第69回 地上300メートルから眺めた大阪。
4月☆日
ようやく仕事が一段落。年明け以来、連載やら短編やらが次々重なって、時間感覚が狂うくらいやったのですが、これでやっと普通の生活に戻れるはず。こたつもとうとう片づけました! 急に寒い日があったりするから、こたつなおす(関西弁で片づける)の毎年結局この時期になってしまうなあ。
4月☆日
大阪。まえにもちょっと書いた大阪の建築の取材で心斎橋~難波周辺を歩く。難波の南にいつの間にかZeppが移動してきてるのですが、その前を通ったら、おっちゃんたちが並び始めてる。もしや、と正面に回ったらボブ・ディランの公演。実は4月のはじめに、東京の公演に行っておりました。仕事に追われつつもせっかく友達がチケット取ってくれたしなんとか出かけて、でもほんま、行ってよかった。ボブさん、ええ歌やったわあ。びっくりしたのは、お客さんの9割が男性やったこと。さすがに10代の若者みたいな人はおらんかったけど、年齢層は割に幅広かったのに、とにかく男、男、男。そうなのかー。ボブ・ディラン、普通に好きで聴いてたから、意識したことなかったな。今まで、これくらいの年代の大御所は、ローリング・ストーンズとルー・リードを観に行ったことあるけど、ここまで男女差なかった。どの辺が男子心のツボ(であり女子心のツボでない)のやろ。そしてアメリカやともっと女の人も来る気がする。
ボブさん、カバーしてる他人のほうがオリジナルに近くて、自分で歌う自分の歌がほとんど原形をとどめていないのがおもしろいのやけど、この日もアンコールで歌った「風に吹かれて」はなんとかわかったけど(同行の友人はまったく気づいてなかった)、他にも知ってる曲あったんやろな。一言の挨拶もなく、歌ってハーモニカ吹いて帰るボブさん、かっこよかった。東京から3週間経って大阪。日本にゆっくりいてはったんやね。
4月☆日
建築の取材で、天王寺周辺。とりあえず、オープンしたあべのハルカス登っとこか、と並ぶ。今更日本一高いビルの展望台っていわれてもなあ、とまったく期待せず、正直言うと取材で入場券買ってもらえるから(1,500円)行ってみた。16階から展望台直通のエレベーターに乗り込むと、天井がガラス張りでシャフト内には電飾が。これがビューンと上るスピードを体感させてくれて一気にテンションがあがる。60階で扉が開いた途端、わー!! すごいやん!! なにこれ!! 言葉で説明するのが難しいので、サイトか画像を検索してみてほしいのですが、3階分が吹き抜けになった大空間で、上階部分はロの字にぐるっと渡り廊下みたいな展望フロアになってる。壁は全面ガラスで、余計な説明も双眼鏡もない。周りに高い建物がないから、大阪平野が一望。しかも、下の階の反対側が見通せるようになってて、ガラスと2階分の高さを隔てて見える景色に、今までになかったすごい浮遊感が! 下の階は、庭園ぽくなってて直接空やし、階段に座ってゆっくり街を眺められる。展望台って、高いところから外を見るってことしか考えられてなかったけど(せいぜい床がガラスになってるくらい)、こんな新しい体験をすることが可能なんや!! 考えた人めっちゃ賢い!! とあまりの感動に興奮しっぱなし。そして、ハルカスは上町台地の付け根にあるから、真下に天王寺公園、四天王寺、寺町、遠くに大阪城と、まさに大阪の歴史が一望。行ったのは朝やったけど、夕日が沈むときとかすごいやろな。まさに四天王寺西門の西方浄土信仰を体現してるし、この場所になぜこんなにも豊かな街が形作られて、歴史がはぐくまれてきたかということがまさに「一目瞭然」のすばらしい場所でした。夜景も見たいなあ。
地上300メートルから大阪を眺めていると、この地で千年以上の長い年月、気の遠くなるほど大勢の人たちが生活して、都や寺院やお店を作ってきたのやなあとしみじみ実感し、大阪はええとこやなあと泣きそうになりました。
