第74回 芥川賞騒動、後篇。
(引き続き思い出しよう知らんけど日記でお送りします。今回は芥川賞その後篇)
7月☆日
と、その前に、積み残しネタを一つ。
7月のはじめに大阪に帰ったとき、百貨店で靴見てて、ちょうどほしかった感じのがあったんで店員のおねえさんにサイズありますか、と聞いてみた。そしたら店員さん「ありますけど……」とじっとわたしを見るので、なんやろか、と思ったら、「あのー、知ってはるかと思うんですけど、明日からセールなんです」。あ、なるほど! そやけど、これ、言うのがいかにも大阪やなあ、と感心した。しかも、試着だけ今しといて明日また買いに来てもらえたらたぶん3割オフにはなってるので、とご提案。いやー、すごいね、このサービス精神。それでほんまに試着だけしてまた明日、となってんけど、翌日の仕事の算段をした結果、来れるかどうか微妙やなーと思って引き返し、「すいません、やっぱり明日来れないかもしれないんで買って帰ります」て言うたら「ほんまにいいんですか? すいません」と、これまたこっちが恐縮する回答。でもめっちゃ気に入ったし、ネタも提供してもらったし、ということで購入して大満足で帰りました。
7月☆日
ほんで、芥川賞。
受賞当日は2次会3次会と続き、帰宅は朝5時。しかし翌日は文藝春秋社にお昼過ぎに行って写真撮影やらいろいろ段取りが。ここまでは歴代受賞者の方から噂に聞いておりました、取材がめっちゃあってたいへんなんやろな、と予想もしてました。が、各新聞から受賞記念エッセイの依頼が。しかも締め切りのいちばん早いのは2日後。えーっ。2週間でエッセイ5本なんか書いたことないし、しかも同じお題で微妙に話題とか表現変えつつ、って「大変ですよ」って言われてたのはこれやったのか。その間にも家にはお花やらお祝いやら次々届く。花瓶足りへんから折りたたみ式のバケツにとりあえず入れてたら倒れて床水浸しになってるし、と慣れないことに大わらわな日々が始まったのでした。
7月☆日
メールもたくさんいただきました。小学校、中学校、つとめてた会社の人、10年以上会ってなかった人もたくさんいて、消息がわかってうれしかったり(公式サイト宛にメールをもらいました)。
地元の同級生や近所の人から「直木賞の人はおじさんの同級生」「直木賞の人は知り合い」という情報がちょいちょい入り始める。そして市岡高校の同窓会関係の人から「黒川博行さんは大正東中学」と確定情報が。まじっすか。えー、まさか同じ回に直木賞を受賞した方が同じ中学とは!! すごい確率。こないだ会見で握手してたときはまさかそんなこととは夢にも思わず。直木賞受賞作『破門』を読んでみたら確かに近所の地名が出まくり。このあと、黒川さんご本人からもご連絡をいただき、テレビ番組もご一緒しました。京都市立芸大で彫刻をやってはって高校の美術の先生もしてはったそうなので、話がめっちゃおもしろい、すてきな先輩でした。
8月☆日
大阪でサイン会。たくさんの方に来ていただいて、しかも早くから並んでいただいたり、そして拍手で迎えられ、うれしい限りでした。大阪ということで、お客さんの距離感が近い。面識ないおっちゃんから続々「なんで東京行ったんや」「いつ大阪に帰ってくるんや」と親戚のようなお声をかけていただき、さらには「次は直木賞で!」。前回ちょっと書きましたが、ジャンルや対象が違うんで無理なんです。文藝春秋の担当さんが「ほしい方たくさんいらっしゃいますし、前例がないので……」と助け船を出してくれたけど、「じゃあ、史上初で!」。そうかー、芥川賞を取ったらもう「次は芥川賞」って言われんですむと思ったけど、そんな甘くなかったね。そして、ほぼ全員の方が記念撮影したのがやっぱり大阪でした(東京では2割ぐらいやった)。スマホを書店員の方が預かって撮影してくれるので、世の中にはこんなにいろんなスマホケースがあるのかー、とびっくりするくらい、みんな違う個性的なケースやった。
大阪も東京も、来ていただいたみなさま、本当にありがとうございました。
8月☆日
受賞して驚いたことベスト3は、
1、出身中学と高校に垂れ幕が出た。中学はもちろん黒川さんと並びで。
