第75回 カリフォルニア州縦断ツアー!
(引き続き思い出しよう知らんけど日記)
9月☆日
取材やらイベントやらが続く中、そろそろ原稿やら単行本の校正やらも増えてきて、忙しいの落ち着くかなーと思ってたら、全然、というか、種類の違う仕事を同時進行するのはかなりエネルギーいったり。
そして、『きょうのできごと、十年後』が発売になりました。小説の『きょうのできごと』からは実は10年経ってるってことで、10年前は映画の『きょうのできごと』なんですね。映画のキャラクターや設定に影響受けつつ、それぞれの10年間を想像しながら書くのは、難しいけどおもしろかった。
映画があることもあって、わたしの他の小説とはまた違った思い入れを持ってくれてる人がいっぱい。京都で刊行記念のイベントをしたのですが、ここでも『きょうのできごと』を読んで京都の大学に来ました、という方が。しかもまだ20歳! いやー、不思議な気分やけど、作家冥利に尽きますね。京都の人口増に貢献してんちゃうか。少なくともイメージよくしてると思う。『きょうのできごと』の登場人物は実は全員大阪人やねんけどね。大阪にも引っ越してきてほしいなー。
10月☆日
アメリカです! 2回目です! 初の西海岸です!
2年前にニューヨークに行ったのと同じく翻訳家の柴田元幸さんが編集長を務める『monkey business』英語版のプロモーションツアーです。
今回は、サンディエゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、とカリフォルニア州縦断。実は、春先にお話をいただいたときはサンフランシスコだけやってんけど、人からの依頼じゃないと旅行に行かないので、自費で南の二都市も行っていいですか、と聞いてみたら、じゃあ全部イベントに参加してください、となったのでした。賞の前も後も、忙しい真夏の日々も、アメリカに行くことを楽しみにして乗り切ってきたんです。
ニューヨークに比べると、飛行機めっちゃ楽。新しい機体やったし映画もいろいろ見れて(『イヴ・サンローラン』よかった!)、ロサンゼルス空港は雲一つない青空! と、思ったけど、この空港、LAX、めっちゃカオス。入国審査もさんざんあちこち行かされ並ばされた挙げ句、わたしの番が来たら係の人が「ランチ行ってくる」。えー! やっと抜け出たと思ったら、乗り継ぎターミナル1キロぐらい離れてるのに歩かされ、やっと着いた行列ではおばちゃんが「まじで! なにこの列! 乗られへんやん!」と叫んでるし(もちろん英語。でもこんなおばちゃん関空におりそう)、サンディエゴ行きの飛行機は今まで乗った中でいちばんちっちゃいしぼろぼろやし、すんごい不安になりましたが無事に到着。
そして、サンディエゴ。いきなり超リゾート、ビーチ目の前のホテル(イベントする大学に近いのでここになりました)。抜けるような青空、穏やかな海、舞い飛ぶかもめ。そのすぐ前のホテルでは、プールのある中庭で結婚式。あまりの別世界に現実感なし。
晩ご飯に街のほうへ出かけ、地ビール屋さんでハンバーガー。アメリカ、どうも地ビールが大流行らしく、ようさん種類がある。日本で流行ってるハイボールはどこにもなくて、こういう流行は局地的なもんなんか、それとも来年あたり日本でも地ビール大会な感じになるんか、どうなんやろ。
サマータイムなんで、ごはんが終わるころに夕暮れ(サマータイムは、日本でも是非やってほしい。明るいっていうだけで、楽しい気持ちになる)。崖の向こうは太平洋。すごいなー、こんなとこで暮らしてる人がおるんやなーと、感心しつつ、問題は、水とトイレなのだった。
ニューヨークでもとにかく困ったのは外をうろうろしてる時にトイレがないこと。危ないので、基本、駅とかコンビニとかにトイレがない。飲食店に入っていっとかなあかん。マンハッタンでもそうやったのに、ここはリゾート地。ファストフードの店もそうそうないし、電車もバスもほぼなくて、とにかく車で長距離移動。旅行先やしそもそも免許も持ってないわたしは誰かの車に乗せてもらわなどうしようもないねんけど、乗せてもろてる車から見回しても道路沿いに店らしい店もほとんどない。水も買わなあかんのに、ホテルの周りも夜は真っ暗。コンビニももちろんない。ホテルに売店もない。ホテルでもらった周辺地図に日用品売ってそうな店が書いてあったので暗闇の中(そんな遅い時間じゃないけど日が暮れたらすぐ真っ暗)びびりながらワンブロック先のその店に行ってみると、要するに海辺の売店。Tシャツやら水着やらサンオイルやらはやたらとあるけど、食料はやたら甘そうな炭酸とチョコバーの類、そして酒。朝ご飯になりそうなものはかろうじてチョコチップクッキーで、それとペットボトルの水を買ったら、レジには屈強なおっさんが3人も。ああ、外国に来たなあ、コンビニのない世界に来たなあ、と実感しつつ、このあと、毎日どこで水を調達するかが気になってしゃあない日々が続くのでした。
10月☆日