でも、大阪以外の人がイメージする大阪ってやっぱり、お笑いにたこ焼きに通天閣なんよね。しかも、他の街で大阪の人(特に男子)に会うと「いかに自分の地元がデンジャラスか」自慢合戦が始まったりね。あれはなんでやろ。大阪の人って、実は情報発信があんまりうまくないのかもなー。自虐というか、照れ屋やから自分を良く見せるということができへん。飲み会・合コンなんかで一生懸命場を盛り上げてるあいだに、しれっと隅に座ってたやつにええとこ持って行かれる、みたいな感じ。
自分の街のいいところ、好きなところは、素直に自慢してもええねんで。
5月☆日
やっと落ち着きを取り戻した生活。連休で世間もゆっくりやし、まず食生活をまともに戻したい。ということで、つくりおき総菜系の料理本を何冊か買って、茸マリネとか作ってみる。いいね、この健康感、ちゃんとやってる感。作り置き系、似たような本がようさん出てて、今は世帯の人数少ないし、忙しいし、確かにこういうおかずって便利やな。
5月☆日
ようやく普段の生活が送れるようになったので、ケーブルテレビに接続してるHDDレコーダーの修理を依頼。去年の末ぐらいからダビングができへんようになってたんやけど、修理に来てもらうとなると時間決めて家片づけて、その前に問い合わせの電話がなかなかつながらんかったりするんよねー、と延ばし延ばしになってた。案の定、電話かけて15分は待ち、あれもこれも試したけどだめでしたってことで、修理の人が翌日来てくれた。なんとか部屋は片づけてたんやけど、修理の人(30歳前後の男性)があれこれ操作しながら、レコーダーの下の棚にずらっと並んでるDVDホルダー(無印のファイルに入れてる)を見て「これ、全部……?」と。わたしとしてはそんな大した量じゃないと思うねんけど(だって都築響一さんとかの足元にも及ばんやん)、やっぱり多いのか。「はい、あのー、録画するのが好きなので」とつい正直に答えてしまってから、あっそうか、仕事ですって言えばよかった、映画評とかテレビ評とか書いてるんです、って。嘘ちゃうし。と、動揺しながら、試しになにかダビングしてみましょうってことになって、録画リストを表示したら、「カラーで見る朝鮮戦争」「プーチンの野望」「世界最悪の地球の歩き方・コロンビアで拉致」……。フランス映画とかもようさん録画してるのによりによってなぜそこが。せめて「ねこ歩き」か「こころ旅」やろ。ああ、さっきやっぱり「仕事です」って言うとけばよかったー。しかも結局、故障の原因は内部にホコリがたまってたという……。反省してます。
5月☆日
そんなこんなで、録画も順調にできるようになり、やっと平常運転の生活に戻りかけたお天気のいい午後。遅くなった衣替えを、と洋服を片づけてたら、突然、左脇腹に激痛が。さっきまでなんもなかったのに、いきなり動けないほどのものすごい痛み。今まで経験したことないし、絶対やばい。病院に行こうにも立ち上がれない。でも救急車みだりに呼んだらあかんていうし、ととりあえずiPhoneで症状を検索してから、東京都の救急ダイヤルというところに電話をしてみる。看護師さんと話して症状を伝えると「救急車呼んでください。このまま電話つなぎます」と言われる。いざ救急車となるとちょっと躊躇してしまい、もう少し様子見ますと一旦切るも、10分待っても痛みは強くなるばかり。冷や汗がだらだら出てくるし吐き気もしてくる。勇気を出して119。5分ぐらいで到着した救急車に乗るも、揺れが体に響いてさらに痛い。こんなに痛いことはないと思うのに、まだその上に痛くなる。病院に着く頃には痛すぎて吐き、意識がもうろう。レントゲン撮ってもすぐに原因が分からず、わからないので薬も使えない。CTも撮ってやっと「小腸の腫れ」もあるけど主に「尿管結石」らしいと判明。人生初の入院となりました。やっと点滴された痛み止めが効いたのはさらにその1時間後。
しかし、今回の「日記」読んだら、どんだけ不摂生なんやっちゅう話やね。
そして、結石話は次回に続く……。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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