2、知らん人にサインした。市岡高校の先輩方に祝賀会をしてもらったのですが、隣の部屋で宴会してはった東京の高校の同窓会の人から「小松先生」宛にサインを求められました。小松先生、誰やろか。
3、クイズの問題になった。夏休みの風物詩「高校生クイズ」の第1問になりました。いやー、すごいね。受賞してわかったけど、世の人にとっては、紅白出場! みたいな感じなんやね。オリンピックとかなんやったらノーベル賞とかも、なんかとにかくテレビも出てるしすごいらしい、という。芥川賞っていうのは新人賞なので作家としてはですね、他にもいい賞はたくさんあって面白い小説もたくさんあるからこの賞だけそんなにお祭りみたいになってもですね、と、自分ではいろいろ思うところあっても、とにかく目の前の人にはよろこんでもらってるんやからありがたく、素直に受け取ったらいいんやなと、思えるようになりました。
そして、取材、取材の日々。本てラジオと相性がいいのか、ラジオ番組には本を紹介するコーナーがけっこうあっていくつか出演しました。取材を受けながらつくづく思ったのは、芸能人、偉い! わたしなんか1日5件あっただけでもかなりぐったりやのに、何10件もやるんやろ? ハリウッドスターなんか、分刻みで次々違う人が来てようわからんプレゼントとかもらっても笑顔で「ありがとう! とってもすてきだね!」とか言うんやろ? すごいね。後日、佐野史郎さんにお会いしたときにこの話したら、いちばん多いときは月200件! 取材があって、撮影の合間もごはん食べてるときもインタビューやったとか。ひゃー。
8月☆日
胡蝶蘭もいくつかいただきました。お祝いとかってなんでみんな胡蝶蘭なんやろ、高いし、って思ってたけど、もらってみてわかる、これ、めっちゃ日持ちするんやね。1カ月くらい全然しおれずに咲いてる。40歳にして学びました。
8月☆日
授賞式。4年前の野間文芸新人賞のときが初めていろんな人が来るパーティー形式の授賞式経験だったのですが(織田作之助賞と芸術選奨は関係者のみ、咲くやこの花賞は中央公会堂で公開形式でした)、そのときは勝手がわからず、家族と仕事関係の人だけ招待しました。でも、会場にはいろんな人来てはるし、なにより豪華料理がずらーっと並んでたので、うわー、こんな機会もうないかもしらへんのに友達呼べばよかった、と心残りやったので、今回は制限人数いっぱいまで来てもらいました。そして、「わたしは挨拶とかでまったくしゃべったりできへんと思うから、とにかく食べて! お鮨とか天ぷらとか目の前で作ってくれるし! ローストビーフ最高やし!」と宣言してたら、ほんまにめっちゃ食べてくれて(笑)、今回は心残りありません。だって、立食パーティーってだいたい料理余っててもったいないやん?
最後、しつこくみんなで記念写真撮ってるあいだ待ってくださった会場のみなさま、ほんとうにありがとうございました。
8月☆日
まだまだ取材。たいてい文藝春秋の社内で受けてたのですが、ときどき、写真撮影で裏にある公園へ行くことが。東京らしい高低差のある都心やのに大木が鬱蒼とした公園で、水辺もあるから蚊がすごい! わたしは普段から蚊にだけはなぜかモテモテで、何人かでおっても自分だけ刺されまくる体質やのに、蚊柱が立ってるようなとこで撮影したもんやから、5分で10カ所以上、顔も刺されたり(大阪弁は咬まれるって言うよね。これ、他のとこでは変て言われる)。そんなことが数回あったんですが、8月末になって、デング熱が! と騒動が。最初代々木公園だけやったのが範囲がだんだん広がって、その公園のすぐ近くの外壕公園でも感染者が出たとかニュースに出てて、えー、刺されまくったやん! ていうか、もう何日も経ってるからだいじょうぶそうやけど、デング熱騒動がもっと早くにわかってたら公園で撮影せんでよくてあんなに刺されんで済んだかもわからんのにー! この時期の屋外で撮影されてる写真で微妙な顔してるのを見たら、蚊に襲われてると思ってください。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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