よう知らんけど日記

第82回 またしても「水をどこで買うねん問題」勃発!

2015.6.12 12:01

(引き続き思い出しよう知らんけど日記)

3月☆日
ロサンゼルスふたたび編つづき。
ハリウッドにちょこっと行って、酔っぱらいのにいちゃんがつぶやき続けるバスに乗って向かった先は、メルローズにあるこぢんまりした劇場。映画監督のジェイソン・ライトマン(『サンキュー・スモーキング』とか『ヤング≒アダルト』とか、好きな監督です)が主催する「Literary Death Match」てイベントに。詩を朗読する人が2人ずつ出てきて、トーナメント形式で進む。審査員がジェイソン・ライトマンとコメディアンや俳優という男1、女2。会場は古い劇場で手前にバーがあってええ感じのとこで、お客さんは満員。詩の朗読が始まって、2人目ぐらいから盛り上がってきて、会場は爆笑(早口なこともあってわたしは所々単語がわかる程度なので、雰囲気を楽しむのみ……。なぜか最前列やったのに!)。審査コメントは、たぶん、おもしろく、鋭く、アイロニカルに。2戦目に出てきた人は、黒人の男性が黒人の微妙な差別あるあるネタ、60歳くらいの女性がバービーを題材にしたジェンダー&下ネタで、わたしの隣の席の兄ちゃんなんかほんま「腹抱える」状態。最後は、お客さんが参加してのお絵かき映画当てクイズがあったり、楽しいイベントでした。日本やと「文学」っていうとまじめに構えなあかん感があるのか、笑いとなかなか結びつきにくいねんけど、こんなふうに笑って、でもその中に心に刺さる表現とか熱量があって、それで小説や詩が楽しめるってええなあ、わたしもそんなイベントをやっていきたい、と思いました。
通りの向かいにあったストリップ小屋が『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』に出てくるとこそっくりで、おおーっ、となりました。

3月☆日
柴田元幸さんご夫妻と合流してユダヤ料理の名店に。名店といっても、昔からある庶民的な店やねんけど、歴代大統領やら野球選手やらの記念写真があちこちに。なじみのないユダヤ料理、メニュー見ても全然わからんのでユダヤ系の作家さんのおすすめを頼む。魚のすり身団子(ソフトボールサイズ)がどーんと入ったスープとか薫製の白身魚をベーグルにはさんで食べるのとか、色が全体に茶色~黄色のグラデーションで地味やけど、なかなかおいしかった。何回か食べたら癖になる感じの味やな。
夜は日本財団のロサンゼルス事務所に併設の会場でイベント。日本文学の現在について柴田元幸さんとお話ししたあと、朗読。日本語で読んで、スクリーンに英訳を映す方式。『ビリジアン』に入ってる『ピーターとジャニス』。阪急電車でピーター・ジャクソンて名乗る外国人に話しかけられる話で、アメリカの人はどう感じはるやろ、とちょっと不安なところもあってんけど、日系の人や日本に滞在してた経験のある人が多いこともあって、たびたび笑いが起きて、へえー、そんなとこがおもしろいんや、と反応を感じながら読めた。ニューヨークでもカリフォルニアでもアメリカのお客さんの反応はストレートで、いつもすごく受けるというわけじゃないけど、特に笑いが起きるとうれしいし、読みやすい。イベント後にお客さんと話したけど、韓国人の方が韓国訳の『その街の今は』を持ってきてくれてたり、大阪に住んでた人がいてたり、日本に興味を持った理由も人それぞれで、とてもおもしろかったです。

3月☆日
UCLAの大学院へ。日本文学の研究者で源氏物語や現代日本小説の英訳もようさんしてはるマイケル・エメリックさんのクラスで柴田元幸さんが日本における翻訳文学の授業をしてはるところに、ゲストスピーカーとして参加させていただく。話の流れで、一人称の翻訳で「おれ」と「ぼく」だとかなり印象が違う、どう選ぶか、て話になったら、学生の一人が、大島渚の映画における「おれ」の政治性について意見を述べてくれたり、なんの研究してるんですか? って聞いたら、『万葉集』『蜻蛉日記』『フランス語訳の源氏物語』などと返事が返ってきて、日本で普段接する人(わたしも含めて)より日本語&日本文化をよう知ってはる。そんなわけでわたしもずっと日本語で話しても問題なし。授業にはほかの大学からきた学部生が2人ほどいててんけど、彼らは大学院への進学予定者で、うちの大学院に来てほしい、という学生に交通費・宿泊費を負担して見学に来てもらってんねんて! このあと◎◎大と△△大に行って……と言うてはって、そうかー、アメリカは優秀な学生もようさんおるし、大学間での競争がシビアに激しいんやなと、理系だけじゃなくて文系でもこんなに熱心に学生を教育して研究を充実させてるのやなと、驚くというか愕然とするというか。それくらいやらないと、世界でやっていく大学のレベルは保たれへんのやろな。