サンディエゴで行ってみたいところが特に思いつかず、メキシコ国境へ連れて行ってもらった。中心部から車で30分ぐらい。メキシコのティファナって街が隣接してる。日本にいると「国境」って見られへんから、そしてやっぱりアメリカ映画のイメージがあって(『ノーカントリー』とか)行ってみたかってんな、国境。高速道路から、山の斜面にびっしり家が建ち並んでるのが見えて、そこがメキシコ。
手前にはちょっとしたショッピングモール(日本の国道沿いにあるような、100均とかスニーカーショップとかが4、5軒くらい集まってる感じの)があり、土曜日なのもあって、メキシコから買い出しに来てる人がちらほら。ほんまはメキシコに行ってみたかったけど、行きはよいよい帰りは怖いで、アメリカに戻るときに足止めを食らうとその後のイベントに間に合わないということでぎりぎり入り口まで。想像してたんと違って、国境はまっすぐの線じゃなくて互いに食い込みあってるというか、フェンスに囲まれた狭い道を進んでいった先にようやく管理局建物の入り口がある。回転式の扉になってて中はうかがい知れず。途中の橋を渡るところで見えた車での入国待ちは長蛇の列やったので、あきらめて引き返す。中心部から来てる路面電車の駅周りはちょっと店があるものの、そんなにメキシコ感はなし。サンディエゴってもっと南米感あるんかなと思ってたけど、中心部のいかにも観光なレストランとおみやげ屋さんぐらいで、あとはリゾート&高級住宅地。『トップガン』の舞台になったとこやから軍港でもあって、意外に保守的な街らしい。たしかにヒスパニックの人も多いけどだいたい労働者で、ニューヨークに行ったときも思ったけど、階層・格差が目に見えるのは結構厳しい(日本は一見、見えにくくて、それはそれで問題あると思うけど)。
10月☆日
カリフォルニア大学サンディエゴ校でイベント。建物がみんなフューチャーでインダストリアル! 大阪万博の前年1969年開校やから、当時の未来観が全開のデザイン。それにしては、全然きれい。万博公園の建物がほとんど姿を消したというのに、ここの建物は当時のデザインのまま、まだ最先端な感じで使われてる。アメリカの建物は維持にお金も手間もかけてるのがよくわかる。海辺やから潮風で傷むと思うねんけどね。隣にはソーク研究所ていうルイス・カーンの名作もあるので、建築好きな人にはおすすめです。
そして肝心のイベント。今回は、古川日出男さんとサンディエゴ在住の伊藤比呂美さんがいっしょ。朗読や自分の書いてるものについて、日米の文化についての話を。その前に図書館(超絶かっこいい宇宙基地みたいな建物なので画像検索してみてください)に寄ったら、日本関係の資料(文学作品から各種統計や解説書)が日本の大学より充実してるんちゃう? って感じやって、当然学生さんも優秀&熱心。とても充実した時間でした。
10月☆日
ところで、渡航前に伊藤比呂美さんの本読んでたら、サンディエゴはユーカリだらけ、って書いてあって、ユーカリ? オーストラリアの植物やん? って思ったけどほんまにユーカリだらけやった。ということは、それって全部誰かが植えたんよね。メキシコ国境で見たメキシコ側の丘はほんま荒れ地って感じで、アメリカ側のリゾート感醸し出してる木々は人工的に植えたもんなんやなあ、と人間の力というか業というか、アメリカの豊かさというか業というか、風景を見てるだけで、思うことはいろいろあるね。
そして、サンディエゴは1年のほとんどが晴れってイメージで、実際そうやねんけど、4日滞在した結果、毎日晴れって飽きるな、と思った。
今回は現地に住んでる伊藤比呂美さんに生活に密着した話をうかがえたので、異国、異文化で暮らすのってどんな感じなんやろな、と今まで行った外国の街の中でいちばんリアルに考えた。
10月☆日
リゾートなサンディエゴをあとにして、ロサンゼルスへ。移動はあこがれのアムトラック! わーい。長距離列車ですね。1回乗ってみたかってんなー。駅がまた70年代フューチャーなデザインで、西海岸ていうのは70年代前後に盛り上がった、その当時の文化が色濃い土地なんやなーと。
アムトラック、2階建てで売店つきの特急列車。特急、と言いつつ、日本の列車に比べるとずいぶんのんびり。窓からは海岸が一望。その向こうは太平洋。ひたすらまっすぐいったら日本に着くはずやけど、やっぱり地続きじゃなくてどこでもドアでつながってる異世界みたいな気がするなあ。次の駅が近づくとアナウンスが入るんやけど、独特の節回しでほとんどなに言うてるかわからんし駅名もダミ声で「ァア~ナ~ハイッムゥ~」みたいな感じで、これって中川家礼二が真似してる総武線やん! 国は違っても鉄道アナウンスの心は通じてるんや! と感動しました。 そして2時間半くらいでロサンゼルスに到着(新幹線やったら1時間かからんそう)。そこでまた「まったく違う国」が待ち受けているのでした。つづく。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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