第81回 40代になって思うこと。
(引き続き思い出しよう知らんけど日記)
2月☆日
京都に大雪やったり関西は寒い話をよう聞きますが、今年の東京はあんまり寒くないように思う。去年は毎日水滴がたまって大変やった窓も結露してないし、コートもダウンじゃなくてもあんまり寒くない日が多い。雪も積もらないまま春になりそう。寒いのんつらいし、去年みたいな大雪も困るけど、1回くらいは雪が積もったほうが「冬」を実感してすっきり春を迎えられそうな気もする。そうそう、今年はこたつも出さんと乗り切ってるもんね。
2月☆日
駒場にある日本近代文学館で「声のライブラリー」というイベントに出演。このイベントは伊藤比呂美さんが出演者の選定と司会をしてて、毎回2人のゲストが朗読をしてそのあと対談をする。去年、カリフォルニアでご一緒したときに伊藤さんに声をかけていただいて出演することになりました。朗読では『ここで、ここで』(『わたしがいなかった街で』に入ってる短編。なみはや大橋が出てきます)の一部を読んだのですが、20分しっかり朗読したのを録画して、声のライブラリーとして近代文学館に保存されるそうです。そして対談のお相手は宗教学者の山折哲雄さん。テーマはズバリ「死」やってんけど、伊藤比呂美さんのざくざく斬り込む質問力と、80歳を超えられて「寝るのと死ぬのが近くなってきた」「ごはん食べてる途中に寝てしまってしばらくして目が覚めて、まだ生きてた、と思う」とおっしゃる山折さんのお話がとってもおもしろくて、未知の世界の扉が開いたような感じでした。
2月☆日
芥川賞&直木賞の贈呈式。今回は芥川賞が以前ニューヨークツアーでご一緒した小野正嗣さん、直木賞がよう遊んでもらってる西加奈子さんで、わたしにとっては個人的にもうれしい授賞式でした。小野さんも西さんも、文学に対する深い愛と作家として書いていくことの覚悟をスピーチで語ってて、とても勇気づけられた。その場にいた作家の友人たちもみんな、がんばろうと思ったよね、いいスピーチやったね、と言い合って、東京に住むようになってから作家の友人が増えたのはほんまによかったなと思った。小野さんから取材など忙しい日々を過ごしてるお話をうかがって、半年前の自分の状況を思い出し、これですっかり受賞にまつわる慌ただしさはバトンタッチやなあ、やっと落ち着いた気持ちになりました。
2月☆日
近所のスーパーのパン売場。おばちゃんがを食パンをふにふに握ってる。ときどき、売場の果物なんかをつついてはって「やめんかい!」ってつっこみそうになる感じの人おるけど、おばちゃんはさらに端から順に食パンを握っては置き、握っては置き……。売場中にあるパンを握るんちゃうかと思うほど、ふにふにふにふに、ちょっと、なんぼなんでもそれはあかんやろ。しかも買えへんかったし。でもふにふにが好きでやってるって感じでもなく、険しい顔で「不合格」感にじみ出させてたし。なんなんや……。
2月☆日
40代になって1年とちょっと。世間的には、女の人って29歳がクローズアップされてるというか、結婚やらなんやら人生の岐路的なアレでテレビドラマのネタになったりもしてきたけど、通過してきた経験者としては、29と30、31歳あたりは、特に変わらん。変わらんすぎて、なーんや、と拍子抜けする感じやった。違いがあるのはむしろ、断然、39と40歳やと思う。とにかく体力衰えるしさー、40ってもう人生折り返し地点やし、30代は20代の延長やけど、40は新たな世界突入やってひしひし感じる。いろいろ変わるよー、とアナウンスしたくなるね。体力体型的なこともあるし(おお、こんなところに肉がつくんや!とか)、考え方や人生観みたいなことでもあるし、ざっくり言うと「ほんまに自分も年取るんやな」ってことなんやけど、嫌とか焦るとかじゃなくて、どちらかというと「ほうほう!」と感心する感じ。ほんでそれを20代、30代の人に、何年かしたらこういうふうに変わるから、あれこれやっといたほうがええよ、それはたいして心配せんでええよ、と言いたくなるねんけど、でも自分も実際なってみて心からわかるって感じになったのであって、たとえば10年前に聞かされててもぴんと来てなかっただけやろな、とも思う。
30になったときはめっちゃ楽しいやん! て思ってて、40はそういうアッパーな感じではないけど、なんか今までと違うことが経験できそうな不思議な感覚がある。ちょっと前に書いた山折哲雄さんみたいな境地に至るのはまだまだやけど、ここから80代のそこまで道がつながってるのかな、ってなんとなく感じる。
3月☆日
こないだ行ったのにまた行ったんかい、ロサンゼルス編です。2014年10月に柴田元幸さん主催で「モンキーカリフォルニアツアー」に行った際、柴田さんがUCLAで2か月ほど授業をされると聞きつけ、そのときに遊びに行っていいですか! とすかさず言ってみたのでした。だって、何回も書いてますが、わたしは自力じゃ旅行できないので、こういうきっかけは逃さないようにしなければ(実際、準備をしてた出発1週間~3日ぐらい前には「もう行くのやめよかな」と何回も思った)。
そして寒い日本を離れてやってきました、ロサンゼルスの青い空! 実は一人で海外に行くのも初めてやってんけど(一人で帰ってきたことはある)、無事にカオスなロサンゼルス国際空港も乗り切り、お昼にはホテルに到着。前回は、UCLA周辺と美術館2コしか行けなくて、ロサンゼルスっぽいロサンゼルスを体験しないままだったので、今度こそ、と早速バスを乗り継いで行きましたよ、サンタモニカ! ビーチ! 太平洋! 海沿いの遊歩道を歩いていくと、見えてきたのは桟橋の遊園地! 映画で見かけるやつやん! 殺人犯とか逃げてパニックになる感じのとこやん! わーい! ということで、とりあえずパノラマ写真を撮る。そこにいるのはみーんな観光客で、微妙なおみやげ物の屋台が並んで、あー観光地てどこの国でもおんなじ雰囲気やね、と思いつつ、ばーんと開けた海に落ちる夕日がきれいで気分があがる。海近くのショッピングなストリートに行くと、ブランド店が並び、おしゃれなレストランがあり、ああこれこれ、思ってたロサンゼルス! ベルトを持ってくんの忘れたことに気づいてGAPでベルトを買うという「こんな遠いとこまで来て、日本と一緒やん」な行動をしただけで、バスに乗ってホテルに戻る。翌日は、夕方に同じくバスを乗り継いでハリウッドへ。街外れというか山のほうにあって思ってたより規模がちっちゃいけど、道にはスターのプレートが並び、アカデミー賞の会場があり、そしてやっぱり微妙なおみやげ物屋がようさんあってザ・観光地。30分ほどうろうろしただけやけど、それでも、人が集まってにぎやかなところっていうのは基本好きで、なにをするでもないけど楽しかった。でも暗くなってから乗ったバスは、酒瓶を握ってなんかしゃべりつづけるにいちゃんが乗ってたり、乗りかえのバス停で降りたら見渡す限り歩いてる人はいなくて(まだ7時やのに真っ暗! 店も閉まってる!)、やっぱりロサンゼルスは不条理で悪夢感あるなあ、と、二度目のLA滞在が始まったのでした。続く。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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