よう知らんけど日記

第68回 ドアの前に固まるのやめてください!

2014.5.19 18:15

4月☆日
テレビ・雑誌やインターネットとかの活字上ではよく目にして、実際話すときに使ってるのもちょいちょい聞くけど自分では使わへん言葉というのがある。「レシピ」と「スイーツ」がその代表かな。なんか気恥ずかしいというか、自分の口から出すには「れ、れし……」みたいな感じになってしまう。作り方とか甘いもんとかおやつとかでええやんとも思うし。「レシピ教えて」「スイーツ食べにいこう」、うーん、やっぱりちょっともぞもぞしますね。実は「パスタ」もいまだにもぞ感が。そういや前に書いた「コーデ」、こないだほんまに人が言うてるのを聞いた。ファッション誌の中だけやと思ってたのに。

4月☆日
テレビの経済ニュース見てたら、イースターをイベントとして根付かせようとお菓子メーカーがキャンペーンやってるそうな。クリスマス、バレンタイン、ハロウィンに続き、本来の意味置き去りの日本で独自進化したお菓子を売るためのイベントづくりですな。ニュースの中で市場規模の金額が出てたけど、いまやバレンタインよりハロウィンのほうが規模が大きいらしい。バレンタインはチョコだけやけど、ハロウィンは昨今なんでもオレンジ色パッケージでかぼちゃ味みたいなん出てるもんな。しかしイースターって、かなりキリスト教色強いし、確かその前2週間ぐらい肉断ちせなあかんのちゃうかったっけ? お菓子言うてもイースターエッグやし、そんなに売れへんと思うけどなあ。

4月☆日
『日曜美術館』(Eテレ)、去年から書こう書こうと思いつつ機を逸してましたが、4月からも引き続き司会が井浦新なので記念に。数年前からNHKのドラマによく出ていた井浦新、特に日本美術に興味を持ってはるのは他の雑誌なんかでも見て知ってたのですが、去年4月からめでたく『日曜美術館』の司会になりまして、絶妙にいいのです。最初はもう緊張しまくって咬み咬みで、それでもなんとか自分の言葉で作品の感想を言おうとしててそのたどたどしさにもなんだか感動。最近やっとこなれてきたんやけど、自分の好きな作品を前にしての舞い上がり方とか非常にほほえましい。それに、毎週毎週おもしろい格好してるんですねえ。自分がデザインしてる洋服なのかなあ、あれ。髪型もオールバックにしたり前髪おろしたり、毎回違うイメージで出てくる。女性タレントはいろんなタイプの格好して出る人も多いけど、男性であんなに全然ちゃう髪型にするってめずらしいのでは。これからも楽しみ。

4月☆日
年明けからひたすら原稿書く毎日、さらに取材やらトークイベントやらも続いてて、季節にまったくついていけてない状態なのですが、やっぱり日記に仕事のこと書くの苦手やなあ。小説を作ってる途中って、「鶴の恩返し」で「決して戸を開けて中を見ないでください」みたいな感じなんですよね(これはもともと、佐内正史さんの『俺の車』っていうめっちゃ好きな写真集のまえがきに「オレのベタ撮りは誰にも見せられない秘密があるんだ。身を削った姿は鶴の恩返しだ。」って書いてあったのに大変共感して使わせてもらってる。佐内さんは文章もすばらしい)。淡々と、原稿書いたみたいな書き方したらええのかなあ。でも、この日記はあくまで「日記ふうエッセイ」なんで、ネタにならへんと書かれへんしなー。

仕事に集中してると、わたしは気持ちの切り替えが難しいタイプなので、とにかく日常生活が滞る。元々苦手な書類関係とか掃除とか、さらにはごはん食べるとかも。毎日規則正しく仕事と家事と楽しみとバランスよくできたらいちばんいいのやけど、たとえば午前中~夕方仕事して夜は出かけるとか人に会うみたいな時間割だと気持ちが途切れてしまって難しいことが多い。仕事やってるときと休み期を分けるほうが向いてる気がする。

