よう知らんけど日記

第80回 粟おこし、意外にええんちゃう?

2015.5.13 18:23

(引き続き思い出しよう知らんけど日記)

1月☆日
新刊の取材。2013年1月から約1年半かけて『群像』に連載していた『パノララ』です。これまでも連載はしたことあったけど一話完結型ばかりで、本格的に「以下次号!」な連載は初めてで、自分でもこの先どうなんねんやろ、と楽しみながら書きました。その分、どこに着地するかわからなかったんやけど、書いてよかったなと思える、そして読んだ人にじっくり楽しんでもらえる小説になったと思います。刊行のときのインタビューは、編集者や関係者以外では初めて感想をもらえる機会でもあって、記者さんライターさん、とても深く読み込んでくれはるので、自分でも気づいてなかったところ、無意識だったところがあらためて整理されたり、うまく説明できなかった部分も話せるようになったり、貴重な時間やなと思う。
この小説は、今までになく「人間関係」「家族」についてがっつり書いてて、でも「家族」の小説と聞いて思い浮かべるのとはたぶんだいぶ違った感じになってると思うので、ぜひ読んで、感想聞かせてください!

1月☆日
京都の恵文社でイベント。久しぶりに行ったら、雑貨スペースとかイベントスペースとか拡張してて、1ブロックまるごと恵文社みたいになってる。こんなお店が近くにあるってほんまええよなー、と、実は友達が店から見えるくらいのとこに引っ越したので具体的にうらやましい感じ。店長の堀部さんがトークの聞き手をつとめてくれて、初めてじっくりお話ししたんですが、わたしが小説に書いてきた観光地じゃなくて学生とかようわからん人がなんとなくおもろく過ごしてる京都でずっと暮らしてはる人というのもあって、通じるところ、読みとってもらえるところが多くて、楽しく話せました。去年関西でイベントやったときもそうやったんやけど、この日も『きょうのできごと』を読んで京都に引っ越した、京都の大学に進学した、ていう人が来てくれてて、しかも現役の大学生やったりするのよね。15年も前に書いた自分の小説がそんなふうに現実にちょっとした変化を起こしてるっていうのは、感動するし、妙な感じもするし、書いたものは自分の範囲を離れていくものなんやなあとも思う。

1月☆日
ちょっと前やけど、テレビのワイドショーで奈良ドリームランド跡地が廃墟になってるっていうのを紹介してた。閉園になったのは2006年だそうで、10年近く経ってるけど、遊具やら建物やらほぼそのまま放置されてる。土地の利用規制とか近所の反対とかあって、その後の利用がなかなか決まらんらしく、侵入したり荒らす人も来るという、日本のあちこちでよくある話が展開されてたのやけども。リポーターの女の人が植物に覆われたジェットコースターの前で「このように!ツタに覆われています!」と叫んでて、それは葛や! 蔦とちゃう! とテレビの前で盛大にツッコミを入れてしまいました。でもスタジオの人らも「ツタ」で話進めるし、気になるわたしとしてはものすごーく気色悪いままそのコーナーは終わってしまった。だって、葛と蔦、見た目全然ちゃうやん。ほんで葛は、繁殖力旺盛で、つるの力も強いから巻き付かれたものも破壊されるし、蔦が絡まって風情あるのとはちゃうのよ。

1月☆日
ところで大阪に帰るたびに買うてくるものが最近はだいたい決まってて、前にも書いた「自由軒カレー煎餅」と「りくろーおじさんのチーズケーキ」と「点天のひとくち餃子」と新幹線で食べるのは「中之島ビーフサンド」。「551蓬莱のぶたまん」は最近行列が長くて時間に余裕がないとあきらめてまうねんなー。新顔のお菓子もおいしそうなんが多くて、いろいろ買うてみるのやけど、そんな中で意外にええんちゃうん? と思ってるんが「粟おこし」。そう、大阪のおみやげお菓子の定番ながらずーっと地味な存在のあれですよ。大阪って、おみやげの名物ってあんまりなくて(京都の八ッ橋とか北海道のマルセイバターサンド的な定番がない。たこ焼きとかうどんとか持って帰られへん食べ物が多いからかなって気もする)、「粟おこし」は影薄いよなーって感じやってんけど、今あらためて見てみると昔ながらのパッケージはレトロでかわいいし、中身も粟に生姜味で、雑穀&生姜ブームの今、ロハス的なアレでもいけんちゃうのん!? と思ったりして。大阪に来られた際は、ぜひ食べてみてください。

2月☆日
昨年末にとうとうWOWOWに加入してしまいました……。これ以上テレビ見てどうすんねん、ていうか、これ以上見る時間ないやん、とずっと踏みとどまっていたのですが、ずっと前からおもしろそうなんばっかりで気になっていたWOWOWオリジナルドラマで見たいのがあり、思い切って入ってみました。実家にいるころは加入してた時期もあったんやけど、今はチャンネルは3つもあるし、オリジナルの番組が充実してて、いや、ほんま、これ以上テレビ見てどないすんねん、なんですけどね。
ほんで、WOWOWに入ったらあれが見たい、といちばん思ってたのは『エキサイトマッチ』なんですねえ。ボクシングです。格闘技の中では断然、スポーツ全般の中でもかなり、好きなんですよ、ボクシング。日本のボクサーも好きなんやけど、外国のボクサーって個性がありすぎというかとにかく濃い人が多くて、その強烈な人たちがひたすら殴り合うだけというシンプルな世界がいいんですよねー。とはいえ、『エキサイトマッチ』以外で外国のボクシングの動向を追うのは難しかったので、この10年くらいの選手がわからない浦島太郎状態。パッキャオの全盛期とか見たかったなあ。実家で見てた頃は、デ・ラ・ホーヤとチャベスがスターでした。チャベスは『ろくでなしBLUES』の原チャリの名前になってましたね。て、もう出す固有名詞がいちいち古くてすんません。『エキサイトマッチ』は、浜田剛史とジョー小泉の司会も相変わらずでなんか落ち着くなあ。今の選手、覚えようっと。

2月☆日
ところで、定期的に書いとかんとあれなんで書きますが、『よう知らんけど日記』は「日記風」の「エッセイ」です。日記ではなくて、ネタがあるときだけ書いてます。書いてないけど、ここに書いてない時間は仕事してます(仕事以外のこともしてるけど)。まあまあ忙しく働いております。ほんまですよ。
「日記」は子供のころから苦手で、1回もちゃんと書いたことがありません。が、最近、記憶がだんだん曖昧になってきたこともあって、日記なるものを書いてみようかなー、と性懲りもなく思ったり。3年日記とか5年日記とか同じページに違う年の同じ日付のがかけるのんとかいいかなあ。でもたぶん三日坊主なんわかってるしなあ。でももしかしたら書けるかもわからんし。と、行ったり来たりしてます。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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