで売ってる)の4種あって、東京では不人気だった「ルドン」が関西ではけっこう人気者だったのが妙に「関西人気質」を感じました。
10月☆日
『きょうのできごと、十年後』を、『文藝』冬号に書きました。これはデビュー作『きょうのできごと』の文字通り十年後の一日バージョンなのですが、今回のイベントでも『きょうのできごと』を読んで京都に引っ越した、進学したという人がちょいちょいいらっしゃり、驚きつつも作家冥利に尽きるなあと。 『きょうのできごと』、京都での飲み会の話やけど、京都出身者は誰もおらんのよね、実は。みんな大阪から来てる。そのへんの、外から見て楽しげな京都の街と学生たちとの感じが伝わってたんやったらうれしいな。
『十年後』、感想聞かせてください!
10月☆日
……それでですね、前回もちょっと書きましたが、いろいろもろもろ差し迫ってるうちに10月が終わってしまいまして、これ、夏休みのさぼってた絵日記方式で11月入ってから書いてるわけですが、イベント以外の10月の記憶があんまりない。やたら台風来た、天気悪かった、ぐらいか。
そして、10月にちょっと書きかけてたこの原稿開いたら、「10月☆日 おいしない……。」と一言だけ書いてあった。なにがおいしなかったんや? 全然思い出されへん……。新幹線で食べたお弁当(品川で買うた)はおいしなかったけど、書いとこうと思うくらいやからなんかもっとインパクトあるもんのはず。でもわからない……。
11月☆日
女性誌のヘアスタイルのページを見ていると「無造作ポニーの作り方」というのが写真入りで解説されている。
逆毛を立て(男子に説明しますと、髪の毛の根元のほうに櫛を逆向きにしゃっしゃっと入れてわざともしゃもしゃにすること。これでふんわりボリュームが出るのです。アップスタイルのまとめ髪でほどよくふんわりしてるのはこの逆毛のおかげ。普通にまとめるとぴっちりした貧相な感じになってしまう)、アイロンでカールし、毛先またばらして散らし、スプレーでキープ……。いっこも無造作ちゃうやん! めちゃめちゃ作り込んでるやん! きれいにしてはる女の人はえらいなあ。
ま、昨今は男子も「無造作ヘア」がんばってるか。
11月☆日
11月て……。もう年末やなあ。新宿とか早速イルミネーションやってるし。手帳とかカレンダーなんか9月から売ってて、えー、今年まだまだあるやんって思ってたけど、まだまだとちゃうかったんやなと。
年取るとほんま1年が速い。ただでさえ速いのに、季節行事やら来年のことやら先取りしてばっかりで追い立てるのはやめてほしい。
11月☆日
ところで、ひたすら家にいるので、合間合間にテレビは見ています。最近はほとんどCSで昔のドラマか映画。「あまちゃん」ブームにあやかってか、薬師丸ひろ子特集なんてやっていまして、ついつい見てしまいましたよ、『Wの悲劇』。公開時(わたしは小学3年)、「顔ぶたないで、わたし、女優なんだから!」という台詞が大流行しまして、コントなんかこればっかりだったわけですが、今回25年ぶりぐらいで見て、大ウケしたのはそれよりも、世良公則が薬師丸ひろ子との別れ際に言う「今日が俺たちの千秋楽なのか!?」でした。そんな場面でうまいこと言うてどうする。大きなスタジオでフラッシュダンスなレオタードで稽古する劇団員たち。パステルカラーのボタンみたいなプラッチック(大阪のおっちゃんおばちゃんがよく言う語)のイヤリング。いやというほどの80年代テイストの中、薬師丸ひろ子が三田佳子の身代わりになってフロントに電話するときに「1ベル、2ベル……」と舞台のようにつぶやくところ、三田佳子が高木美保をいびり出すときの「あなた、舞台で泣くときなに考えてるの」「昔飼ってた犬が死んだこと思い出すと涙が出るんです」というやりとりが、往年の少女まんがっぽくて、当時も好きだったし今見てもよかった。
ところで、「顔ぶたないで」、ガンダムの「おやじにもぶたれたことないのに!」と年代が近いわけですが、「ぶつ」ってもう言わへんよなあ。元々、大阪弁では使わんけど、全国的にあんまり使用されてないよね。「ぶたれる」こと自体、少なくなってるからかな。
11月☆日
うっかり『ぼくらの七日間戦争』もちら見。台詞も中学生たちのストーンウォッシュデニムも先生が内申書どうこう叫ぶのもTMネットワークが歌う主題歌も、すべてが気恥ずかしくて窒息しそうになる中、宮沢りえだけがまったく古さや時代を感じない。超絶かわいい。前に『いつか誰かと朝帰りッ!』を見たときも、そうやった。一人だけ、あまりにも輝いてる。
実はわたくし、宮沢りえさんと同い年なのですが、当時の宮沢りえの人気ってすさまじいものがあり、そのときはそんなに思い入れてるつもりなかったのに、その後の婚約破棄騒動あたりから妙に感情移入してしまうところがある。宮沢りえのことだけは、単なる芸能人として見られない。元気で美しくいてほしいなあ、と心底思う。同じ美少女枠、同じ学年の後藤久美子がまったく別世界でなんのとっかかりも感じないのと対照的。数年前、雑誌のインタビューで「二十歳の時、自分でお祝いにフェラーリを買ったの」て言うてるのを読んだときは意味がわからなすぎて、そのページに説明的に載ってた写真のミニカーのフェラーリかと思った。
11月☆日
それにしても、80年代はドラマも映画もひたすら軽い。殺人も深刻そうな場面も、やっぱり軽さに支えられてる(変な言い方やけど)。それに引きかえ、60、70年代の映画は暗い。話も陰惨やし、画面も重苦しい。歌も、演歌とか藤圭子的暗さがウケてたわけで、その転換、落差ってどういう理由なんやろ、と気になってる。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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