4月☆日
この『よう知らんけど日記』の原稿は、ポメラを使って書いてます。ミニワープロみたいな機械ですね。連載始めた2011年からずっとポメラなんですが、今年から新しい機種に変えました。前は折りたたみキーボードやったけど、今はストレートの薄型。入力したのをQRコードに変換してiPhoneのアプリで取り込んで送信してます。短い原稿やと、大変便利。インターネットにつながれへんから脱線しにくいし、持ち歩くのも軽いし。新しい機種にしたら、辞書内蔵やし、Bluetoothも使えるしで、いい感じ。電化製品、パソコン関係は、このところは進化が速くて、たいてい「うわー、最近はこんなことできるんや」「もっと早く買い換えれば良かった」と思うことがほとんどやねんけど、「Windows Vista」だけは失敗したな……。

4月☆日
ファッション誌見てると、女子の前髪に変化の兆しが。この数年、前髪を多めにおろしてぱっつりそろえた「重めバングス」が席巻しておったのですが、この春の誌面を見ているとロングでもショートでも横分けにして流しているモデルさんが多数見受けられました。女優さん、タレントさんなんかはまだまだ「重めバングス」全盛ですが、そろそろ流行の変わり目かな。洋服のほうも、丈長めトップス+スキニーみたいなスタイルが長く続いたのが、短めトップスとかスカートとかが復活してますね。ブラウスをスカートにちゃんとインする感じ(これ、丈長トップスで体型を隠していた人にはたいへん困るスタイルです……)。1年ごとの流行もあるけど、こういう大きな流れの変わり目も見てておもしろい。

4月☆日
そういう流行の変わり目って、雑誌とかで「これからは○○!」みたいのを見てわかるときも多いけど、街なか、特に電車の中なんかで「あれ?」と思う瞬間っておもしろい。この10~15年ぐらいやと、「女子の髪が黒い」って思ったのと「ルーズソックス誰もはいてない」がはっきり覚えてる瞬間かなー。ルーズソックスについては、最初に見たときのことも明確に覚えてて『ねるとん紅鯨団』なんですよ。ていうか「ねるとん」て何歳まで通じるねん! て話ですが。高校生大会の回で、女子の1人がルーズソックスはいてて、木梨憲武に「なんだそれ!?」ってつっこまれてた。かなりインパクトのある見た目だったので、早稲田大学に行ってた友達に「東京にはああいう子がほんとうにいるのか?」って聞いた覚えがあるから、93年かなあ。ところで、大阪、たぶん神戸とか京都もやけど、超ミニ+ルーズソックスな女子高生スタイルはあんまり流行らんかったよね。スカート膝丈にだぼっとしたカーディガンで古着っぽく着てた。会社員時代、心斎橋あたりをうろうろしてる全国津々浦々の修学旅行生や遠足の子を見たけど、スカートがいちばん短かったのは新潟と滋賀。ロン毛の男子がいるのが東京でした。高校生ぐらいのその地域だけでの流行っておもしろいなあ、と観察していたものです。今はどういうのが流行ってるんかなあ。

4月☆日
ひたすら仕事の毎日でも、打ち合わせとかで電車に乗ることはあるわけで、ここ数年大変に気にかかっていることがドアの前に固まるのやめてください!! です。はい、これ、久々に「いらち」ネタですよ。今日も夜けっこう遅くなって電車に乗ろうとしたら、うわっ、満員やなあ、乗る隙間あるかなーってくらいにドアから人がはみ出してまして、周りの人に嫌な顔されつつもなんとか入って、そしたら後ろから走ってきた太めのおっちゃんがどーんと飛び込んできてさらに身動き取れず、ドアもなかなか閉まらんし、やっと出発した、と思って車両の中見たら、真ん中はがらがらやん!! なんでー!? なんで中に詰めへんのー!? なんでー!? ほんで、わたしは降りる駅だいぶん先やし次の駅でもまだ乗ってきそうやったから、人の隙間から中に移動したんですよ。ちゃんと「すいません」って言うてるのに、ドア横ででかい荷物背負って頑として動かん若者は睨んでくるし、どういうことですか!? このドアのとこから意地でも動かん乗客のことを「衛兵」「門番」とかTwitterで言うてるのを見ましたが、なにを守ってるんですかね、あの人たちは。しかもすぐ降りるのでもなし、駅に着く度、降りる人にも乗る人にも邪魔。あれは詰めるとか一旦のくとかしたほうが自分も楽ということを知らないのでしょうか。もちろん関西でもようあるけど、東京でのほうがよく遭遇する気がするのは、関西やとおばちゃんが「ちょっとにいちゃん詰めてんか~」て大声で言うからかも。あの現象、ほんまどうにかなりませんかね。

  • LINE

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本