3月☆日 つづき
日系のスーパーマーケットやスシ、和食のお店が集まってる一角のちょっと変わったお店で晩ごはん。西海岸は創作料理なお店が多いような。イタリアンやナチュラル系をベースにしつつ、ここはお店の人の出身地なのかチェコのパンがあった。このあたりは、ダウンタウンのリトル・トーキョーに対して「リトル・オオサカ」と呼ばれてるらしい。西にあるから? リトル・トーキョーよりちっちゃいから? と由来はようわからんかったけど。 それにしても、ロサンゼルスという街は中心と呼べる場所がなく、密度が薄い。だだっぴろーい、どこまでも続く住宅街の中に、いくつか店が集まった場所が断続的に現れる。にぎやかな場所もないけど、どこまでも家がある。多少店があるとこでも、隣の店と距離があって、暗いなかにぽつんとあるとこに車で行く。みんな車やから停めるとこが埋まってて、探してやっと停めれたとこから歩いてると、人の気配が薄すぎて不安になる。アメリカからSNSが次々生まれてくるんは、物理的に人との距離が遠いからかなと思う。

わたしはいかにもアジア的人口密度濃すぎのとこで育ったから寂しく感じるけど、もしかしたら日本でも車生活が基本の土地の人のほうが、ロサンゼルスにはなじめるかのも。
ところで、日系のスーパーでメジャーなチェーンが「ニジヤ」というのですが「NIJIYA」の看板見て「ニンジャ」と読み間違いしてて、アメリカってほんまニンジャ好きなんやなー、と思ってました。

3月☆日
去年の10月にロサンゼルス滞在の最終日にカウンティ美術館(LACMA)に行って、あまりの充実ぶりにLA美術館巡りリベンジを誓ったのですが、早々に実現の日となりました。前回のイベントに来てくださってた現地の日本人向けコミュニティ誌の編集者さんが車で案内してくれるという、この上ない条件でスタートしました。

まずは日系人博物館へ。明治維新前後の最初の日本からの移民、ハワイへの移民と、生活道具や証書などが展示されているのを、ボランティアのガイドさんの解説を聞きながらまわる。この博物館で大きく場所を占めているのは戦時中の強制収容の歴史。真珠湾攻撃のあと、突然、ここから西に住んでる日系人は来週から移住するか収容所に行くかしなさい、てなったみたいで、その混乱や恐怖、苦悩、実際の厳しい暮らしを目の当たりにして、言葉もない。砂漠の真ん中の板張りの隙間だらけの建物が再現されてたり、砂だらけの生活道具が展示されてたり、なにより写真が残ってる収容所行きのバスが出発した場所が、博物館の向かいにそのまま残ってるので確かな事実として迫ってくる。この日はたまたま、収容所で実際に暮らしてた方が来られてて、直接お話もうかがうことができました。強制収容で日系人が受けた傷は大きくて、そのこと自体を公に話せるようになったのは戦後40年くらい経ってから。収容対象にならなかった東海岸の日系人は日本語を使い続けてる人が多いのに比べて、西海岸の日系の家庭では戦後極力日本語を話さないようにしたらしく、それ以後に育った人は日本語がほとんど話せない。それでリトル・トーキョーも、チャイナ・タウンやコリアン・タウンに比べて、規模も小さいし「日本」な雰囲気ほとんどないのやなあ、と。テレビのドキュメンタリーを見たことがあったけど、断然リアリティを持って実感することになりました。
それにしても、100年以上前にこんな遠い海の果てに移住するってどんな気持ちやったんやろと思わずにはいられない。今、飛行機で10時間でさくっと来れても、こんなに遠くて別の世界って感じやのに。便利になって情報が多くなった分、冒険できへんようになってるのかなって気もする。

3月☆日
ところで、去年も苦労した「水をどこで買うねん」問題、今回もやっぱり困りました。日本にいる間にホテルのサイト見たら結構充実してそうな売店があったのでだいじょうぶかと思ってたら、水(700mlくらい)がなんと5ドル! それはないわ! 最初、部屋にも置いてあったからうっかり飲んでもうたらふたに「5$」のシールが! 諸事情で周りになーんもないとこのホテルやったので、初日にスーパーで多少買い出ししてんけど、結局その時に買ったパンとクッキーをちょっとずつ食べるという、前回と似たような生活に。ホテルのレストラン、めっちゃおいしいねんけど、ランチにちょっと食べたら円安のせいもあって3,000円近くに……。コンビニ~、コンビニ~、と恨めしくつぶやく日々でありました。
というわけで、ロサンゼルス編、豪華美術館、謎の博物館など、もうちょい続きます。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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